TRADITION

地元で愛される兵庫県のソウルフードめぐり|前編
いま訪ねたいせとうち

2020.10.20
地元で愛される兵庫県のソウルフードめぐり|前編<br><small>いま訪ねたいせとうち</small>

明石、姫路、たつの、赤穂と西へ進み、播磨灘に面する土地の食をめぐりました。播磨の山々から流れてくる川と、それを受け入れる播磨灘の懐の広さが、地元の食材への信頼を厚くしています。

いにしえから人々は川と共存してきた

世界の四大文明がナイル川、チグリス川・ユーフラテス川、インダス川、黄河流域に栄えたように、播磨の食文化も播磨灘に注ぐ河川が、そこに暮らす人々に自然の恵みと知恵を与えてくれた。

播磨は、兵庫県内で瀬戸内海側、西南に位置する。東から行くと、神戸を抜けた先の明石がその玄関口、西は岡山県に接する赤穂まで。北は宍粟市まで含む。

このぼっちゃりとした三角形のような播磨地域に流れる播磨五川。播磨灘に流入する加古川、市川、夢前川、揖保川、千種川だ。豪雨による川の増水、氾濫で被害がなくはないものの、いにしえから人々はこれらの川を愛し、活用して生きてきた。

一つは小麦文化。といってもパンではない。小麦に、全国的にも有名な赤穂の塩でつくられたもの、その代表が素麺、しょうゆ、玉子焼。形はそれぞれまったく非なるものだが、どれも材料はここ播磨産。川からの水で水車を利用した製粉技術が発達し、良質な小麦はさまざまなものに形を変えることができた。ちなみに玉子焼とは、いわゆる「明石焼」。小麦と卵でつくる郷土料理だ。農閑期には農家の副業として素麺づくりが発展し、素麺の天日乾燥を可能にさせる、冬の雨の少なさも、素麺づくりを後押ししてくれた。

とりわけ揖保川の水は鉄分が少なく、素麺づくりに適しただけでなく、淡口しょうゆの誕生にも寄与した。「淡口」と書いて「うすくち」と読むのは、色の淡さを意味している。これも鉄分が少ない揖保川の水ゆえのこと。河川の運搬力を使って、播磨灘から明石海峡を抜けて、大消費地・大阪、京都、奈良へと運ばれ、淡口しょうゆは懐石料理や精進料理に貢献してきた。

そして、酒米文化。酒造家から人気の高い山田錦の主産地も、ここ播磨だ。山あい、谷あいの盆地の気候、粘土質の土壌が、大粒でたんぱく質含量が少ない山田錦の成育に適し、各地の蔵元で芳醇な酒に仕上がっていく。

海の幸も、特殊な地形による産物だ。本州、四国、そして淡路島に囲まれている播磨灘。外海の激しい海流が明石海峡を抜けて播磨灘に入ると、「鹿ノ瀬」と呼ばれる砂地の浅瀬として広がりをみせる。ここは生物多様性の観点からも重要視されており、鯛、めばる、すずき、かれい、ひらめ、たこ、しゃこ、穴子に貝類、海藻類、いかなごをはじめとする小魚が捕れる好漁場。大都市には出回らずにここ播磨だけで食されている鮮魚も少なくない。

兵庫県内の食では神戸が上品さや新しいものを追求しているとすれば、ここ播磨は地元の地形と食材を信頼し、残し続けていくという芯の強さが感じられ、そのベクトルは奥深くへと向かっている。

姫路城 白光を放ち圧倒的な姿を見せる、別名「白鷺城」。外国人にも絶大な人気で20カ国語ほどのパンフレットを用意。「姫路城大発見アプリ」を使えば、かつての城内での人々の様子も楽しめる

姫路城
住所|兵庫県姫路市本町68(管理事務所)
Tel|079-285-1146
開城時間|9:00〜16:00(4月27日〜8月31日は〜17:00)
休城日|12月29日、30日
www.city.himeji.lg.jp/castle

播磨のローカルフードを味わい尽くす

各駅から至近で味わえる、地元自慢のあれこれ。地元を愛し、地元の食材を愛する店に、遠くから近くから通う人たちがいる。

女将との掛け合いを皆で楽しむ。
おでん十七八

大根、牛すじといった定番ものから春菊、おくらなどの野菜類も人気。タコやたけのこは食べやすく切り分けて出してくれる

「卵はできてない。すじはいらない? シュウマイは?」。30種類近くのネタが、銅製のおでん鍋で出番を待っている。女将の佐藤史子さんを囲むようにカウンターに座り、声をかけて食べたいネタを注文するが、“食べ時”のものを佐藤さんが教えてくれる。「おでんの声を聞いているの。みんなの声も聞いてるけどね」。十七八の味を求めて遠方からの女性一人客も。声をかけるタイミングを逸していると、「女性の方、聞きますよ。ワカメ食べました?」と佐藤さんから声をかけてくれる。居合わせた客と女将とのライブは、おでんと同じくそのときだからこそ味わえる。

おでん十七八(となはち)
住所|兵庫県姫路市呉服町46
Tel|079-222-1275
営業時間|17:00〜22:00
定休日|日曜、祝日

70年以上続く姫路人のソウルフード。
えきそば まねき

カツオやサバなどをブレンドした和風出汁と、かん水入りの中華麺という珍しい組み合わせが人気のえきそば。戦後の食料統制で小麦粉が手に入らなかった時代に偶然生まれたこのメニューが美味しいと評判になり、70年以上たった現在も愛されている。一番人気の天ぷらそばは、1日2000杯以上販売。つるつると喉ごしの良い細麺と濃いめの出汁が合う。提供時間わずか10秒。ホームに降り立つとお出汁の香りに誘われてつい食べたくなる。JR姫路駅の在来線上り下りの両店舗があるが、上りの店舗は8月に改装されたばかり。かつての気動車を模した店舗でそばをすするのも粋だ。

