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建築家・藤本壮介の
「森」をつくる建築デザイン

2025.10.14
建築家・藤本壮介の<br>「森」をつくる建築デザイン

2025年「大阪・関西万博」で会場デザインプロデューサーを務め、世界最大の木造建造物「大屋根リング」をつくり上げた藤本壮介さん。
現在、東京・六本木ヒルズの森美術館では、藤本建築を俯瞰し、これからの都市と建築の在り方を模索する展覧会、『藤本壮介の建築|原初・未来・森』を2025年11月9日まで開催している。その会場で、木や森と建築のこと、未来都市の森についてうかがった。

藤本壮介(ふじもと そうすけ)
1971年、北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業。現在は東京、パリ、深圳に設計事務所を構え、個人住宅から巨大複合施設まで、世界各地でプロジェクトを展開。2031年には宮城・仙台にて、音楽ホールと東日本大震災のメモリアル拠点との複合施設の竣工を予定している。

藤本建築における
「森」とはなんですか?

子ども時代を北海道の自然に囲まれて過ごした建築家・藤本壮介さん。建築の勉強のために上京すると、幼い頃の遊び場だった雑木林の森と、雑然とした東京の街に共通点を感じたという。

「街は、くねくねと続く細い路地の先に商店街があります。通りに置かれた植木鉢や看板、電柱にぶら下がる旗など、雑多なものが道をつくっていることにどこか懐かしさを覚えました」

セクション5「開かれた円環」の展示室では、大屋根リングの一部を5分の1スケールで再現。中に入ると、領域を囲いながらも開かれた空間で、木の温もりを感じる

藤本さんの中で、子どもの頃から駆け回って遊んだ森と、人工物でつくられた街がシームレスにつながった。
「森は囲まれている安心感がありつつも、閉ざされた空間ではない。それは東京の街も同じ。一見、別物ですが、成り立ち方が共通しているのです」

森にはさまざまな種類の木が共存し、獣道や、ぽっかりと広がる場所もある。多くの生き物が暮らし、多様なものが調和する空間だ。それはいろいろな人がバラバラに集まって共存している街も同じなのではないか。

©Iwan Baan

多様な存在を受け止める「森的なる場所」を建築でどうつくれるか? 大阪・関西万博 大屋根リングは、世界の国々やさまざまな背景をもつ文化が共存してつながる、という強力なメッセージを発信することとなる。
「円環が力強く空間のまとまりをつくるのと同時に、木の格子組みによる透明感と、人を迎え入れる温もりが出るのは木造ならでは。それが巨大スケールと同居するのは、想像以上でした」
 

藤本建築と木の関係

藤本さんはこれまでも木や森の存在を建築に落とし込んできた。初期に手掛けた4人家族のための住宅「T house」は、木の魅力をあらためて感じた作品のひとつだ。一般的に住宅に使う柱は105㎜角だが、アートを飾る壁をつくるため、柱は45㎜角にし、壁となる合板と合わせて家全体が柔らかい構造体となるよう設計した。
「105㎜角と45㎜角では柱の存在感が全然違うんです。45㎜はささやかで、森の中の声のような感じがしました」

©Daici Ano

その真逆で、35㎝角という超巨大な角材を組み合わせたのが「Final Wooden House」だ。熊本県の球磨川沿いにつくられた森林組合が運営するバンガロー。森林組合から提供された杉の大木を活用した。

東日本大震災の復興支援プロジェクトのひとつとして、岩手県に建てたのが「陸前高田みんなの家」だ。津波の塩害で廃棄される杉を建築で再生。19本の丸太を柱として使うことで、まるで元の杉林のようであり、建物自体が大黒柱となって人が集まる場となるようにとの願いを込めた。

持続可能な素材の建築が
世界の最先端に

2016年、藤本さんはパリにも事務所を構え、世界での仕事が増えていく。そこで実感したのが、世界では大規模な木造建築が最先端の潮流になっているということだった。

©Iwan Baan

世界最古のシャンパーニュメゾン「ルイナール」のウェルカムセンターを手掛けたときのこと。2019年に選ばれたプランは、コスト制限からコンクリートでつくるものだった。それがコロナ禍を経て、社会全体でサステイナビリティの意識が高まると、自然と深くつながるメゾンがそれでいいのかと風向きが変わる。「僕らもそう思っていた頃に電話がかかってきました。本当に申し訳ないが、このプランを自然素材でできないかと」

すべてを木造にするのは耐久性の面からも難しいため、壁は石積みにし、木造の屋根をかけるというハイブリッドとなった。藤本さんはこのとき、世界の建築は大きくシフトしていくと確信したそうだ。サステイナブル社会のために、建築を持続可能な素材でつくっていこうとする流れに。

©Iwan Baan

海外でのこうした経験が万博の大屋根リングにつながる。世界の最先端である大型木造建築と、日本がもつ木造建築の伝統、そして職人の技術を組み合わせることで、より力強いメッセージになると。

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未来の森と建築のビジョン
 
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建築家・藤本壮介に聞く
木と建築のいい関係

01|「森」をつくる建築デザイン
02|未来の森と建築のビジョンを大公開!
03|藤本壮介の〈木の建築作品〉 6選
04|藤本壮介がおすすめする木造建築

text: Yukie Masumoto photo: Norihito Suzuki

2025年9月号「木と生きる2025」

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