世界も虜にする
「日本美術」を楽しめる美術館
《テーマ別ミュージアムガイドカタログ55》
日本人なら誰もが一度は見たことがある名作や、自然と調和した屋外作品、スーパーマニアックなコレクションなど、この夏はどんな作品を楽しみたい気分ですか?全国の美術館や博物館を知り尽くしたマニアの方々に、テーマ別におすすめしたいミュージアムを教えていただきました。ミュージアムに行くのは、興味のある企画展が開催されているときだけ。そんな方にこそおすすめしたい、もっとミュージアムめぐりを楽しむための完全保存版です。
〈お話をうかがった方〉
中村 剛士(なかむら・つよし)
青い日記帳主宰。大学在学中、教授の薦めで美術館に通いはじめる。以降、展覧会が開催されているタイミングであれば、好きな時間やペースで作品が見られる美術館めぐりに没頭。現在では、年間300以上の展覧会に足を運ぶ。2002年から、Tak(タケ)の愛称で、備忘録としてブログ「青い日記帳」を開始。展覧会レビューや書評など、幅広いアート情報を初心者にもわかりやすく発信している。著書に『いちばんやさしい美術鑑賞』(筑摩書房)など。
http://bluediary2.jugem.jp
世界にも大きな影響を与えた日本美術
前回は日本人が大好きな印象派について紹介しましたが、実は、印象派は日本美術に大きな影響を受けています。江戸時代に日本から陶磁器とともにヨーロッパへ渡った浮世絵は、印象派を中心に西洋美術全般に激震を走らせました。どんな点が、西洋人を驚かせたのでしょう?
それまでの西洋絵画は、『聖書』に記された神の奇蹟やギリシャ神話をモチーフとして、遠近法などを用いて2次元である絵画にリアルさを追い求めていました。一方、身の回りの花や鳥などを描くことを主とした日本美術は、西洋絵画にはない平面性を重視した巧みな構図やアシンメトリーがふんだんに用いられています。これまで思いもしなかった構図や形態に加え、色彩の豊かさをもった日本美術は、海の向こうからやってきた「革命家」だったのです。印象派を代表するマネやモネの作品は、浮世絵から構図や平面性など多くの影響が見られ、時に日本美術がそのまま絵の中に描き込まれていたりするほど。
ここでは、世界にも大きく影響を与えた日本美術の作品を中心に収蔵する、おすすめの美術館を紹介します。
葛飾北斎は世界で一番有名な日本人だった!?
米国の雑誌『ライフ』が1999年に選定した、「この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」で、日本人として唯一ランクインした江戸時代の絵師・葛飾北斎。現在でも人気は変わらず、代表作『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』は、世界中の方が知る日本のアイコンとなっています。
毎月展示作品が入れ替わる
浮世絵専門美術館
「太田記念美術館」
太田記念美術館は、約1万5000点もの浮世絵を所蔵する国内有数の浮世絵専門の美術館。いつ訪れても上質な浮世絵が観られるとあり、日本人だけでなく、海外観光客からも人気です。本作は、1853年に歌川芳員が描いた東海道シリーズの一枚で、神奈川県・大磯町の延台寺に祀られている「虎子石」を、想像力を駆使して描いたもの。虎子石は、太田記念美術館を象徴する人気キャラクターとして、グッズにもなっています。
歌川芳員(よしかず)『東海道五十三次内大磯をだハらへ四リ』
制作年|1853年
材質|四ツ切判錦絵
サイズ|W182×D126mm
公開期間|~8月28日(日)※公開終了
太田記念美術館
住所|東京都渋谷区神宮前1-10-10
開館時間|10:30〜17:30 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜(祝日の場合は翌日休)
料金|一般1200円、大高生800円、中学生以下無料(9月25日まで開催中の「浮世絵動物園」展の場合)
Tel|050-5541-8600(ハローダイヤル)
施設|ショップ
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/
建築や絶景とともに日本美術の名作を楽しむ
「MOA美術館」
静岡県熱海市を一望する高台に建つMOA美術館は、国宝3件を含む約3500件の絵画や書跡、工芸、彫刻などを所蔵。日本美術を中心に、中国や朝鮮などの東洋美術の優品も揃っています。『鹿下絵新古今集和歌巻』は、江戸時代初期を代表する絵師・俵屋宗達が鹿の群像を描いた後、書家の本阿弥光悦が『新古今和歌集』の和歌28首を選び流れるような筆で書いた作品。
俵屋宗達・本阿弥光悦『鹿下絵新古今集和歌巻』(断簡)
制作年|桃山〜江戸時代(17世紀)
材質・技法|紙本金銀泥下絵・墨書 一幅
サイズ|W4263×D342㎜
公開期間|〜8月28日(日)※公開終了
MOA美術館
住所|静岡県熱海市桃山町26-2
開館時間|9:30〜16:30 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|木曜(祝日の場合は開館)、展示替え日
料金|一般1600円、大高生1000円、中学生以下無料
Tel|0557-84-2511
施設|日本料理店、蕎麦店、カフェ、ショップ、能楽堂
https://www.moaart.or.jp/
箱根随一の広さを誇る美の殿堂
「岡田美術館」
