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水野学がデザインする〈相鉄ブランディング〉の秘密

2024.4.20 PR
水野学がデザインする〈相鉄ブランディング〉の秘密

相鉄グループの創立100年を礎に、次の100年をつくるというコンセプトで進められている「相鉄デザインブランドアッププロジェクト」。今回のプロジェクトを手掛けているのは、熊本県PRマスコットキャラクター・くまモンの生みの親でもある水野学さん。相鉄のこれからの100年をつくるための世界観を構築することからはじまった。

クリエイティブディレクター
水野 学さん
クリエイティブディレクター、クリエイティブコンサルタント、good design company 代表取締役。ゼロからのブランドづくりをはじめ、ロゴ制作、商品企画からコンサルティングまでをトータルに手掛ける。

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水野学さん、相鉄ブランディング、
どのようにつくり上げたのですか?

相鉄グループの創立100周年を目掛けて始動した、相鉄デザインブランドアッププロジェクト。その中枢を担うのが、熊本県PRマスコットキャラクター「くまモン」を手掛けたことでも知られる、日本を代表するクリエイティブディレクター・水野学さんだ。「安全×安心×エレガント」というデザインコンセプトを打ち立て、世間における相鉄の認知度を一段高みへと導いた。

「通常、鉄道会社のデザインやブランドを考える上で、『安全』や『安心』は当たり前のこと。ただ、あえてこの言葉を入れ込むことには、僕なりの仕組みがありました。デザインはかたちや飾りのことだと思われがちですが、機能を満たしてはじめて装飾できます。あくまで安全性をベースに、エレガントさを加えていくというのをきちんと明文化することが、このプロジェクトがうまく進むか否かの分岐点になると考えました」

プロジェクトのカタログを見ながら当時を振り返る、水野さんと相模鉄道営業部長・鈴木昭彦さん

実際、プロジェクト開始時からここまで、その軸がブレることはない。その上で車両デザインのアップデートはどのように進められてきたのだろうか。
「列車の車両や駅のホームは、お客さまとじかに接する相鉄の『顔』として機能するものです。ここにネイビーブルーなどの暗めな色を設定することについて、はじめは疑問視する声もいただきましたが、『サインの視認性を上げるために、ホームを濃い色にするのはどうですか?』といった提案など、ただ格好つけるのではなく、安全・安心の観点から逆算して最適なデザインを考えていくことで、理解を得られました」

あくまで利用客の快適を考え対話が進められる中で、車両の色については、膨大な数の検証を重ねていったという。

’19年登場の12000系は、快適性とデザイン性を高めた20000系を踏襲しつつ、古来伝わる能面のひとつ「獅子口」にインスパイアされた車体デザインも特徴的

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「ネイビーブルーにしようという構想は初期段階からありました。これはコンセプトの『エレガント』にもかかわり、横浜という街のブランド価値を車両にまとわせたいという想いがあったからです。ただ、夜間における視認性などを心配する意見もあって。そこで、白い救急車が雪道を走った際の事故率を調べるなど、検証というより、一休さん対一休さんのような話し合いも重ねています(笑)」

相鉄にとっても水野さんにとってもひと際思い入れのある車体カラーは、キャッチーなネーミングにより、いっそう親しみのあるアイコンとなった。
「エレガントを醸成する色としてネイビーブルーの採用が決まったわけですが、特注色のため名前をつける必要がありました。そこで、相鉄の利用客の方々にとっても愛着がわくような名前にしませんかと提案させていただきました」

横浜駅のホームドア。オールステンレスで品格が感じられるデザイン

水野さんいわく、鉄道はただ人や物を運ぶというより、そこには出会いや別れがあり、いろいろな感情も運んでいることから、「どこかノスタルジックな要素を持ち合わせている」のだそうだ。そこで、そうした郷愁も感じられるようなネーミングにしたらおもしろいだろうと考えた。

「歌謡曲『ブルー・ライト・ヨコハマ』から着想を得て、『YOKOHAMA NAVYBLUE』に決まりました。『YNBって略したらいいよね』なんて、子ども心の感性で楽しみながら考えましたね。実際、想定通りのあだ名で呼ばれているみたいです」
また、プロジェクトを進めるにあたり、沿線住民や鉄道ファンの気持ちを置いてけぼりにしないことにも神経を注いだそう。

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「横浜を代表する鉄道であることを
堂々と誇ってほしいです」

検証では廃車予定の車両を塗装し、実際の色みを確認した

「沿線に住まう方々をはじめ利用客のことを一番に考えるのはもちろんですが、鉄道ファンは“鉄道に愛をもっている人たち”ですから、ある部分では沿線住民よりも敏感な反応があるだろうなと考えました。相鉄社内にいらっしゃる乗り鉄や撮り鉄みたいな、いわゆる“鉄分多め”な方々から意見をいただくこともありました」

こうした誰一人取りこぼさないという想いの下、プロジェクトを進めていく中で反響の変化も大きかったと水野さんは続ける。
「プロジェクトの第一弾として、9000系のリニューアルが公開された当初、SNSでは『相鉄のくせにおしゃれな車両をつくっている』みたいな反応もあったのですが、最近は『さすが相鉄』という声に変わってきているんですよね。これ実は、一段抜かしているんですよ。①相鉄のくせに、②相鉄いいね、③さすが相鉄、となるのが自然な流れだと思いますが、②を抜かしている。プロジェクトをスタートしてから10年近く積み重ねてきたものがあって、いま相鉄はよくて当たり前の存在になっている。これは素晴らしい評価の変遷ですよね」

一般的なベンチより一人あたりのスペースが広く、隣を気にせずゆったり座れる。荷物を隣に置くこともでき、ほかで見られるような席をひとつ空けるという無駄もなくなったとか。子どもと二人で座れるのもうれしい

プロジェクトを経て、相鉄にはもっと堂々と横浜を語ってほしいという水野さん。
「相鉄線って、実は横浜市のど真ん中を走っているんです。その場所で100年も前から土地の歴史をつくってこられたのだから、もっと声を大にして横浜を代表する鉄道であることをアピールしていってほしいですね。僕も、これからもその一翼を担えればと思っています!」

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text: Discover Japan photo: Kenji Okazaki, Mikiya Takimoto, Shin Suzuki
2024年4月号増刊「相鉄線に乗って見つける!横浜中央部」

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