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隈研吾さんに聞いた!
国立競技場はSDGs建築の進化形でした。〈前編〉

2021.8.3
<small>隈研吾さんに聞いた!</small><br>国立競技場はSDGs建築の進化形でした。〈前編〉

東京2020オリンピック大会をようやく迎えた国立競技場。屋根や軒庇(のきびさし)、そして建物全体に木材をふんだんに取り入れた構造は、実はSDGsの最先端をかたちにした建築でもあります。起源をさかのぼると、世界最古の木造建築物である奈良の法隆寺に行き当たるのではないか。日本建築が伝統的にもつ「SDGsの遺伝子」について、国立競技場のデザインに携わった建築家・隈研吾さんにうかがいました。

隈 研吾(くま けんご)
建築家。東京大学建築学科大学院修了後、隈研吾建築都市設計事務所を設立。日本建築学会賞、フィンランドより国際木の建築賞、イタリアより国際石の建築賞ほか国内外で受賞多数。土地の環境、文化に溶け込む建築を目指す。主な著書に『点・線・面』など。

まずはふたつの建築を比較してみよう!

■771年頃
大陸伝来の技術を、
日本の風土に順応させ長寿化

「法隆寺五重塔」

高温多湿な日本で木造建造物が長持ちするよう、長い庇を五重に連ねた。耐久性が高いヒノキ材を使い、柱の根元や軒先、屋根材料などの末端を補修するだけで済むという。

所在地|奈良県生駒郡斑鳩町法隆寺山内
竣工年|711年頃
敷地面積|約191㎡
建築面積|約117.5㎡
延べ床面積|約117.5㎡
高さ|約32.6m
階数|地上1階
構造|木造

■2021年
日本のローカルがもつ多様性を世界へ発信
「国立競技場」

スタジアム全体では2000㎥もの木材を使用。外観の特徴を決める軒庇に使われた全国47都道府県から集めたスギ材(沖縄県はリュウキュウマツ)などの分量は約7%にあたる。

所在地|東京都新宿区霞ヶ丘町10-1
竣工年|2019年
敷地面積|約10万9800㎡ (旧競技場:約7万4000㎡)
建築面積|約6万9600㎡(旧競技場:約3万3700㎡)
延べ床面積|約19万2000㎡(旧競技場:約5万1600㎡)
高さ|約47m
階数|地上5階、地下2階(旧競技場:地上5階)
構造|鉄骨造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造ほか
観客席(竣工時)|約6万席、内車椅子席は約500席(旧競技場:約5万4000席、内車椅子席は約40席)

庇は47都道府県の木材を使用。各県がある方向に配置している

1300年前から続く
「SDGs建築の至宝」

国立競技場外観。高さは47mに抑え、立地する神宮外苑の杜との一体感を演出。周辺に配したベンチなどにも国産材を使う

現存する世界最古の木造建築である法隆寺は奈良県斑鳩町に西暦711年頃創建された。そして2019年11月に完成した東京・神宮外苑に建つ国立競技場。1300年余りの時を超えて日本の東西に存在するふたつの建造物は、「SDGs」という視点でとらえると確実につながっている。

SDGsは世界的に社会、経済、環境の持続可能性を高めようと、国連が2015年に加盟国の共通ゴールとして定めた17の目標のことを指す。いかにサステイナブルな世の中にしていくか──。各国が考えていくための目標だ。

「火災での焼失や改築があったとはいえ、法隆寺が1300年余り前の姿を現代にとどめているのは、『傷んだところが可視化できる』特性がある木材を使ったからです。法隆寺を改修したときの話を聞くと、メンテナンスをしやすいような仕組みを初期から取り入れていた。持続可能な建築を目指したのがわかります。これはコンクリート造の建築物ではできません」

こう指摘するのは現代建築に木や石などの自然素材をふんだんに、縦横無尽に用いる隈研吾氏だ。参画した国立競技場の設計・デザインでも、まず木を使うという発想があった。空気中の二酸化炭素を固定する木は、地球温暖化への対策としても有効だ。しかも国産木材の活用は、日本の森林環境の改善にもつながる。輸入材の消費が中心だった日本は、国産材を使わないため森林蓄積量が過去50年で約3倍に急増しているからだ。何より、木は日本人にとって馴染みの深い素材であり、ストレスを和らげて精神的な安定をもたらす作用がある。

「数万人のキャパシティが必要なスタジアムを、神宮外苑の森に馴染むように小さく低く、しかも木でつくることができるのか」。その難題を解くヒントとなったのが、法隆寺に代表される日本の建築だった。

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text:Shumon Mikawa photo:Kiyono Hattori 写真提供:独立行政法人日本スポーツ振興センター(国立競技場)
2021年9月号「SDGsのヒント、実はニッポン再発見でした。」


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