神奈川県箱根町に2013年に開館した岡田美術館。日本、中国、韓国を中心とする古代から現代までの美術品を常時約450点展示しています。縄文土器から土偶や埴輪などの考古遺品、仏像や仏画など平安・鎌倉期の仏教美術品、蒔絵、ガラスなどの工芸品と、時代や分野の幅は極めて広いです。また、北斎の貴重な肉筆画『雪中鴉図』などの名品、稀品が揃っています。
葛飾北斎『雪中鴉図(せっちゅうからすず)』(部分)
制作年|1847年
材質|紙本墨画著色
サイズ|W286×D965㎜
公開期間|〜12月18日(日)
岡田美術館
住所|神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷493-1
開館時間|9:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|展示替え期間のみ
料金|一般・大学生2800円、高中小生1800円
Tel|0460-87-3931
施設|食事処、カフェ、ショップ、庭園
https://www.okada-museum.com/
モダンに日本文化を発信する
京都の新名所
「福田美術館」
歌枕として詠まれてきた京都・嵐山の景勝地に、2019年に開館したばかりの福田美術館。江戸時代から近代までの日本美術コレクションは約1800点に上り、中でも、京都画壇の作品を積極的に蒐集しています。京都・錦市場の八百屋問屋に生を得た江戸時代の画家・伊藤若冲の『蕪に双鶏図』は、まさにそんな福田美術館のコレクションにふさわしい優品です。
伊藤若冲『蕪に双鶏図』
制作年|18世紀
材質|紙本着色
サイズ|W688×D1110㎜
公開期間|10月22日(土)〜11月28日(月)
福田美術館
住所|京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3-16
開館時間|10:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|火曜(祝日の場合は翌日休)
料金|一般1300円、高校生700円、中小生400円
Tel|075-863-0606
施設|カフェ、ショップ
https://fukuda-art-museum.jp/
1800点余りを収蔵する
日本画専門美術館の元祖
「山種美術館」
1966年に日本初の日本画専門美術館として、東京・日本橋兜町に開館した山種美術館。2009年に現在の広尾に移転。いつ訪れても上質な日本画が優れた環境で観られるとあり、多くのファンを抱えている都内有数の美術館です。大河ドラマやアニメで注目を集めている源平の物語は、多くの絵師により描かれてきた人気の画題。
作者不明『源平合戦図』(左隻)
制作年|江戸時代(17世紀)
材質|紙本金地・彩色
サイズ|W3588×D1531㎜
公開期間|〜9月25日(日)※公開終了
山種美術館
住所|東京都渋谷区広尾3-12-36
開館時間|10:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜(祝日の場合は翌日休)、展示替え期間
料金|一般1300円、大高生〔夏の学割〕500円、中学生以下無料(9月25日まで開催中の「水のかたち」展の場合。展覧会によって異なる)
Tel|050-5541-8600 (ハローダイヤル)
施設|カフェ、ショップ
https://www.yamatane-museum.jp/
銀行から生まれ変わったアートの拠点
「似鳥美術館」
北海道小樽市が、かつて金融機関や船舶会社、商社など多くの人で賑わい、北海道経済の中心都市であったことをいまに伝える小樽芸術村。その一画を占めるのが、旧北海道拓殖銀行小樽支店をリノベーションして生まれた似鳥美術館です。所蔵品は多岐にわたりますが、日本美術も大きな一翼を担っており、日本画家・上村松園の描いた本作は美術館を代表する一枚。
上村松園『桜可里図』
制作年|1936年頃
材質|絹本彩色
サイズ|W564×D1545㎜
公開期間|不定期(要問い合わせ)
小樽芸術村
住所|北海道小樽市色内1-3-1
開館時間|5〜10月9:30〜17:00、11〜4月10:00〜16:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|11〜4月の水曜(祝日の場合は翌日休)
料金|一般1500円、大学生1000円、高校生700円、中学生500円、小学生300円
Tel|0134-31-1033
施設|ショップ
https://www.nitorihd.co.jp/otaru-art-base/
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1|全国で楽しめる教科書で見た“アレ”と美術館 前編 後編
2|日本で堪能できる「印象派」美術館
3|「日本美術」を楽しめる美術館
4|「自然とアート」を楽しめる美術館
5|近代建築と現代建築、それぞれを味わえる美術館
6|日本全国の美しい名建築、外から見る?中から見る?
7|秀逸な作品やキャプションを堪能できる美術館
8|大人も子どもも楽しめる美術館
9|全国各地のマニアックな美術館
text: Discover Japan, Takeshi Nakamura
Discover Japan9月号「ワクワクさせるミュージアム!/完全保存版ミュージアムガイド55」