ローカル線・播但線を走っていた気動車「キハ系」をモデルにした外観。昔は車両内にえきそばを持ち込んで食べる客も多かったという

えきそば まねき(在来線店上り)
所在地|JR姫路駅 山陽本線 上りホーム
Tel|079-224-0255
営業時間|6:00〜23:00
定休日|なし
www.maneki-co.com

姫路城が先か、やま義が先か。
炭焼あなご やま義

通称「あなごわっぱ」は穴子三種盛り。焼き穴子、煮穴子、穴子の佃煮が並ぶ。カリッ、ふわっ、ほろほろの食感の違いもおもしろい

土日は11時の開店前から行列ができる。客の大半は関東からで、外国人も少なくない。姫路に着いたら、姫路城を訪れる前に食べて行く人も多いとか。播磨灘産の穴子が主役。炭で軽めに焼いて、蒸し器で蒸してから、たれをつけて焼く。ふっくらとした食感が人気だ。「あなごめし」は、まずはそのままいただいて、次にわさびを添えて食べる。自家製のタレを混ぜた甘みのあるご飯と穴子にツンとした刺激で、ますますご飯が進む。最後に、薬味とお吸い物をご飯にかけてお茶漬け風にさらさらと。甘みからすっきりとした味わいに変わり、穴子の香りの余韻を楽しめる。

炭焼あなご やま義
住所|兵庫県姫路市駅前町301
Tel|079-226-5678
営業時間|11:00〜20:00(L.O.19:30)
定休日|なし

野菜たっぷり愛情満載の手料理。
四季菜の里 秋翠亭

「彩り昼食膳」は、季節の野菜をふんだんに使ったコース(写真は秋期)。「目で見て舌で楽しんで」と安子さんが話す料理はどれも色彩豊か。冬期はレタスなど葉野菜を使った鍋料理を提供

古民家を改築し2012年に開店。主人の秋岡立三さんが育てた無農薬野菜を使い、妻の安子さんがつくる創作料理は「できるだけ身体に優しく、季節を感じられるように」がモットー。夫婦の愛と感性が詰まった完全予約制の人気店だ。

四季菜の里 秋翠亭
住所|兵庫県赤穂郡上郡町神明寺487-1
Tel|079-152-7008
営業時間|11:30~14:30、17:00~20:00(完全予約制)
定休日|日・月曜

食感の黄金比が決め手。
玉子焼専門店 松竹

玉子焼を三つ葉入りのだしで食べる松竹のオリジナル

創業61年目。明石駅前の再開発後は商業施設「パピオスあかし」内に店を構える。のれんをくぐると、和の雰囲気の落ち着いた店内。年配夫婦から部活帰りの男子高校生までアツアツをほお張っている。外はしっかり焼けているのに中はとろとろ、ふわふわ。「入荷する卵の質によって生地を微調整しています」と三代目の石垣克芳さん。「たこ焼きは立ち食いでもいけますが、玉子焼は座ってゆっくり食べてくださいね」。

玉子焼専門店 松竹
住所|兵庫県明石市東仲ノ町5-23 明石ときめき横丁
Tel|078-912-0091
営業時間|11:00〜20:00
定休日|水曜

姫路にクラフトビールとジビエ文化を。
Cafe & Dinner Spoon

京都丹波地区の鹿肉に日本各地のビールを合わせる

国道2号線を西へと進むと、看板のお米のキャラクターが呼んでいる。Cafe & Dinner Spoonは、ジビエとクラフトビールにこだわった“しっかり食べられる”お店。オーナーの飯田祐作さんが出合った京都・夜久野町の米と鹿肉と生産者の人々。姫路市民にも味わってほしいと、鹿肉の旨みを存分に生かした調理法で提供し、狩猟体験ツアーなども実施。姫路にクラフトビール文化も根づかせたいと意気込んでいる。

Cafe & Dinner Spoon
住所|兵庫県姫路市東雲町4-4-4東川ビル1F
Tel|080-3782-7301
営業時間|11:30~22:00(L.O.21:00)
定休日|月曜・火曜
www.himejispoon.com

親子三人のチームワークも味わい。
赤心本店

添えられたケチャップの酸味が意外に合って驚く

姫路駅北側のアーケード「おみぞ筋」の中にある赤心本店。先代が引退するにあたり、孫の公太さんと桃子さんが継ぎ、そこに2人のお母さんも加わった。代表メニューの豚カツには豚バラを使い、柔らかく、甘く、ジューシー。桃子さんが毎日切り分けている。切り分けた残りのごろごろとした肉端を入れた豚汁も、注文を聞いてから一杯ずつつくってくれる。淡路産の玉ねぎと豚肉だけのシンプルな豚汁は、家族三人の明るさとぬくもりまで体にしみわたる。

三代目は親子三人で。左から、母の上谷裕子さん、娘の桃子さん、息子の公太さん

赤心(せきしん)本店
住所|兵庫県姫路市駅前町301
Tel|079-222-3842
営業時間|11:00〜18:00
定休日|月・木曜

 

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text: Yuki Inoue, Yumi Fukuda photo: Yuri Yamasaki edit: Tomoko Honma map: ALTO DCRAFT
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