京都・丹後地方で美食旅
和の源流を訪ねて都から“海の京都”へ【前編】
和食が世界遺産に登録されてから今年で10年。ユネスコが認める食の世界遺産は、フランスの美食術や地中海料理など8つの分野しかなく、その一角に日本の和食があるのは誇るべきこと。また2022年には京料理が国登録の無形文化財にも認定され、日本の文化と密接に関係しながら継承されてきた和食はますます注目を集めている。その一端を担う食材豊かな“海の京都”丹後地方へ、いま足を運んでみたい。
都の料理は山海の恵みが育む
“海の京都”が支えていた
丹後地方には、1300年以上にわたる絹織物産地としての歴史があり、豊かな経済圏では人と物の交流も盛んだったという。京都市内で料亭を営む和久傳(わくでん)の先祖は、その時代に京丹後で旅館を営み、敷地3000坪に部屋数わずか7室の宿で隆盛期の繁栄を享受している。
和久傳の若女将・桑村祐子さんは、自身も京丹後で育ったことから山海の幸を知り尽くし、海の町の野趣と京の洗練の融合に日々心を寄せている。海の京都がもたらす、京の食文化への影響をたずねると「たとえば山椒鍋でしたら京丹後では鶏を使い、料亭では牛肉を使います。暮らしの中で親しんだ味をベースに、料亭の味が生まれることもあると思いますね」と祐子さん。豊かな環境が育んだ発想で、その橋渡し役を担っている。
高台寺和久傳といえば囲炉裏で焼くカニ料理。1982年の創業当初からの看板メニューで、伝統的な献立が主流だった当時は、海の香りを運ぶ焼物に世間の耳目が集まったという。選りすぐりのカニを、ほの暗い数寄屋建築の一室で食すひとときに、奥行きのある京の食文化の一端を垣間見る。
そんな和久傳が、故郷丹後に新たな拠点「和久傳ノ森」を築いたのは2017年のこと。8000坪の敷地に植物生態学者・宮脇昭氏の指導の下で植樹し、三角屋根が目を引く工房レストラン「wakuden MORI」では、地元の魚介や野菜、自ら育てた米でつくる料理を提供。料亭で腕を磨いた料理長が、豊かな食材と自然にインスパイアされた味を四季折々で楽しませてくれる。
高台寺和久傳
住所|京都府京都市東山区高台寺北門前鷲尾町512
Tel|075-533-3100
営業時間|12:00~15:00、17:30~21:00
完全予約制
定休日|不定休
https://www.wakuden.jp/ryotei/kodaiji/
和久傳ノ森 工房レストランwakuden MORI(モーリ)
住所|京都府京丹後市久美浜町谷764
Tel|0772-84-9898
営業時間|10:00~18:00(L.O. 17:30)
定休日|火曜(祝日の場合は翌日休)
https://mori.wakuden.kyoto/
間人ガニ、牡蠣、ワカメ…
美食が待っている“海の京都”へ。
京丹後には山海の味から果物まで、美食を支える食材が豊富。地域を代表する食材といえば、11月から3月まで出回る「間人(たいざ)ガニ」。もともと漁獲量が少ない上に厳しい基準も設けているため、「幻のカニ」とまでいわれる最上級品である。
ふっくらとした牡蠣はプランクトンが多く養殖に適した久美浜湾で育てられ、養殖している景観は京都府選定文化的景観にも選ばれている。
近年「長寿のまち」として注目を集める京丹後では、春になるとミネラルたっぷりの天然ワカメ漁が解禁になる。新鮮な天然ワカメのしゃぶしゃぶを提供する宿もあり、海辺では採れたワカメを板に張り付け干す様子が春の風物詩になっている。
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text: Mayumi Furuichi photo: Toshihiko Takenaka, Takuya Oshima