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“文化芸術の発信地”太宰府天満宮に
3年間限定の特別な「仮殿」が完成
菅原道真公の式年大祭に向けて御本殿が令和の大改修

2023.6.4
“文化芸術の発信地”太宰府天満宮に<br>3年間限定の特別な「仮殿」が完成<br><small>菅原道真公の式年大祭に向けて御本殿が令和の大改修</small>

福岡県太宰府市の太宰府天満宮は、124年ぶりに重要文化財「御本殿」の大改修を、2023年5月から3年間かけて行う。それに合わせて、改修期間中の神事や参拝で使用される「仮殿」が御本殿前に建てられた。設計を手がけたのは建築家・藤本壮介氏。御帳・几帳のデザインをファッションブランド・Mame Kurogouchiが担当した。学問・文化芸術・至誠の神として広く親しまれてきた、菅原道真公(天神さま)の薨去(こうきょ)から1125年という大きな節目を迎える式年大祭と歴史を振り返りながら、令和を代表するクリエイターが手がけた仮殿の建築デザインの魅力を紹介しよう。

太宰府天満宮の由緒と歴史

太宰府天満宮は、全国天満宮の総本宮であり、菅原道真公の御墓所の上に御社殿を造営し、その御神霊を永久にお祀りしている神社。「学問・文化芸術・至誠の神」として、日本全国はもとより広く世の御崇敬を集め、年間に約1000 万人の参拝者が訪れる

太宰府天満宮は全国天満宮の総本宮であり、御祭神・菅原道真(すがわら の みちざね)公の御墓所として唯一無二の聖地「菅聖庿(かんせいびょう)」と称えられている。

昌泰4年(901)、道真公は藤原氏の策謀により、大宰権帥に左遷される。大宰府での道真公は、貧しい生活の中でもただ一心に皇室の弥栄(いやさか)と国家の平安を祈り続け、2年後の延喜3年(903)2月25日、大宰府政庁の南館(現:榎社)にて59年の生涯を閉じた。遺言により遺骸は大宰府の地に葬られ、牛車で葬列を進めていた際に、突然牛が臥して動かなくなった。これは道真公の考えに違いないと、その地に埋葬し祀庿(しびょう)を造営したのが天満宮の始まりだ。

その後、道真公の無実が証明され「天満大自在天神(てんまんだいじざいてんじん)」という神様の御位が贈られ、「天神さま」と崇められるようになった。道真公の孫にあたる菅原平忠(すがわら の へいちゅう )が天満宮の別当職に任命されて以来、太宰府天満宮は代々菅原家直系の子孫によって守り継がれ、現在は道真公より数えて40代目にあたる宮司により、祭祀が厳修されている。

また、現在の御本殿は天正19年(1591)に筑前国主・小早川隆景(こばやかわ・たかかげ)の寄進により造営され、安土桃山時代の豪壮華麗な様式を今に伝えるものとして、国の重要文化財に指定されている。

25年毎に斎行される
大きな節目「式年大祭」

※この画像はイメージです
photo: 友章栗間

菅原道真公が生まれたのは6月25日、薨去(こうきょ)は2月25日と伝えられていることから、「25」は天神さまと縁が深い数字として知られ、毎月25日は月次祭を斎行し、また、25年毎に式年大祭を行い、神威の甦りと天神信仰のさらなる発揚を繰り返してきた。

そして、令和9年(2027)は道真公が薨去されて、1125年という節目を迎える。道真公の墓所という唯一無二の聖地であり、道真公が永遠に鎮まる場所として、式年大祭の折には脈々と受け継がれてきた文化財の修理をはじめ、境内環境や建造物群の整備、境内の自然の保全活動を進めるとともに、広く日本文化の発展に寄与すべく、さまざまな事業に取り組みながら、記念事業の企画・開催を通して25年に1度の大祭を祝うのだ。

「文化芸術の神様」としても慕われる
御祭神・菅原道真公

提供: 太宰府天満宮

漢詩や和歌に長じた道真公への信仰は「学問の神様」のみならず、「文化芸術の神様」として古くから崇められている。平安時代中期、文章博士・大江匡衡(おおえ の まさひら)は、学問や文学の祖であり、文化芸術の神様であるということを表現し、天神さまを「文道大祖 風月本主(ぶんどうのたいそ ふうげつのほんしゅ)」と称えた。室町時代には、鎌倉の禅僧は「連歌の神様」「茶道の神様」として信仰するようになり、豊臣秀吉をはじめ諸大名の信仰を集め、天神さまをお祀りするお社は全国に広がっている。

