世界が注目する木造建築の最前線
後編|最新!世界の木造建築3選
国土の約7割が森林である日本。古からさまざまな種類の木を用途によって使い分け、建築や日用品として暮らしに取り入れてきただけでなく、木は信仰の対象でもあった。そんな森林大国・日本にとって木は特別な存在だが、世界もいま、木に熱い視線を注いでいる。
環境の世紀といわれる現在、世界中の建築家が木造を採用し、木の特性を生かした注目作が続々と登場している。その中から、パリオリンピック・パラリンピックの会場をはじめとする世界の最新木造建築3つを紹介する。
1|パリオリンピック・パラリンピックの主要施設
アクアティクス・センター
2024年パリオリンピック・パラリンピックのため、常設で建設された唯一の主要施設。50mプールとダイビングプール、5000人分の座席が設けられ、水球、飛び込み、アーティスティックスイミングの競技が行われる。コンペで選ばれたのは、木造による構造と、すべての資材にバイオ素材やリサイクル材を用いる低炭素建築物。木材のフィンとガラスで覆われた透明感のある外観、カテナリー(懸垂線)の木材によって生み出される伸びやかな約90mの無柱空間は、施設の大きな特徴となっている。大屋根は5000m²に及ぶ太陽光発電パネルで覆われ、施設内で使用される電力を供給する。
竣工|2024年
場所|フランス・セーヌ・サン・ドニ
建築設計|アトリエ2/3/4、ヴェンホーヴェンCS
オーナー|メトロポール デュ グラン パリ、ソリデオ
施工|ブイグ
構造設計|シュライヒ・ベルガーマン・パートナー(sbp)
延床面積|約2万5000㎡
敷地面積|約1万6250㎡
構造|木造
階数|地上2階
高さ|30m(RC造の基壇部+木造部)
用途|水上競技場
2|樹木のような構造で自然を共有する建築
ワールド・オブ・ボルボ
ゆるやかにカーブしたグルーラム(構造用集成材)の梁や柱と、CLTで構成された木造の構造体が、樹木の幹のような中心部をつくって枝のように広がり、屋根全体を支える。広々とした円形の建物には、ヨーテボリに本拠を置く自動車メーカー・ボルボの歴史を紹介する展示スペース、各階をつなぐ彫刻的な階段をもち最大1100名を収容できる多目的スペースなどが含まれる。外周部は床から天井いっぱいのガラスで覆われることで、外に広がる豊かな景観とつながり、建物の内と外はなめらかに一体化。スウェーデンに根づく「自然を共有する」という精神が、建物全体で体験できる施設となっている。
竣工|2023年
場所|スウェーデン・ヨーテボリ
建築設計|ヘンニング・ラーセン
延床面積|約2万2000㎡
構造|木造
用途|体験センター
3|世界一の高さとなる木造のオフィスビル
アトラシアン・セントラル
木造ハイブリッド構造として世界最高となる高さ182m・地上39階建ての建築。アトラシアン社の本拠地オフィスと、低層階に宿泊施設と店舗が入る。7階から上階がCLTやGLTと呼ばれる木質集成材の部材と鉄骨部材を組み合わせた構造で、4層ごとに鉄骨で仕切られた空間の内部に木造で床を設置する構成。建設中に排出されるCO2を同規模のRC造の建物の50%以下に抑える。開閉式のガラスファサードを採用して自然を最大限活用し、機械的な空調設備への依存度を減らすことで、完成後はエネルギー消費を同規模の建物に対し50%削減、100%再生可能エネルギーで稼働することが目標とされている。
竣工|2026年予定
場所|オーストラリア・シドニー
発注者|Dexus
建築設計|SHoPアーキテクツ、BVN Architecture Pty Ltd.ほか
施工|Built Pty.Ltd.、大林組
延床面積|約7万5000㎡
敷地面積|約3500㎡
構造|RC造(地下〜7階)、S造・木造(7階以上)
階数|地上39階
高さ|182m
用途|事務所(高層部)、宿泊・店舗施設(低層部)
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text: Jun Kato coordinat: Chieko Tomita
Discover Japan 2024年9月号「木と暮らす」