日本の木の文化
その歴史から、未来を探る
|適材適所の活用法
日本における木の文化は、どのように発展してきたのか? 先人の知恵や奮闘から、木との未来のヒントを探っていこう。
今回は、日本人がいかに木を深く理解し、うまく活用してきたかを紹介する。
適材適所!どんな木を活用してきた?
日本の木と聞いて、どのような木を思い浮かべるだろうか。満開のサクラや深紅に染まったモミジ、あるいは風になびくイチョウやケヤキの並木か。木々は時季や場所ごとに異なる表情を見せる。こうした立木は我々の環境を豊かにしてくれる。そして箸、椀、家具など、身の回りには木から生みだされた製品があふれている。これらは木を深く理解し、うまく利用した人々の知の結晶である。
日本列島を見渡せば、温暖湿潤で豊かな環境のおかげで、多様な木がある。広葉樹のケヤキやクスノキなどは横に広がった樹形で、比較的暖かい地域に生育している。針葉樹のヒノキ、スギ、マツなどは垂直方向に幹がまっすぐ伸び、寒い地域に広がっている。特に日本の固有種のヒノキやスギは加工も容易で、人と歩みをともにし、木の文化を支えてきた。
古来、日本人は樹種の特性に合わせて木を使い分けてきた。『日本書紀』にはスギとクスノキは舟、ヒノキは宮殿(建築)に、マキは棺と使い分けが記され、古代人の木に対する深い知見が見える。ヒノキは比較的強く粘りがあり、建築に適した良材で、現代でも住宅や風呂でも総檜造と表現されるほど珍重されている。耐水性の高いコウヤマキは地中に埋まる掘立柱や雨の当たる屋根部分の材へ。堅いケヤキは荷重のかかる部分。腐りにくいクリは土台。建築には不向きだが、キリの軽く透湿性・通気性の高い性質は箪笥として好まれた。風呂桶には耐久性や抗菌性のあるヒノキやサワラ。日本酒樽には、酸化作用や香りの付加で、酒の味をよくするスギ。長所を生かし、それぞれ活躍している。
良質の木材を入手できた環境と木に対する深い理解が日本の木の文化を育んできたのである。
木目へのこだわりもある。同じ木であっても、切断面によって、板目(いため)・柾目(まさめ)という木目の違いが生まれる。柾目は木の芯から放射方向の断面で、一定の吸水性があり、繊維が縦方向に見え、意匠的に好まれる。柾目と直交する板目は耐水性が高い。酒や醤油の醸造・貯蔵の樽には水の染み出しや蒸発を防ぐ板目の板。対して適度な水分吸収を必要とする寿司桶には、柾目板の側板。木目の特徴も理解し、使い分けているのだ。
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監修・文=海野 聡(うんの さとし)
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 准教授。専門は日本建築史・文化財保存。現存する建築や文献史料・発掘遺構を元に、日本の建築の歴史を研究。『森と木と建築の日本史』(岩波書店)など著書多数
text: Satoshi Unno
撮影協力=竹中大工道具館
Discover Japan 2024年9月号「木と暮らす」