江戸時代になると、藩校や寺子屋において「学問の神様」「子供の守り神」としてさらに篤く信仰されるようになり、浄瑠璃や歌舞伎を生業とする人にとっては「芸能の神様」として、手習いをする人にとっては「書道の神様」として、天神さまは、庶民の心に寄り添い続けた。そして、天神さまを慕う人々によって、天神さまのもとには、時代の最先端の文化・アートが集まり、此処から対外的に広く発信がされてきた。九州に現存する最大最古の絵馬堂には、奥村玉蘭、太宰府にゆかりの深い斎藤秋圃や吉嗣鼓山をはじめ、台湾の現代美術家であるマイケル・リンなど、江戸期から現在に至るまで、さまざまな時代の多様な人々の願いが込められた作品が数十点に及び奉納されている。

絵馬堂
提供: 太宰府天満宮

式年大祭に向けた「仮殿」の屋根に
青々とした"森"が現れる

印象的な屋根の上の植物は、天満宮の花守たちによって境内地で育てられた梅も含まれている。周辺の環境とともに、季節や天候によってさまざまな移ろいを見せる

2023年5月から3年かけて、124年ぶりに重要文化財「御本殿」の大改修にあたり行われた「仮殿」の建設についても、文化芸術の神様である天神さまの御神徳を、未来へ継承していきたいという想いから、現代の日本を代表するクリエイターたちが参画。

仮殿のデザイン・設計は、国内外で活躍する建築家であり、大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーも務める藤本壮介氏率いる藤本壮介建築設計事務所が手がけた。太宰府天満宮周辺に広がる、豊かな自然が御本殿前に飛翔し、仮殿としての佇いを作り上げることをコンセプトに、屋根に青々とした森が現れる新しくも穏やかで美しい仮殿が誕生した。

建築家
藤本壮介(ふじもと・そうすけ)
1971年北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、2000年藤本壮介建築設計事務所を設立。2014年フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞(ラルブル・ブラン)に続き、2015、2017、2018年にもヨーロッパ各国の国際設計競技にて最優秀賞を受賞。国内では、2025年日本国際博覧会の会場デザインプロデューサーに就任。2021年には飛騨市の Co-Innovation University(仮称)キャンパスの設計者に選定される。

境内の中には、大きな樟の大木がある

令和の今でしか織り上げられない御帳と几帳

御帳(みとばり)

文化芸術の神様である天神さまや“文化芸術の発信地”として、天満宮が紡いできた歴史からインスピレーションを受け、現代の織機を用いながら、古代染色などの古来の手法と融合させ、令和の今でしか織り上げられない生地が生まれた。

御帳(みとばり)には天満宮を象徴する梅の木が全面にあしらわれ、色・柄ともに左右に向かって美しいグラデーションを成す構図が、天満宮全体がもたらす生命の広がりを表現した。几帳(きちょう)に用いられたシルクには、境内で採集された梅と樟の枝や、貴重な紫根を用いた古代染色が施され、現代を象徴する化学繊維と共に織り上げている。流れる様な糸の飛ばしが特徴的な織りはデザイナー・黒河内真衣子氏が体感した境内に降り注ぐ生命の雨をイメージ。菖蒲や境内に咲く草花といった要素と共に生地の上で習合することで、天神さまと天満宮の歴史が未来へと向かって織り上げられている。

デザイナー
黒河内真衣子(くろごうち・まいこ)
長野県生まれ。2010年に黒河内デザイン事務所を設立。自身のブランド「Mame Kurogouchi」をスタート。2018年秋冬コレクションよりパリファッションウィークで発表を行う。2023年には旗艦店 Mame Kurogouchi Aoyama がオープン。

几帳(きちょう)

太宰府天満宮が紡いできた1100年以上の歴史と伝統を未来に繋げ、伝統的な造りと現代的なデザイン性が共存した仮殿は、訪れるたびに新しい姿を見せるとともに、天満宮の豊かな自然を感じることができるだろう。

読了ライン

太宰府天満宮
住所|福岡県太宰府市宰府4丁目7-1
https://www.dazaifutenmangu.or.jp/

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