伝統工芸の技法をファッションの世界へ。
伝統工芸士 折井宏司さん
羽田未来総合研究所とともに羽田空港の未来を考える連載《HANEDAの未来》。第7回はファブリックに落とし込まれた高岡の伝統工芸士折井宏司氏の伝統技法を題材に、色の可能性を掘り下げる。
momentum factory Orii
代表 折井宏司さん
経済産業大臣指定伝統的工芸品伝統工芸士。富山県高岡市を拠点に、「Orii Blue」と称される独自の銅板着色技術により、商業施設の着色、プロダクト開発など広く手掛ける。
the Measuring order salon
代表兼フィッティングマスター 藤田伸朗さん
ジーンズメーカー、欧米輸入業を経て、日本のクラシコイタリアの礎を築いたARISTOCRATICOのDNAを継承するCAVALLERIAに従事。2017年春に自店を開業。
羽田未来総合研究所
アート&カルチャー事業推進部
ディレクター 石黒浩也さん
百貨店でのマネージャー・バイヤー職を経て、現職。羽田空港のさらなる価値向上のため、日本の地方風土や文化芸術を羽田から発信すべく活動中。
石黒 折井さんとは2013年にはじめてお会いして、それからのご縁ですね。そして藤田さんと折井さんは富山県高岡市のご同窓ということもあり、今回の対談につながりました。
そもそも折井さんが、高岡の伝統産業である銅板の着色技術から色を変えていくことに価値を見出しはじめたのはいつ頃だったのですか?
折井 着手したのは約20年前で、2000年に独自の着色技術を確立しました。さらに、デザイナーや建築の方と試行錯誤していくうちに次々と新しい色が生まれていきました。
高岡にもともとあった伝統的手法は、置物、茶道具、花瓶、仏像、銅像などの美術工芸品に多く使われ、当社本来の着色業として力を発揮する仕事でしたが、時代の変化に伴い、その作品群があまり売れなくなった背景がありました。
石黒 一番最初の色が生まれたきっかけはなんだったのでしょうか?
折井 実験して偶発的におもしろい色が出ました。家業を継いで間もなかったので、伝統産業に携わる時間が短く、既成概念がなくて。ほかにも色が出ないかなと試行錯誤しましたね。
石黒 伝統着色の技法から、着色そのものの色の価値を徐々に開発していかれて。今回誕生した「ORII FABRICS」で、とてもおもしろいなと思うのは、銅板につけていた「色そのもの」が独立した価値として評価され、ファブリックに至ったという流れです。コラボがはじまったきっかけはなんだったのでしょう。
折井 いつかファッションの領域にもチャレンジしたくて、自分でカスタマイズしてカバーオールやトートバッグなどに銅板を埋め込んでいました。そうした中、藤田さんに相談して、スーツをつくったのがきっかけですね。
石黒 藤田さんは、折井さんの色に対する取り組みを、どのような感じで見ていらっしゃったんでしょうか。
藤田 すごいなあと思っていましたね。折井さんとは地元で同窓ということで、距離が近くて感じなかったり見えない部分もあったりするんですが、客観的に「Orii Blue」が入って来たり、「おりいがみ」という印刷物の印象が残っていたり。おりいがみは紙になっていて曲げられるし、折ることもできる。そこで裏地としてファブリックにしたらおもしろいのではと提案しました。
石黒 ファブリックの最初のアイデアが出てからプロトタイプが出来上がるまでどのくらいの時間がかかったんでしょうか。色のバリエーションはどの程度あるのですか?
藤田 2018年11月に話をして生地ができたのは年末。2月にはスーツが仕上がっていました。色は12色あります。
石黒 ご自身の色がファブリックとして仕上がってきたときの感想はいかがでしたか。
折井 感動しました。サテンの質感がよくて、世にないものができたなと。
石黒 裏地としての価値と併せて、チーフやストールに広がっていくのも楽しみです。ところで、折井さんの休日の過ごし方は?
折井 連休には愛車の1969年式VWタイプ3で出掛けます。車で1時間のところに桂湖という湖があり、モータースポーツ以外は何をしてもいいんです。釣りをしたりカヌーに乗ったり。忙しいときこそ車に乗って出掛けて、普段とはまったく別の世界でリセットします。
石黒 ファッションの世界で見られる折井さんのプロダクトが楽しみです。
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≫色の魔術師伝統工芸士 折井宏司
momentum factory Orii
https://www.mf-orii.co.jp/products
the Measuring order salon
住所|石川県金沢市泉1-5-4 ザ・ビルヂング金沢泉1F
Tel|090-9442-7462
www.theordersalon.com
文=上野賀永子 写真=高井恵美
2019年9月号 特集「夢のニッポンのりもの旅」
《HANEDAの未来》
1|羽田空港の「場」を活用し、日本の魅力を発信
2|アートによる魅力づくり&環境づくり
3|職人の複製技術を活用し、文化財の魅力を世界へ
4|日本の豊かなものづくりを空港で魅せる
5|地域が誇れる酒を安定して供給する使命
6|瀬戸内国際芸術祭でアートの本質を再発見
7|伝統工芸の技法をファッションの世界へ
8|丹後本来の魅力は人々の暮らしの中に
9|発酵なくしてラーメンなし!
10|デザインとしての家紋が新しい価値をつくる