日本の木の文化
その歴史から、未来を探る
|日本建築の文化を育んだ大工道具
日本における木の文化は、どのように発展してきたのか? 先人の知恵や奮闘から、木との未来のヒントを探っていこう。
今回は、日本独自の木の文化を生み出してきた大工道具について解説する。
加工技術と大工道具の進化が生んだ
精緻な木の文化
日本の木の文化を支えてきた大工道具。手作業で使う大工道具には、繊維方向に割れやすいという木の特徴に合わせ、切る、斫る(はつる)、穿つ(うがつ)、削るという加工方法がある。それぞれの加工に応じてオノ(ヨキ)、ノコ、チョウナ、ノミ、カンナが用いられた。また彫刻を凝らした墨壺など、道具そのものにも、職人の魂が込もる。
道具の形状や使い方は世界各地で異なり、それぞれの文化に根ざしている。たとえばノコギリやカンナを押して使うところもあれば、引くところもあり、地域性がある。
大工道具の基本構成は古代から大きくは変化しないものの、中世以降に用いられるダイガンナや縦方向に挽く縦挽鋸(たてびきのこぎり)は、日本建築の加工精度を著しく上昇させた画期的な道具である。縦挽鋸の登場以前には、ノミによる打割製材が行われていた。木目の通るヒノキ・スギなどは打割製材に適していたが、ケヤキなどの堅木は加工が困難であった。
日本建築の精度を表すものとして、襖や障子のような引き戸がある。ちなみに中国や朝鮮半島の伝統建築ではほとんどが開き戸だが、引き戸は上下の鴨居と敷居の間隔、建具の厚みと溝の幅が正確でなければ戸はうまく動かず、高い施工精度が求められる。鴨居や敷居の溝を彫る専用のカンナなど、特殊な道具もつくられた。精緻な建築を支えたのが大工道具であり、日本建築の文化を育んできたのだ。
その精緻さは木と木を接合するための継手(つぎて)や仕口(しぐち)にも顕著である。古代の継手・仕口は単純、それほど精緻ではなかったが、加工技術が上昇してくると、精巧な細工が可能になり、他国には見られないほど、複雑なものがつくり出された。継手・仕口は見えない部分ではあるが、ここにも日本の木の文化や職人の粋が詰まっている。
大工道具の価値は精緻さを生み出すだけではない。茶室や数寄屋などではチョウナ斫りやヨキなぐりなど、荒々しい加工にあえて価値を見出した。加工技術と大工道具の発展が精緻で美しい日本建築をつくり上げると同時に、正統な精緻さとは対極にある、崩した荒々しさをも価値に取り込み、独自の木の文化を生み出したのだ。
line
≫次の記事を読む
text: Satoshi Unno
撮影協力=竹中大工道具館
Discover Japan 2024年9月号「木と暮らす」