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「木のリラックス効果」
暮らしの味方にしたい、
落ち着きをもたらす木の効果とは?

2025.10.9
「木のリラックス効果」<br>暮らしの味方にしたい、<br>落ち着きをもたらす木の効果とは?

木の空間やインテリアから感じられる、温かさや寛ぎ、癒し……。その感覚についての科学的な検証が進んでいる。環境負荷の軽減や森林保護にもつながる“木のある暮らし”は、自然だけでなく人間にも優しい生活をもたらしてくれる。嗅いで、見て、触って、ストレス社会を癒すカギは木にあり!今回は、木の癒し作用について、森林総合研究所の杉山真樹さん解説のもとご紹介する。

杉山真樹(すぎやま まさき)
森林総合研究所 木材研究部門 木材加工・特性研究領域チーム長。三重大学大学院生物資源学研究科連携准教授も兼務。木材と木質空間の快適性や、国産早生樹の利用に関する研究を行う。

嗅いで、見て、触って、
ストレス社会を癒すカギは木にあり!
〈ストレスを優しく包む木の香り〉

計算課題前後での唾液アミラーゼ活性の変化
※ 『建物の内装木質化のすすめ』 (日本住宅・木材技術センター)より転載 (出典:Matsubara, Kawai「Building and Environment」(2014))

大学生を対象にストレス負荷の高い計算課題を行った実験では、杉の香りが漂う部屋ではストレスで上昇する唾液中のアミラーゼ活性が抑えられたとの結果がある(上図)。飛鳥や奈良の時代に彫られた仏像の多くに、個性的な香りをもつクスノキやカヤ材が使われていたことを考えると、人は経験的に木の香りの癒し作用に気づいていたのかもしれない。

〈木材を見るだけでも効果的〉

壁面画像視聴による左右の前頭前野の酸素化ヘモグロビン濃度の変化量
※ 『建物の内装木質化のすすめ』(日本住宅・木材技術センター)より転載 (出典:Nakamuraほか「Journal of Wood Science」(2019))

木材がもつ視覚的要素の効果についても検証が進んでいる。木材を「縦張り」及び「横張り」にした板壁の実大CG画像と灰色画像を視聴する実験において、脳活動が活発だと増大する前頭前野の血中の酸素化ヘモグロビン濃度は、木製板壁画像を見たときのほうが灰色画像の場合に比べて減少した(上図)。つまり木目を見ると脳が落ち着き、より質の高い休息へとつながるのだ。

〈やっぱり木の机がいい理由〉

5日間使用した前後の唾液コルチゾール濃度の日内変動の変化
※ 『建物の内装木質化のすすめ』(日本住宅・木材技術センター)より転載 (出典:杉山、白川、吉村ほか「日本建築学会 学術講演梗概集 環境工学Ⅰ」(2021)、 白川ほか「環境心理学研究」(2022))

オフィスワーカーを対象に、天板が白色メラミン化粧板、木目メラミン化粧板、クリ無垢単板のテーブルでそれぞれ5日間働いた影響を比較した結果、疲労感の大きさは白色メラミン、木目メラミン、クリ無垢単板の順となった。また、ストレスを感じると上昇する唾液コルチゾール濃度の日内変動の傾きの変化から、木目メラミンとクリ無垢単板では5日目でのストレスレベルの上昇が抑えられていた(上図)。木の机を使えば作業中のストレスが和らいでいいアイデアも生まれそうだ。

新たなステージに
進みつつある木と人の研究

木を見たり、触れたり、嗅いだりするときに感じる心地よさは、おそらく誰もが経験しているだろう。その漠然とした感覚を科学的に明らかにする研究が長く続けられてきた。「森林総合研究所」の杉山真樹さんによると、木が人に及ぼす作用の研究の歴史は、3つのステージに分けられるという。

はじまりは1960年代頃にさかのぼる。調湿作用や衝撃吸収性といった、木材の材料としての性質から、その効果を裏付ける研究が盛んに行われた。
90年代頃には木と人との関係性を探るステージに移行。木造校舎と鉄筋コンクリート造校舎の比較から木の効果を明らかにするなど、アンケート調査などによる研究が行われた。

2000年代になると、血液や唾液などの成分を測定する技術が進歩。人の生理反応を測って木の影響を評価する3つ目のステージに突入した。木を見た際、触った際、匂いを嗅いだ際の人の生理面への影響など、より客観的な結果が得られている。

さらにいまは、次なるステージが見えている段階だ。ひとつの感覚に限るのではなく、木を「見て」、「触れる」などの複合的な刺激に対する、木の効果についての研究などが進められている。

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text: Miyo Yoshinaga illustration: Teppei Nakao
2025年9月号「木と生きる2025」

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