日本料理《野田》
フレンチから日本料理へ転身。
ワクワクが止まらない食体験|前編
旬を大事にし、意外性のある食材の組み合わせから生まれるイノベーティブなひと皿。フレンチに日本料理、枠に収まらない野田雄紀シェフの美味しい挑戦とは?
野田雄紀(のだ ゆうき)
静岡県出身。フレンチの名店で腕を磨き、28歳で自身の店「kiki harajuku」をオープン。13年間試行錯誤を続け、2023年10月、店を改装して「野田」として再スタートを切った
和紙に印字されたメニューは11品。「shiraae」、「tatsutaage」、「shirako ponzu」と料理名がローマ字で並ぶ。日本料理の伝統を大事にしつつ季節ごとに手を加えていきたい、その両方を表現できればと野田雄紀さん。shiraaeは想像したものとまるで違っていた。洋梨と貝を組み合わせ、牛乳でつくる湯葉のような膜を添える。要所要所で一番出汁を使っているせいか和のテイストを感じつつも、洋梨の香りと上品な甘みがミルクと重なる。続く料理もどれも驚きと感動の連続だ。和のうつわ遣いや、ノンアルコールドリンクとのペアリングも心躍る。その上メニューに載らない遊び心あふれる小皿の数々、手がかけられたデザートに、もう完全にノックアウトだ。
昨年10月、野田さんは東京・神宮前で13年間続けた「kiki harajuku」の看板を下ろし、改装を終えて店名を「野田」にあらため、再スタートした。
「フレンチを学んだものの、いざ自分の店をもつといままで学んできたことをこの場所でやっても意味がないと思ったんです。アラカルトのビストロ料理が、コースになり、和の要素が加わっていく中で、一度は日本料理をきちんと学びたいと思うようになりました」
休日に日本料理「重よし」で研修をしたのが3年前のこと。そこで出汁の引き方など日本料理の基本に加え、新しいものを取り入れる柔軟さも教わった。重よしでもコンソメを引いていたし、中華料理のエッセンスもあった。「重よしで得たことを店で試すうちにコース料理が多皿になり、自分なりのスタイルができはじめたと思います」。
ちょうどその頃、野田さんの料理を大きく変えたのが「吉野ハーブファーム」との出合いだ。珍しい西洋野菜や日本の伝統野菜など300種類もの野菜やハーブを栽培。千葉の畑でそれらを目にすると、店に持ち帰って料理に落とし込んでみる。「簡単ではないけれど、すごく鍛えられた」そうだ。
魚も大切にしており、神経締めで名高い唐津の「大山鮮魚店」から取り寄せるのと、自ら豊洲市場で仕入れたものを使用。北海道余市産のあんこうは、さっぱりとした身は竜田揚げ、濃厚な肝はバナナと合わせて太巻き、アラや皮は出汁にと余すところなく使う。
一見するとどれも日本料理。でも竜田揚げに添える野菜は、フレンチのエチュベの技法を用い、通常は白ワインのところをミカン果汁で酸味を補う。
野田さんの料理でもうひとつ特徴的なのが、果物の使い方だろう。
「果物は旬を表現しやすく、自然な甘みや酸味は調味料代わりに使えます。料理だけでなく、デザートやドリンクと一緒に考えられるのも楽しいです。キウイフルーツのドリンクをつくったら、搾りかすを発酵させて料理に使ったり、ヴィネガーに漬けて香りを移したり」
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旬の果物が隠し味の全16皿
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text: Yukie Masumoto photo: Maiko Fukui
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