ART

近代建築と現代建築
それぞれを味わえる美術館
《テーマ別ミュージアムガイドカタログ55》

2022.11.11
近代建築と現代建築<br>それぞれを味わえる美術館<br><small>《テーマ別ミュージアムガイドカタログ55》</small>
写真提供=京都市京セラ美術館 Photo: Koroda Takeru

日本人なら誰もが一度は見たことがある名作や、自然と調和した屋外作品、スーパーマニアックなコレクションなど、この夏はどんな作品を楽しみたい気分ですか?全国の美術館や博物館を知り尽くしたマニアの方々に、テーマ別におすすめしたいミュージアムを教えていただきました。ミュージアムに行くのは、興味のある企画展が開催されているときだけ。そんな方にこそおすすめしたい、もっとミュージアムめぐりを楽しむための完全保存版です。

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〈お話をうかがった方〉
甲斐 みのり(かい・みのり)
文筆家。旅、散歩、お菓子、地元パン®、手土産、クラシックホテルや建築などを主な題材に、書籍や雑誌、ウェブメディアに執筆。さまざまな自治体の観光案内冊子も手掛けている。幼少期から家族旅行で美術館や博物館を訪れるようになり、大阪・京都で過ごした学生時代に名建築めぐりが趣味のひとつとなった。著書『歩いて、食べる東京のおいしい名建築さんぽ』(エクスナレッジ)は、ドラマ『名建築で昼食を』(テレビ大阪)の原案になった

展示内容だけでなく
建物そのものにも注目してください!

日常的にも旅先でもミュージアムで過ごす時間をこよなく愛するようになったのは、常設展や特別展で観られる作品を鑑賞する目的はもちろん、建物そのものに大いに魅力があるからです。美術作品を展示する施設は、当然建物にも美しさやデザイン性が求められます。どのミュージアムも設計者をたどると、世界的にも著名な方や、時代を象徴する建築家が手掛けていて、コレクション内容や土地の特色に合わせたテーマやストーリーが内在しているのもおもしろいです。建築案内に特化した館内ツアーが開催されていれば、参加して見どころを知ることで、より興趣をかき立てられます。

今回紹介する昭和初期頃に建てられた近代建築の中でも、大阪市立美術館が住友家の本邸があった由緒ある土地に建てられていたり、建設場所を含めて歴史をひも解くのも一興。各所で左官職人の超絶技巧が見られるので、ぜひ細部にまで目を凝らしてください。現代建築においては、現役で活躍している建築家が、ほかにどんなミュージアムをはじめとした建築物を手掛けているか知ることが、次の旅やミュージアム探訪の指針にもなります。

京都にモダン建築が多いわけ

明治時代、東京への遷都を機に京都は衰退。その後の復興を経て、文化や観光などにおける先駆的都市として発展しました。そこで、洋風建築や近代和風建築、モダニズム建築などの「モダン建築」が数多く誕生し、災害や戦争などの大きな被害を逃れて、名建築が多く現存しています。

アール・デコの美に満ちた宮家の元邸宅
東京都庭園美術館

写真提供=東京都庭園美術館

パリ滞在中にアール・デコの様式美に魅せられた、朝香宮鳩彦王(あさかのみややすひこおう)と妻・允子(のぶこ)妃。主要部屋の内装デザインをフランス人芸術家のアンリ・ラパンに依頼し、1933年に邸宅が完成。設計は宮内省内匠寮工務課が手掛け、日本の職人技も随所にちりばめられています。’83年に庭園を有する美術館として開館。建物そのものが芸術作品といえる華麗な旧朝香宮邸の空間を生かした展覧会が楽しめます。

写真提供=東京都庭園美術館

東京都庭園美術館
住所|東京都港区白金台5-21-9
開館時間|10:00〜18:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜(祝日の場合は翌日休)
料金|展覧会により異なる
Tel|050-5541-8600(ハローダイヤル)
施設|レストラン、カフェ、ショップ、庭園
竣工年|1933年
設計|アンリ・ラパン、宮内省内匠寮ほか
https://www.teien-art-museum.ne.jp/

古代ギリシャ・ローマ神殿を
想起させる外観は圧巻
「大原美術館」

写真提供=大原美術館

日本初の西洋美術中心の私設美術館で、画家・児島虎次郎の業績を記念し、実業家・大原孫三郎が1930年に開館。本館は、建築家・薬師寺主計(かずえ)による設計で、鉄骨鉄筋コンクリート造。当時より、高度な技術が施されています。染色家・芹沢銈介が江戸時代の米蔵を活用して、内外装を手掛けた工芸・東洋館も見事。

