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《太宰府天満宮》
建築・デザイン・アートの聖地へ
いまこそ行きたい福岡・太宰府の旅②

2023.9.2
《太宰府天満宮》<br><small>建築・デザイン・アートの聖地へ<br>いまこそ行きたい福岡・太宰府の旅②</small>

現在、2027年に執り行われる菅原道真公1125年式年大祭という大きな節目に向けて大改修が行われている太宰府天満宮の本殿。世界的クリエイターたちは、“太宰府”をどう解釈したのか? 太宰府天満宮の仮殿をデザイン、設計した建築家・藤本壮介さん、そして境界を示す御帳や几帳を手掛けたファッションデザイナー・黒河内真衣子さん。二人が込めた想いを聞いていく。

藤本壮介さん
北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、2000年に藤本壮介建築設計事務所を設立。世界各国の国際設計競技にて、最優秀賞を多数受賞。2025年の日本国際博覧会(大阪・関西万博)の会場デザインプロデューサーに就任

黒河内真衣子さん
長野県生まれ。2010年、黒河内デザイン事務所を設立し、ブランド「Mame Kurogouchi」をスタート。2018年の秋冬コレクションよりパリファッションウィークで発表を行う。2023年1月、旗艦店「Mame Kurogouchi Aoyama」をオープン

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内部を黒で統一したのは御帳や几帳が浮かび上がって見えるように。仮殿に上がってみないとわからないが、天井に小さな天窓が設けられている。見上げると屋根の緑が見える意匠だ

——仮殿の建設を手掛けるにあたり、どのような想いを抱かれましたか?
 
藤本 神社自体の歴史が1100年以上ありますし、圧倒的な責任の重さを感じました。やらせていただくからには期待に応えたいですし、長い歴史の一端を担うという覚悟で臨む必要があります。そのためにまずは太宰府天満宮がどのような歴史を歩んできて、そして多くの参拝者が何を求めて、この地を訪れていらっしゃるのかなどをひも解くことからはじめました。西高辻信宏宮司と何度もお話を重ねていく中で、太宰府天満宮の伝統を未来へつないでいきたいという想いに共感を覚え、それらを設計に生かしました。現在、仮殿は参拝者を迎え、天神さまの御神霊を安置するという役目をもつ“建物”ですが、未来になれば、伝統をつないできた“歴史”のひとつになる。その一端に携わらせていただいたことをうれしく思います。
 
黒河内 私はもともと太宰府天満宮のアートプログラムに8年ほど前から何度も足を運んでおり、新年の「鷽替え・鬼すべ神事」に参列させていただいたこともあります。その中で古いものと新しいものが力強く共存している様子や、文化を守りながらも新しいものをつくり上げていく活動姿勢に常に感銘を受けていました。そのため、お話をいただいたときはとてもうれしかったです。

仮殿の屋根上に植栽された木々は、太宰府天満宮の周囲を豊かに彩る、通称・天神の杜の木々が飛んできたイメージ。シンボルの梅の木も植栽されている

——デザインを進める中で、特にこだわった点を教えてください。
 
藤本 まず、大きくは“場所を感じる”という点を意識しました。私がはじめて太宰府天満宮を参拝したとき、境内の樹齢1500年超の大木や神社を囲むように自生する豊かな森、そして御本殿の巨大な屋根に強い印象を受けました。仮殿の屋根に浮かぶ森は、そこからインスピレーションを得ています。また、御神木「飛梅」が一夜のうちに京都から太宰府まで飛んできたという飛梅伝説もヒントに、周囲の森が屋根の上に飛翔したというイメージでつくり上げました。楼門をくぐると、最初は屋根や周囲の緑が目に飛び込み、近づくにつれて仮殿内部の黒い空間に、黒河内さんが手掛けられた御帳や几帳が浮かび上がるように見えてくると思います。それで終わりではなく、仮殿に上がって天井を見上げると天窓から屋根の上の緑が見える。仮殿で祈願するという一連の流れの中で、天神の杜という場所の存在も身近に感じていただけたらうれしいです。
 
黒河内 現地でリサーチや滞在を繰り返す中で、2023年のいましかつくれないものづくりを意識しました。当初から日本古来の伝統技法を用いるアイデアはもっていましたが、太宰府天満宮のアートプログラムでの試みの背景を学ぶ中で、現代の作家さんの手で生み出される作品が、神社が代々受け継いできた御宝物のように、数百年後に残るものになるということに感銘を受けました。そこで、現代の織機を用いながら、草木染色などの古来の技法と融合させ、いまという時代にしか織り上げられない生地をつくろうと決めました。御帳は、飛梅をはじめとした境内各所でスケッチした梅の木がモチーフ。藤本さんが設計された仮殿が、太宰府天満宮の周囲の自然を取り込むデザインであることから、御帳も外の景色とのつながりや広がりを意識しています。そして几帳には、梅のほか、花菖蒲や楠、西高辻家の記憶を込めています。神社全体を包む生命の景色を感じていただけたら幸いです。

黒河内さんが「生命の景色を描きたいと筆を走らせた」と話す几帳。シルク、ヘンプ、オーロラフィルム、キュプラなど新旧の素材を併用。シルクを染めているのは境内で剪定された梅、楠の枝から抽出した染料だ

——最後に、太宰府天満宮という場所について感じたことを教えていただけますか?
 
藤本 1100年以上の伝統があるという点は、本当に圧倒的で、太宰府天満宮はそれらの伝統を継承しながらも最先端のクリエイションと融合させることで未来を切り拓いていこうとされています。私自身、この点に最も共感しました。だからこそ今回、仮殿の建設に関わらせていただいたのはとてもありがたいことでしたし、素直にその想いに応えていきたいと思いました。
 
黒河内 天神さまの御神霊を守っている場というだけでなく、太宰府天満宮そのものがまるでひとつの生命体であるかのような不思議な感覚を覚えました。また、新しいアイデアを積極的に取り入れ、現代の文化を次世代に残す試みを絶えずされていらっしゃる。現代のものでも、100年後には新たな価値をもつ文化になり得るという考え方は、現代のファッション産業においてもとても重要だと思います。

飛梅をはじめとする境内の梅の木がモチーフの御帳。裏張りするのが一般的だが「天神さまがご覧になる景色も大切にしようと、裏側も丁寧にデザインしました」と黒河内さん

今回、二人へのインタビューを通して感じたのは、「現代の文化を未来に残していくことで伝統が生まれる。太宰府天満宮はそれを体現している」、「伝統は当時の最先端。ゆえに人々の心に残り続け、結果的に1100年以上という時間を紡いでいくことができた」ということだった。数百年後にも語り継がれるであろう、いまの最先端をぜひ体感してみてほしい。

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text: Tsutomu Isayama photo: Hiroshi Mizusaki 取材協力=九州観光機構
Discover Japan 2023年8月号「夏の聖地めぐり。」

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