《田谷漆器店》
輪島塗をカジュアルに!いまの暮らしに合うデザインと使い心地
日本を代表する伝統工芸品「輪島塗」。その伝統的な製法を守りながら、時代に合わせた販路開拓や商品開発を行ってきた石川県輪島市の「田谷漆器店」。2024年1月の能登半島地震で大きな被害を受けながらも、輪島塗の新しい未来を描き“創造的復興”へ向けて進んでいる。
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伝統製法を守りつつ、販売やデザインは革新的に
1977年に漆器産地として国の重要無形文化財に指定された輪島塗。分業制も特徴のひとつだが、田谷漆器店は製品の企画・開発から製造までを統括する「塗師屋(ぬしや)」を担う。
「現在は親子三代がともに働いています。先々代の田谷勤は料亭や百貨店への販路を開拓し、先代の昭宏は文化財の修復の道筋を開き、建築素材などへも用途を広げました。現在代表の昂大は海外への販路拡大や、販売会社『The Three Arrows』を立ち上げ、新規事業を積極的に行っています」と、同社広報担当者。
輪島塗を使って食事できる飲食店「CRAFEAT」(石川県金沢市)の運営や、クラウドファンディングでの新商品の先行販売、全国の伝統工芸品レンタルサービスなど多岐に渡りこれまでの輪島塗にない事業を展開。その根底には“輪島塗を今の暮らしの中に根付かせたい”という強い想いがある。
天然素材100%のカジュアルなキッチンツールも開発
漆器の魅力を感じてもらえるような新商品も開発。そのひとつが「拭漆料理ベラ」だ。
「元になったのは、輪島塗の職人が漆器の下地塗作業に使うヘラ。先々代の女将が軽くて扱いやすいからと料理に愛用していたものを、昂大が商品化しました」
輪島塗にも使われる能登ヒバを使い、漆を塗って拭く工程を三度繰り返す「拭き漆」仕上げに。軽量で抗菌性の高いヒバを、漆によってさらに抗菌性を高め耐久性や防水性もプラス。鍋底によくなじむ丸みを帯びた形状とした。
「匂いや色移りの心配がほぼなく、トマトソースなど色の濃い料理もOK。日本、アメリカ、台湾でクラウドファンディング販売しましたが、職人の道具という開発秘話と品質が評価され、目標を大きく上回る人気に」
体への影響や環境負荷が少ないオール天然素材であることも人気の秘訣。好評を受け、拭き漆のまな板などもシリーズ展開している。
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いまの暮らしに合う輪島塗の新しいスタイルを
軽くて熱を伝えにくく、口当たり滑らかな輪島塗。田谷漆器店では、はじめての輪島塗にふさわしいうつわも揃う。「蒔絵や沈金など装飾が施された輪島塗はどうしても高額となってしまうため、まずは日常使いのうつわで使いやすさを知っていただけたら」。
古典蒔絵の文様を現代的に描いたぐい呑み「魚泳グ」や、子どもにも使いやすいサイズの丸みのあるお椀「手のひら」など、昂大さんのアイデアで生まれた新しいデザインの商品も。「『日本昔話』も代表が開発。塗り物のお重を使う場面が少なくなっている中で、お正月だけではなく年間を通して使っていただけるよう、蓋を付け替えて衣替えできるお重をつくりました」
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地震を乗り越えて、さらに強い輪島塗へ
能登半島地震で甚大な被害を被った輪島塗の現場。田谷漆器店も家族や社員は無事だったが、事務所や工房が全壊するなどの壊滅的な被害を受けた。しかし昂大さんは動ける者からできることをと、早い段階からクラウドファンディングで輪島塗への支援を募り、復興への歩みを進めてきた。
「田谷漆器店の全員で復活したい。でも自社だけ生き残るのでは意味がなく、輪島塗業界全体が復活することが大切だし、立ち直った輪島塗を復興のシンボルにしたい。それが代表の想いです。多くのご支援に感謝しつつ、復活していく姿をお見せすることでご恩返ししていけたら」
まずは拭漆料理ベラなどの商品から3月中の製造再開が目標。「お届けまでに約1年かかるかもしれない状況ですが、たくさんの予約ご注文をいただき励みになっています。地震というきっかけですが輪島塗が注目されている今、初めての方にも元々ご存知の方にも魅力を伝える取り組みを進めて、さらに強い輪島塗へと“創造的復興”したいです」
ハレの日のイメージがある輪島塗だが、機能性が高く、修理すれば半永久的に使えるのも魅力。漆のよさを知る入口としては拭き漆シリーズも気軽だ。輪島塗の復興を祈りながら、未来を楽しみにオーダーしたい。
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Discover Japan Lab.
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1渋谷PARCO 1F
Tel |03-6455-2380
営業時間|11:00〜21:00
定休日|不定休
※最新情報は公式Instagram(@discoverjapan_lab)などで随時紹介しています。ぜひチェックしてみてください。
text: Miyo Yoshinaga