日本の木の文化
その歴史から、未来を探る
|木と信仰
日本における木の文化は、どのように発展してきたのか? 先人の知恵や奮闘から、木との未来のヒントを探っていこう。
今回は、日本における木と信仰の密接な関係をひもとく。
日本の精神性も木に由来
木には生命が宿っている。とりわけ巨木に対する自然信仰は、日本文化の形成の一端を担っている。
木への信仰は世界各地にあるが、特に日本においては、木と信仰の関係が密接である。日本では自然物を神格化することもあり、木もその対象で、依代として霊が宿り、木自体も神聖性を帯びる。御神木のような巨木に、人知を超えた生命力を見出し、神々しさを感じたのであろう。
木への畏敬は立木の状態だけではなく、その生命をいただき、人間が利用する際にも顔をのぞかせる。伐採時の切り株に酒や塩などを供えて山の神に祈る儀礼には、敬意と感謝が込められている。立木を伐採して木材となるまでの過程にも山や木への人々の想いが込められ、信仰は受け継がれる。
また木を育む山にも感謝の念を込めた。伊勢神宮の式年遷宮における山口祭は象徴的で、御用材を伐り出すにあたって、御杣山(みそまやま)の山の口の神へ、伐採と搬出の安全を祈るのだ。
これらの儀式に見えるように、日本人にとって木は単なる物質ではなく、精神性を帯びた特別な存在であった。
この木に対する強い信仰は樹種の選択にも見える。通常の建物や道具であれば、強度や色みなどの実利的側面が重視されるが、仏像では木そのものへの強い想いが紡がれている。
木造仏像の樹種は、ビャクダンとするように経典に記されている。ビャクダンはインド・ジャワなどに見られる芳香性の高い香木で、日本には自生しない。そのため、渡来仏にはビャクダンが多いが、日本でつくられた仏像では、同じく香木であるクスノキ、あるいはカヤで代用された。この樹種へのこだわりも木と信仰の深い関係を示している。
木と信仰のつながりは樹種に限ったものではない。本尊の造仏の際に、同じ木の端木から特別な小持仏をつくることもあった。同じ木から生み出されたふたつの仏像に観念的なつながりを求めて……。
木々に対する造詣と信仰の歴史を知ることで、日本人の木にまつわる営みや想いが浮かび上がってくるのだ。
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text: Satoshi Unno
撮影協力=竹中大工道具館
Discover Japan 2024年9月号「木と暮らす」