HOTEL

栃木県・日光市《界 鬼怒川》
世界の布を知り尽くした衣服標本家が体験する
黒羽藍染に魅せられる滞在

2022.11.14 PR
栃木県・日光市《界 鬼怒川》<br><small>世界の布を知り尽くした衣服標本家が体験する<br>黒羽藍染に魅せられる滞在</small>
唯一現存する黒羽藍染店「黒羽藍染紺屋」にて、200年以上受け継がれてきた藍甕(あいがめ)に触れる長谷川さん。神棚が祀られた藍場は神聖な場所とあり、一礼する姿も

「黒羽藍染(くろばねあいぞめ)」をはじめとした栃木の伝統工芸に触れられる「界 鬼怒川」。およそ100年前の稀少な衣服を分解し、美の本質を探求し続ける長谷川彰良さんとともに“手業に宿る美”を体感する旅に出た。

衣服標本家
長谷川彰良(はせがわ・あきら)
アンティークの衣服を分解し、内部構造が可視化できる衣服標本として展示する「半・分解展」を2016年より開催。“100年前の感動を100年後に伝える”をコンセプトとした本個展は国内外で開催され、動員数を年々増やしている

4つの民藝を愛でる

益子焼のカップや黒羽藍染のベッドライナーなどが点在する「とちぎ民藝の間」。写真は、ご当地文化体験の予約者のみが滞在できる特別なしつらえ

「界 鬼怒川」のエントランスに到着すると、はためく藍色の暖簾が迎えてくれた。今回ともに訪れたのは、衣服標本家の長谷川彰良さん。「衣服をファッションというよりはプロダクト、ひいては感動として見ていて。構造がおもしろいものにいろいろと興味があるんですよね」と、自身の個展でも原始的な感覚である触覚にこだわっていることもあり、早々に暖簾の手触りを確かめる。その姿は、無邪気な子どものようだ。

「界」は、滞在や体験を通して土地の魅力が再発見できる星野リゾートの温泉旅館だが、鬼怒川の宿は言うなれば栃木民藝の美術館。建築家、フランク・ロイド・ライトも心惹かれたという「大谷石(おおやいし)」が随所に使われるほか、建具として有名な「鹿沼組子(かぬまくみこ)」や、陶芸家・濱田庄司が美を見出した「益子焼」の新たな姿にも出合えるのだ。中でも稀少な「黒羽藍染」は、衣服を知り尽くした長谷川さんにこそ触れてほしい伝統工芸。到着早々、「振り」という新たな技法を用いた暖簾に文字通り触れた長谷川さんだが、客室でも最初に目に入れたのは、型染めであつらえたクッションや障子布。匂いを嗅ぎ「藍の香りがしますね。西洋の藍染ではリネンを使うことが多く、ローラーで圧力を加えるのでキラキラの風合いになるんですよ」と海外の藍染文化にも造詣が深いことに驚かされたが、黒羽藍染とは初対面。翌日に控える、黒羽藍染唯一の職人・小沼雄大(おぬまゆうた)さんとの対面を楽しみにしている様子だった。

ラウンジで本を読む、館内で民藝を探すなど、滞在方法をアレンジできるよう界 鬼怒川ではあえてアクティビティは設けていないというが、客室で楽しむ「黒羽藍染の布でつくるはがきキット」では、おこもり時間を提供。長谷川さんも布をハサミで器用に丸抜きし、はがきづくりに没頭していた。

テラスの床には、斑点が美しい「大谷石」を使用。気ままに湯浴みできる温泉露天風呂付き

名湯と伝統工芸をセットで
楽しむのが界 鬼怒川流

清くまろやかな湯に身体をゆだねれば、自然との一体感が味わえるガラス張りの内湯
大浴場へと続く回廊を照らすのは「益子焼」と「黒羽藍染」がコラボした灯籠。虫除けの役割も果たす民藝らしい“用の美”も
湯上がり処の壁には、伝統柄を施した黒羽藍染のうちわがずらり。お気に入りの一枚を、土産品として購入する方も多い

館内の手仕事、どこまで見つけられる?

益子焼
品のある佇まいが目を引く特注の水琴窟(すいきんくつ)。奏でる音にも、どこか益子焼に似た温かみがある
大谷石
県内で採掘された素朴な風合いの石材だからこそ、東京の奥座敷として名を馳せる鬼怒川の自然に溶け込む
鹿沼組子
伝統柄「麻の葉」を用いた照明。夜の帳が下りると、漏れる明かりが美しさをいっそう引き立てる
黒羽藍染
障子紙の一部に黒羽藍染の布を組み込んだデザインは、「おもしろいアイデアですね」と長谷川さんも注目

