岐阜県・高山市《界 奥飛騨》
奥飛騨旅の新拠点!飛騨の木工デザインに包まれる滞在【前編】


2024年9月、北アルプスの山々に囲まれた奥飛騨温泉郷に、星野リゾートの温泉旅館「界 奥飛騨」が開業した。木工をはじめとする飛騨の伝統工芸に触れながら、山岳温泉ならではの湯を堪能できる。飛騨の木工デザインに包まれる、奥飛騨旅の新拠点とは?
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館内随所で出合う奥飛騨の文化

デイベッド付きの露天風呂から北アルプスの山々を望む
日本列島のほぼ中央に位置する奥飛騨温泉郷は、槍ヶ岳、穂高連峰、乗鞍岳など岐阜の3000m級の名峰に囲まれた山岳温泉。5つの温泉地からなり、源泉は100以上もある。湯量(自噴)は草津、別府に次ぐ国内第3位と豊富で、源泉の温度は平均60℃、最高98℃と高温なのが特徴だ。

乗鞍岳のふもと、「界 奥飛騨」がある平湯温泉は奥飛騨温泉郷の中で最も大きく、飛騨に攻め入った武田信玄の軍勢が老いた白猿に導かれ、温泉で疲れを癒したとの逸話が残る。
町を流れる小川や水路に温泉が流れ込み、心地いい水音を立てる。上高地や高山旧市街といった観光スポットが近く、東京・新宿とは直行バスがつなぎ、京都や北陸へのアクセスもいいことから、日本の旅の中継地点として海外の旅行者にも人気だ。

界 奥飛騨はかつて公共浴場だったこともあり、外に開かれた空間なのが印象的だ。足湯で寛げる中庭を中心に、東と西の客室棟、湯小屋棟、離れの4つの棟からなり、それぞれを「辻」がつなぐ。
日本では人が集う空間として、広場ではなく辻、つまり十字路がその役割を果たしてきた。辻を行き来することで奥飛騨の豊かな自然に抱かれる一方、建物内は、飛騨の伝統工芸を随所に取り入れたスタイリッシュな空間に。自然と人の手によるモダンデザイン、そのメリハリが心地よい。

本館1階のフロントは飛騨の自然をデザインに落とし込んだ空間。カウンターに続く一本道や天井にちりばめた板は飛騨に自生する木を使用。カウンターの土壁は山の稜線を思わせたり滝壺に見えたり。正面の白いタイルは水の流れを、両サイドのソファは岩を模している
飛騨は木工の産地という顔ももつ。森林資源に恵まれ、木工の技を磨いていった職人集団は「飛騨の匠」と呼ばれるが、飛騨の匠とはもともと、奈良時代に税を納める代わりに木工職人の派遣を義務づけた制度をいう。
彼らは奈良を代表する神社仏閣の建立にかかわり、平安時代は京の都の造営に携わる。故郷に戻ると、都でさらに高めた建築技術と新しい文化を地元にもたらした。それらは民家や家具、高山祭の屋台などに及び、いまに受け継がれている。

トラベルライブラリーがある離れでも飛騨の木工を感じる。ブナ、桜、ナラ、タモといった地元の木をランダムに配置し、山の木が木工芸として新たな命を宿す。
そんなわけで建物内の至るところに木工デザインがあしらわれている。客室に入るとまず目に飛び込んでくるのが、飛騨木工の伝統の技「曲木」をイメージしたヘッドボードだろう。そばには曲木の椅子が置かれている。
トラベルライブラリーには飛騨の森を思わせるデザイン壁が。地域の文化を体験できる「ご当地楽」では、実際に曲木を体験できる。


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保湿効果を実感する身体を癒す温泉

天井がぽっかりと開いた露天風呂は、豪雪地帯ならではの雪の壁に着想を得たデザイン。外の景色を眺めるのではなく、雪の壁に包まれて内にこもる心地よさを体感できる。湯に浸かると空とつながるようで、朝夕は雲の流れを、晴れた夜は月や星を愉しめる
さて、温泉はといえば、泉質は中性で、天然の保湿成分であるメタケイ酸と殺菌効果が高いメタホウ酸を多く含む。塩分があるので身体を芯から温め、塩の膜ができるような感覚で保湿効果を実感する。
あつ湯とぬる湯で温浴効果が高まり、雪の回廊をモチーフにした露天風呂は瞑想空間のよう。平湯温泉には泉質の異なる40ほどの源泉があり、外湯めぐりの後に浸かる治し湯としてもちょうどいい。

大浴場の内風呂は、源泉かけ流しのあつ湯、ゆったりと浸かれるぬる湯がある。交互に浸かることで温浴効果が高まり、自律神経が整って心身ともにすっきり。天井の棒状のライトが流れ星のよう

宿の中心に位置する中庭。そばには源泉かけ流しの足湯がある。ここで朝の体操や、地元の温泉を知る温泉講座などが開催される。平湯温泉には地元の人も観光客も自由に入れる共同足湯がいくつもあり、すぐ隣にある足湯でも源泉が異なるため、泉質がまったく違う

夕方、足湯に浸かりながら参加できる温泉いろは。奥飛騨温泉郷の湯量の豊富さ、活火山温泉の特徴などをわかりやすく伝えてくれる。講座の後は、老舗土産店のすぐ隣にある源泉までぶらり歩き。湯だめに浸かっているのは名物の「はんたい玉子」。65~70℃の温度帯を利用した、「白身が柔らかく黄身が固い」卵をいただける
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郷土食やご当地楽をご紹介!
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text: Yukie Masumoto photo: Atsushi Yamahira
2025年2月号「温泉のチカラ」