「九平次」の挑戦
目指すのは日本酒×ワイン異文化ミックス。
《日本酒界の開拓者「九平次」の挑戦》第3回は、最高の日本酒をつくるために行なっている、フランスでの米とワインづくりの物語。飽くなき探究心と革新力に駆り立てられて生み出された、新しい日本酒とは。その最前線で活躍する九平次の歩みを追った。
「進化を加速させるもの、それは異文化のミックスです」
日本で先駆的な挑戦を続ける「九平次」だが、酒造りの本質を見つめるために、フランスを舞台とした取り組みも進めている。
そのひとつが、世界的なワインの銘醸地ブルゴーニュ地方で、ブドウ栽培からワイン造りを行うことだ。「2013年9月、スタッフの一人をフランス・ブルゴーニュへの長期研修に行かせました。その延長には実はワインを造ろう! と考えていたのです。日本酒の造り手である男がフランスワインに溶けこむことで、日本人の感覚がミックスされます。その新たな感覚で日本酒を造れば、必ず日本酒にも化学変化が起こるはずです」と、久野さんはねらいを語る。
そして’15年に、ブルゴーニュのモレ・サン・ドニ村に醸造所を取得。ネゴシアン(農家から原料ブドウやワインを買い、自社で熟成・瓶詰をする生産者)として、’16年にワインのテスト醸造をスタートした。さらに、’17年7月には、モレ・サン・ドニ村周辺に2・5haの畑を取得し、自社ブドウの収穫、醸造にも着手。
久野さんは「初ビンテージを造るところまで辿り着き、感慨深いものがあります。私自身が『醸し人九平次』を造るときに、ワインからさまざまなインスピレーションを受けました。ブルゴーニュでのワイン醸造という取り組みの先に、日本酒、ワイン双方の新しい未来が待っていると信じています。ワインも日本酒も同じ醸造酒ですから」と期待を込める。
そして、フランスを舞台としたもう一つの取り組みが、フランスでの米づくり。さらに、この仏産の米を使った日本酒造りだ。
フランスで最大の米作地帯、南仏プロヴァンス地方のカマルグで、2014年から地元の米農家や農業試験所と協力して、米の栽培に取り組んでいる。品種はフランス固有品種の「Manobi(マノビ)」。
「カマルグでは、これまで主にリゾットとなる米づくりをしていたのですが、日本の酒米にもっとも近い米、マノビを育てることにしました」と久野さん。
カマルグで収穫したマノビは、日本に運ばれ、日本酒「醸し人九平次 CAMARGUEに生まれて、」としてリリースされている。
フランスでブドウづくりからワイン醸造に取り組む、フランスで米づくりをし、日本酒を造る――。どちらも、21世紀以降の時代を見据えて、日本酒の新しい価値を創造するための九平次の挑戦なのだ。
文=本間朋子 写真=内藤貞保
2018年1月号 特集「ニッポンの酒 最前線!