目と舌で民藝を味わう

宝楽盛り
鹿沼組子と黒羽藍染を用いた台座には、八寸、お造り、酢の物と季節を感じる前菜が並ぶ。食すたびに全貌が見えてくる益子焼のうつわも、お楽しみのひとつ。釉薬の技術に見惚れる
先付け
とちおとめのドレッシングがかかった、牛肉とらっきょうのタルタル。食感のアクセントが楽しいひと皿
煮物椀
甘鯛や海老から染み出す繊細な出汁も会席の醍醐味。蓋を開けた瞬間のふわりと香るひとときは至福
揚げ物
ホタテしんじょの蓑揚げに鮭のふくさ包みと、揚げ物にも細やかな技が光る。旬を感じる季節の野菜も美味
旬彩
タジン鍋に似たユニークなかたちの土鍋で提供されるごはん。紅葉鯛と松茸が、秋の訪れを知らせてくれる
台の物
約800℃に熱した焼き石で火を入れる山海龍神鍋。立ち昇る湯気を、栃木の龍神伝説に見立てた逸品
甘味
締めは栃木の名産品・ユズが香る豆乳羹でさっぱりと。トッピングはなんと、かんぴょうのコンポート
納豆、湯葉、しもつかれ、白米が進む郷土朝食
ご当地ユズジュースからはじまる朝食。栃木県産大豆を使用したもち麦入り納豆「あさ月糸」は、癖がなく甘い藁の香りもアクセント。立格子木箱の台座や益子焼のうつわと箸が、栃木の旅を演出する

ホテルの(中)と(外)で、
手仕事に触れる体験

(中)食後の遊びは益子焼を選んで、学んで、演奏する

夕食では、釉薬の技術に長けた萩原芳典(はぎわらよしのり)さんのうつわをはじめとした品々が会席を彩る。「釉薬をかけるのは15秒と楽でいいねと言われるけれど、これは15秒と60年だよと返す場面が、濱田庄司の著書『無盡蔵(むじんぞう)』に書かれていて」と焼物は詳しくないと話す長谷川さんだが、濱田庄司に関しては別のよう。宿にも縁ある一冊として置かれていたが「この本は5冊持っていて、ボロボロになるまで読みました。ものへの向き合い方に共感できるんです」と、衣服標本の感性は民藝にも通じていた。食後は、音からも益子焼を感じる「益子焼ナイト」に参加。各地の豆皿から好みの3枚をセレクトしてはじまるが、長谷川さんが選んだ豆皿は、後にすべて益子焼と判明。この地との縁を感じざるを得ない。

スタッフによる益子焼の打楽器と笛が織りなす演奏も見どころ。「演奏中からたたいてみたかった」と、生き生きとした表情で壺太鼓のレクチャーを受ける
「青磁」と「アメ」の色合いが好みという長谷川さん。焼物の歴史などスタッフとの会話も盛り上がる
「益子焼ナイト」にて長谷川さんが直感的にセレクトした3枚。左上が川尻琢也、左下が大塚誠一、右がリサ・ラーソンと、いずれもが益子焼に縁深い作家の一点もの

古典とモダン、黒羽藍染のふたつの美を堪能(外)

翌日は黒羽藍染体験のため、大田原市へ移動。かつて5軒あった紺屋だが、現在は8代目・小沼雄大さんが営む「黒羽藍染紺屋」のみ。廃業した紺屋から引き継いだ6000種もの型が保管されており、ただ一人で200余年の技術を守り続けている。「はんてんなどの需要が減り、多くが廃業してしまいました。しかし、うちは時代の流れに合わせ、父は贈答品を、私は同世代に好まれる製品をつくることで生き残ってきたんです」

黒羽藍染は「ご入れ」と呼ばれる下染めを行うことで独特の深い藍色を生み出しているが、「ロココ調の服を分解すると、縫うか死ぬかという現代では考えられない手間がかかっているんですよ」と話し、その手間は長谷川さんが心を躍らせている美の感覚に近い。使ってこその民藝とあって、宿の衣食住を通して体感できる滞在は理になっている。長谷川さんも黒羽藍染が気に入った様子で「レティキュール(18〜19世紀に用いられた婦人用の手提げ袋)」に仕立てたいと、工房見学後に布地を購入して帰路に就いた。

型彫り
用意された15種類の型から長谷川さんが選んだのは、一番細かなトンボ柄。体験することで、技術の繊細さと複雑さに驚嘆していた
糊付け
柄の出方を左右する重要な作業。餅粉と糠粉を湯で練ったモッタリとした糊を、専用のヘラを用いて型の上から手際よく塗っていく
振り
「界 鬼怒川」の暖簾などにも用いられている、小沼さんが編み出した「振り」。筆で糊を無造作に振ることで、線がゆらめく柄が生まれる
藍場見学
通常の体験では小沼さんによるデモンストレーションを見学するが、今回は特別に長谷川さん自ら藍甕に布を浸すことに。空気に触れ藍の色が変わりゆく瞬間など、グラデーションに染まる姿を間近で堪能

家族への土産には、黒羽藍染の小物を

併設されたショップでは、スニーカーやマスクなど、若い世代にも受け入れられるようなプロダクトを展開。柄違いの製品も多く、あれこれ目移りしてしまうこと間違いなし

「界 鬼怒川」の滞在では、栃木の民藝を見たり触れたりするだけではなく、知識や思い出として持ち帰れる特別な体験がかなう。

界 鬼怒川
住所|栃木県日光市鬼怒川温泉滝308
Tel|050-3134-8092(9:30~18:00)
客室数|48室
料金|1泊2食付3万1000円~(税・サ込)
カード|AMEX、DINERS、Master、VISAなど
IN|15:00
OUT|12:00
夕食|日本料理(食事処)
朝食|和食(食事処)
アクセス:車/日光宇都宮道路今市ICから約30分、電車/東武鉄道鬼怒川温泉駅から車で約5分
施設|大浴場、食事処、ラウンジ、ライブラリー、ショップ
 
 

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text: Natsu Arai photo: Kazuya Hayashi
Discover Japan 2022年12月号「一生ものこそエシカル。」

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