大原美術館
住所|岡山県倉敷市中央1-1-15
開館時間|9:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで。開館時間は時期によって変更の可能性あり
休館日|月曜、ほか冬季休館あり
料金|一般1500円、高中小生500円
Tel|086-422-0005
施設|ショップ
竣工年| 1930年
設計|薬師寺主計
https://www.ohara.or.jp/

和と洋のバランス、
内外観のギャップも楽しい
「大阪市立美術館」

写真提供=大阪市立美術館

1936年に開館。瓦屋根で蔵を思わせる近代和風建築は、大阪市建築部営繕課による設計。大理石を用いた内装は、ヨーロッパ風のデザインが基調で、シャンデリアを配した中央ホールはイスラム風装飾が見られます。

大阪市立美術館
住所|大阪府大阪市天王寺区茶臼山町1-82
開館時間|9:30〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜(祝日の場合は翌日休)
料金|一般300円、大高生200円、中学生以下無料 ※コレクション展は2025年春まで休止予定
Tel|06-6771-4874
施設|ショップ
竣工年|1936年
設計|伊藤正文、海上静一
https://www.osaka-art-museum.jp/

世界的にも稀有な完全地下型美術館
「国立国際美術館」

写真提供=国立国際美術館

国内外の現代美術を中心とした作品を収集・保管・展示することを目的として、1977年に大阪府の万博記念公園内で開館。2004年に中之島に移転し、完全地下型の美術館が新築されました。設計はアルゼンチン出身の建築家、シーザー・ペリです。地上部のエントランスゲートには、帆船と竹の生命力、現代美術の発展・成長をイメージしたステンレスパイプのオブジェが置かれ、地下の展示スペースは自然光が降り注ぎ明るい館内に。

写真提供=国立国際美術館

国立国際美術館
住所|大阪府大阪市北区中之島4-2-55
開館時間|10:00〜17:00(金・土曜は〜20:00) ※入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜、展示替え期間
料金|一般430円、大学生130円、高校生以下無料(コレクション展の場合)
Tel|06-6447-4680
施設|ショップ
竣工年|2004年
設計|シーザー・ペリ&アソシエーツジャパン
https://www.nmao.go.jp/

伝統と革新が融合した京都観光の新定番
「京都市京セラ美術館」

写真提供=京都市京セラ美術館 Photo: Koroda Takeru

「大礼記念京都美術館」として1933年に開館。鉄骨鉄筋コンクリート造の洋館に、千鳥破風の屋根をのせた帝冠様式の本館は前田健二郎の設計で、現存する公立美術館では国内最古です。青木淳・西澤徹夫設計共同体が創建当時の姿を保持しつつ大規模改修し、近代建築と現代建築を融合させて2020年にリニューアル。

京都市京セラ美術館
住所|京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124
開館時間|10:00〜18:00 ※展示室への入場は閉館の30分前まで
休館日|月曜(祝日の場合は開館)
料金|展覧会によって異なる
Tel|075-771-4334
施設|カフェ、ショップ
竣工年|1933年(2020年にリニューアル)
設計|青木 淳、西澤徹夫
https://kyotocity-kyocera.museum/

グスクをイメージした
沖縄らしい建築に注目!
「沖縄県立博物館・美術館(おきみゅー)」

写真提供:沖縄県立博物館・美術館

博物館と美術館を併設した複合施設で2007年に開館。沖縄の城・グスクがモチーフの独特なデザインは、石本建築事務所と二基建築設計室の共同設計です。特徴的な外壁は、白セメントに琉球石灰岩を砕いたものを用い、無数の孔が開いたプレキャストコンクリート板によって、グスクのフォルムと質感を表現しています。

沖縄県立博物館・美術館
住所|沖縄県那覇市おもろまち3-1-1
開館時間|9:00〜18:00(金・土曜は〜20:00) ※入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜(祝日の場合は翌日休)
料金|〔博物館〕一般530円、大高生270円、中小生150円 〔美術館〕一般400円、大高生220円、中小生100円
Tel|098-941-8200
施設|カフェ、ショップ
竣工年|2007年
設計|能勢修治
https://okimu.jp/

 

日本全国の美しい名建築
外から見る?中から見る?

 
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《テーマ別ミュージアムガイドカタログ55》
1|全国で楽しめる教科書で見た“アレ”と美術館 前編 後編
2|日本で堪能できる「印象派」美術館
3|「日本美術」を楽しめる美術館
4|「自然とアート」を楽しめる美術館
5|近代建築と現代建築、それぞれを味わえる美術館
6|日本全国の美しい名建築、外から見る?中から見る?
7|秀逸な作品やキャプションを堪能できる美術館
8|大人も子どもも楽しめる美術館
9|全国各地のマニアックな美術館

text: Discover Japan, Minori Kai
Discover Japan9月号「ワクワクさせるミュージアム!/完全保存版ミュージアムガイド55」

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