京都の料亭へ行こう【後編】
京料理を支えるうつわ、もてなし、食材
大人の知的欲求を満たす、京都の料亭。美しい料理をはじめ、建築、うつわや調度品といった工芸品、おもてなしなど、あらゆる側面から日本文化を守り続けている。後編では、そんな特別な空間をつくり上げているエッセンスにフォーカスしたい。
新旧が交錯する会席料理の献立。
会席料理の献立には、先付や八寸、椀物、お造り、焼物、炊合せなどの料理が並び、茶懐石の場合は出される順番に決まりがあるが、料亭での会席料理は店によって異なる。
八寸は茶懐石に用いられる言葉で、茶懐石の場合は酒の肴として山海のものが供され、会席でも酒の肴になるような料理を、色とりどり盛りつけることで季節の到来を告げる。見立ての一品は八寸でもよく出される。椀物は、椀種と呼ぶ魚や練り物などでつくる実に、野菜などを添えた吸い物で、香り豊かな風味を楽しむ。お造りは2~3の魚種を盛りつけるのが一般的で、生の魚介を美しく盛りつけることで、料亭の一品に仕上げている。焼物は串打ちした魚を塩焼きなどで提供。近年は、お客の目の前で焼くなどライブ感のある演出をすることもある。炊合せは日本人に馴染みのある煮炊き物を、素材ごとに別々に炊いてうつわの中で盛りつけている。ご飯は季節ご飯になることもあり、香物や止椀と一緒にいただく。止椀とは、一般家庭でいうところの味噌汁にあたる。水物は、かつてはメロンなどのフルーツをフレッシュな状態で供していたが、近年はシャーベットやアイスクリームといったデザート色の強いものへとさま変わりしている。
料亭はうつわとの出合いの場。
会席のうつわ選びは、茶人が茶席のために道具を決める道具組にどこか似ているという。その日の趣向に合わせて、染付や色絵、漆器などの中から丁寧に合わせ、コース全体のバランスを取っていく。会席に使われた印象的なうつわをきっかけに、日本の工芸品の奥深さを知ることもある。
料亭は古典の写しから窯元の職人仕事まで、さまざまなものを揃え「30年40年と使い続けるうつわもあれば、手にしてから一度も使わず、ずっとしまったままのものもあるんですよ。いますぐ使わなくても、いい職人の仕事は買って手元に置いておく。料理屋はうつわとそういった付き合い方を常日頃からしていますね」と荒木さんは語る。
また、道具屋と呼ばれる商いも、料亭とうつわを語る上で忘れてはならないのだという。「昔は、道具屋がその店に合わせた道具をもってきて、それを買っていました。道具屋は同じものをほかの店に売ることはせず、ちゃんと選別してお客に合ったものを提案していました。そういった存在は表にあまり出てきませんが、いまでも料亭文化には欠かせない存在ですね」。
美しさの追求はもてなしにも。
接客を任される女将や仲居の所作は、あいさつひとつをとっても美しい。てきぱきと働きながらも、どこか奥ゆかしいのは細やかなところに気を配っているから。料亭にふさわしい接客を身につけ、日本人が大切にしてきた美意識や接遇を具現化している。女将や仲居が動くたびに聴こえる衣擦れは、料亭に欠かせないサウンド。
京料理を支える食材。
長く都が置かれた京都には各地から魚菜が献上され、その苗や種をもとに野菜栽培が盛んに行われてきたという。明治時代から栽培されている「京の伝統野菜」は現在35品目。年中入荷できる九条ねぎや冬の聖護院かぶなど、生産者が手塩にかけて育てた野菜は京料理に欠かせない食材。春は京たけのこの料理が必ずといっていいほど献立に並び、冬は甘みを増す聖護院かぶを使ったかぶら蒸しが季節の定番料理として愛されている。
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京都で体験したい料亭文化。
京都には魚三楼も加盟する組合など、文化の担い手である料理人が集う団体がいくつもあり、和食ユネスコ世界遺産の登録や京料理の無形登録遺産の認定も促進した。京料理や日本文化の啓もうにつながる定期的な催事も行っているので、各サイトをチェックしよう。
京都料理組合
https://kyo-ryori.com/
京都料理芽生会
https://kyoto-mebaekai.com/
日本料理アカデミー
https://culinary-academy.jp/
魚三楼
住所|京都府京都市伏見区京町3-187
Tel|075-601-0061
営業時間|11:30~14:30(最終入店13:30)、17:00~22:00(最終入店19:30)
定休日|火曜
https://www.uosaburo.com
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【後編】京料理を支えるうつわ、もてなし、食材
text: Mayumi Furuichi photo: Toshihiko Takenaka