NHK朝ドラ「らんまん」モデル
牧野富太郎とは?
2023年春にスタートするNHK連続テレビ小説『らんまん』の主役のモデルであり、俳優・神木隆之介さんが演じることでも注目されている、牧野富太郎博士。
研究と教育普及活動に没頭した人生、そのそばにあった温かな家族の存在とは?「植物分類学の父」と呼ばれる牧野博士についてひも解こう。
「牧野植物園は博士そのもの」
小学校を中退し、独学を貫いた牧野博士。22歳で東京大学理学部植物学教室への出入りが許され、本格的に植物研究に邁進する。26歳で初の著書『日本植物志図篇』を刊行。以降、多くの植物誌を出版していく。
牧野博士が大切にしていたのが野外調査だ。27歳で日本において日本人で初めて新種の植物にヤマトグサと学名と和名をつけて発表。以降は名もなき草木に次々と学名を与えた。調査は沖縄県を除く国内すべてと、台湾・中国(旧満州)に及ぶ。自らを「草木の精」と称した博士。フィールドではいつもおしゃれをしていた。まるで恋人に会いにいくかのように。
「牧野博士はカリスマです」とは、園長で、薬学博士でもある川原信夫さん。「天然資源から薬を探索する薬学の研究は、分類学者がいてはじめて成り立ちます。分類学はとても地道で、地味ではあるけれど、重要な仕事です。牧野博士はそれが好きだった。さらに、絵を描く才能がありました」
私生活では26歳で壽衛と結婚。13人の子どもを授かる。植物採集のために全国を行脚し、膨大な文献を集め、自費出版も行った博士。そこに生活費も重なり、ときに多額の借金を抱えながら研究を続けたという。家賃が払えずに家族で引っ越したこと30回近く。壽衛さんは献身的に博士を支えた。
「わが姿たとえ翁に見ゆるとも 心はいつも花の真盛り」牧野富太郎
晩年、博士は好きな植物の研究に明け暮れ、94歳で幕を下ろした。
牧野植物園は、博士そのものだと川原さん。「ここで牧野富太郎という人物を知り、まずは植物の世界を楽しんでほしいです。その中で将来、第2、第3の富太郎が出ればこれほどうれしいことはありません。園の中でひとつでもふたつでも記憶に引っ掛かるものがあれば、それを大事にしてほしいです」
読了ライン
牧野博士の代表的な業績
①植物を記載する
これまで知られていなかった多くの植物の特徴を明らかにして記述し、1500種類以上の植物の種や品種を命名した
②収集した標本40万点以上
日本各地で採集した植物は、博士が自らの手で新聞紙に挟んで腊葉(さくよう・押し葉)標本に。多種多様の植物をいつでも比較できるため、新種の発見につながる
③「牧野式植物図」
植物の特徴を正確に伝えるよう、多数の個体を細密に観察した上で種の平均的な姿を描いた。植物の全形図と部分図、解剖図などをひとつの画面に収める描写力は圧巻
④学術雑誌の創刊
日本の植物研究を発表するメディアとして『植物学雑誌』の創刊に仲間とともに携わる。後に、より自由に植物の知識を普及する雑誌『植物研究雑誌』を独力で創刊
⑤教育普及
大衆への採集指導や講演会、植物啓蒙書の出版など、全国で植物愛好家を増やす活動を行った。各地で同好会が設立され、その活動は今日に続いているものもある。
⑥植物図鑑をつくる
野外調査で得た植物の知識と植物図をふんだんに用い、植物図鑑を出版。編集に10年をかけた『牧野日本植物図鑑』は日本の植物図鑑の礎となる
3000種類以上を生育する植栽に迫る
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text: Yukie Masumoto photo: Yoshihito Ozawa
2022年9月号「ワクワクさせるミュージアム!」