京料理の老舗《たん熊北店 京都本店》で学ぶ
懐石料理のルーツは茶にあり【前編】
料亭で供される懐石料理の起源は、実は茶事でいただく茶懐石。あまり馴染みのない茶懐石には独自のマナーがいくつもあり、「たん熊北店 京都本店」ではそれらを教わりながら食事ができる。
どの料理をいつ出すか、
茶懐石には明確なルールがある
茶道の催しと聞くと、一般的には点前を拝見しながら菓子と抹茶(薄茶)をいただく茶会をイメージしがちだが、茶人たちはそれをさらに深めた茶事と呼ぶ会を行っている。茶事は1回に約4時間かけ、抹茶を練った濃茶をいただくことを主たる目的にしている。所要時間の大部分を占めるのは、その前座的役割ともとれる食事の時間で、茶事では一椀の濃茶を最高に味わうための料理を用意する。それが茶懐石だ。
現在の茶懐石の基礎は中世の豪商で茶人でもあった武野紹鴎や侘茶を成立させた千利休の時代につくられている。彼らが説いたのは一汁三菜。汁物ひとつと、料理を3品という構成だ。折敷にまずはひと品目の料理である向付を出し、そのあとに煮物椀、焼物でもてなし、その間に酒も酌み交わす。ただ、それでは物足りないでしょう、ということから、続けて預鉢や八寸などを提供するようになった。預鉢は強肴ともいわれるが、これは一汁三菜で十分なところを、あえて(強いて)料理を出すので強肴(しいざかな)と呼ぶそうだ。一汁三菜を勧めた先達は食事の量を控える提案をする一方で、その内容はよく吟味し、相手が喜ぶものをと促している。その考えは茶懐石をベースに発展した懐石料理にも受け継がれている。
懐石料理が料亭や割烹、ホテルなどで日常的にいただけるのに対し、茶懐石は基本的には茶事でしか食べることはない。また、懐石料理の献立の順番は店によって異なるが、茶懐石においてはどの料理をいつ出すのか、明確なルールがある。ルールと聞くといかにも小難しいが、それらは食事をする相手のことを思った先に成立した秩序。そこには美しい所作を突き詰めたことで生まれた決まり事も含まれる。
皆で集まってする食事に美しい所作を求めたのは、茶懐石が最高の芸術空間で一服の茶を喫する茶道から生まれた料理だからである。
今回作法を教えていただく「たん熊北店 京都本店」は、3代続く京都の老舗。当主である栗栖正博さんは、自身も長く茶の湯に親しみ、料理人でもあることから、茶事を体験的に学ぶ機会を設けている。店の一角にあるカウンター席で、足を楽にして学べるのは長時間の正座が苦手な人にとってはありがたい。栗栖さんが重ねてきた経験を基にした説明は、わかりやすくすんなりと頭に入る。季節の懐石料理を味わいながら、洗練された日本の食事マナーを学ぶ。それがたん熊北店 京都本店が行っているレッスンだ。
text: Mayumi Furuichi photo: Toshihiko Takenaka
Discover Japan 2022年11月号「京都を味わう旅へ」