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紫式部「源氏物語」の舞台・平等院へ
往事に思いを馳せて、作家・柏井壽の京都案内【後編】

2023.3.23
紫式部「源氏物語」の舞台・平等院へ<br> 往事に思いを馳せて、作家・柏井壽の京都案内【後編】
画像提供=平等院

京都は今も平安王朝の空気を漂わせ、時代とともに生きた女性たちの物語が残されています。後編で焦点を当てるのは、紫式部「源氏物語」の舞台となった平等院や「平家物語」の舞台・寂光院周辺。作家・柏井壽さんが、往時に思いを馳せます。

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紫式部「源氏物語」の
舞台となった平等院

1052年、関白藤原頼通が、父・道長より譲り受けた別荘を寺に改めたもの。鳳凰堂には仏師・定朝作の阿弥陀如来像が安置されている。当時の貴族たちが希求した極楽浄土を再現したとされる浄土庭園も見事
画像提供=平等院

随筆から小説へ。平安王朝の人間模様をみごとに描きだしたのは紫式部。世界各国でも読まれている「源氏物語」は全54帖からなる、日本最古の長編小説といわれ、光源氏を主人公として、恋物語、権力闘争、欲望を絡ませながら、平安貴族の姿を生き生きと描いた名作です。

光源氏のモデルといわれる、嵯峨天皇の息子、源融(みなもとのとおる)の邸宅〈六条河原院〉があった「渉成園」、紫式部の邸宅跡と伝わる「廬山寺」など、ゆかりの地は洛中に何カ所もありますが、「源氏物語」のクライマックス〈宇治十帖〉の舞台となった宇治、とりわけ「平等院」を忘れるわけにはいきません。

橋姫にはじまり夢浮橋で終わる〈宇治十帖〉は、光源氏の子、薫君(かおるのきみ)と孫の匂宮(におうみや)の男性と浮舟の姫君とが紡ぎ出す悲恋の物語。宇治を舞台に繰り広げられる恋模様を、思い浮かべながら宇治川のほとりを歩いてみましょう。
源融の別荘として建てられ、宇多天皇に渡り、さらに源重信に移り、藤原道長の別荘〈宇治殿〉となった後に藤原頼通が寺院に改めたのが「平等院」のはじまりです。西方極楽浄土を思わせるお寺は「源氏物語」の最後を締めくくる悲話には最適の場所です。

平等院
住所|京都府宇治市宇治蓮華116
Tel|0774-21-2861
拝観時間|庭園8:30~17:30(受付終了17:15)、鳳凰堂内部拝観9:30~16:10(各回50名定員、受付時間9:00~先着順によりなくなり次第終了)、平等院ミュージアム鳳翔館9:00~17:00(受付終了16:45)
定休日|庭園、平等院ミュージアム鳳翔館は無休
※行事により内部拝観を休止する場合あり。
拝観料|庭園+平等院ミュージアム鳳翔館 大人600円、鳳凰堂内部拝観300円
https://www.byodoin.or.jp/

京都大原に佇む
建礼門院ゆかりの寺

悲話の主人公といえば「平家物語」に登場する建礼門院徳子が思い浮かびます。灌頂巻(かんじょうのまき)の大原御幸は、平氏が滅びた後、大原「寂光院」に隠棲した徳子を、後白河法皇が秘かに訪ねたときの話です。
壇ノ浦の戦いで安徳天皇を喪い、入水したものの源氏に助けられるという悲哀を経験した徳子が、自らの栄枯盛衰を振り返る六道語りは、「寂光院」が舞台。洛北大原の里人の厚い人情が織りなす物語は、今も大原の地に息づいています。

594年に聖徳太子が父・用明天皇の菩提を弔うために建立したと伝わる古刹、寂光院。真如覚比丘尼と称した建礼門院徳子が1185年に入寺し、隠棲していたと伝わる庵跡には石碑が立っている

寂光院
住所|京都府京都市左京区大原草生町676
Tel|075-744-3341
拝観時間|9:00~17:00(冬季は変更あり)
定休日|不定休 ※行事により休止する場合あり。
拝観料|大人600円
https://www.jakkoin.jp/

平安時代にトリップできる行事と文化

現代に再現される平安の行事「曲水の宴」。写真の「城南宮」では毎年4月29日15:00より神苑内、平安の庭で斎行(2023年は事前申し込み制)

そんな平安王朝を華やかに、そしてときに哀しく紡ぎ出した女性たちの思いを、今に伝える行事があります。それが〈曲水の宴〉。
庭園の遣水に童子が羽觴(うしょう)に盃をのせて流しやり、和歌を詠み終えた歌人が盃をいただくという優雅な行事です。往時そのままの平安装束に身を包んだ女性たちの雅やかな姿は、平安王朝へとタイムスリップさせてくれます。洛南「城南宮」や洛北「上賀茂神社」などで行われていますので、機会があればぜひ足を運んでみましょう。

城南宮
住所|京都府京都市伏見区中島鳥羽離宮町7
Tel|075-623-0846
拝観時間|9:00~16:30(受付終了16:00)
定休日|不定休
※行事により休止の場合あり。
拝観料|神苑「源氏物語花の庭」大人800円
※2023年の「曲水の宴」事前申し込みについては公式サイトで告知予定
https://www.jonangu.com/index.html

現代でも十二単に身を包む体験ができる
画像提供=西陣織会館

古の平安装束を着てみたいという願いを叶えてくれるのが、堀川今出川に建つ「西陣織会館」。女性は十二単、男性は束帯を身にまとい、古の平安装束を着てみたいという願いを
叶えてくれるという貴重な体験ができます。

繭から生糸ができ、そして絹糸により西陣織ができるまでの歴史を展示や映像で学べる施設で、平安人の暮らしをたどれば、京都旅の厚みがよりいっそう増すことでしょう。
遺構は少なくても、平安時代の文化や習俗、伝統工芸、そして人々の思いは今も京都に脈々と流れているのです。

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西陣織会館
住所|京都府京都市上京区堀川通今出川南入ル 西側
Tel|075-451-9231
会館時間|10:00~16:00
休館日|月曜(月曜が祝日の場合は翌日休)、12/29~1/3
入館料|無料、きもの体験「十二単・束帯」80分1万6500円
https://nishijin.or.jp/nishijin_textile_center/

 


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Text:Hisashi Kashiwai(main text)、Hiroko Yokozawa(caption&data)

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