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アートディレクター・川上シュンさん
絆と感性を育む、第2の地元づくり【後編】

2022.3.21
<small>アートディレクター・川上シュンさん</small><br>絆と感性を育む、第2の地元づくり【後編】

国内における別荘地の草分けであり、かつて白洲次郎が理事長を務めた軽井沢ゴルフ倶楽部など洗練されたカルチャーが醸成されている長野・軽井沢。グローバルに活躍するアートディレクターの川上シュンさんは、2年前よりこの地の森の中に拠点をもち、東京との2拠点生活を楽しんでいる。大自然の中に第2の地元をつくる魅力をうかがった。

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軽井沢
四畳半の空間で、長期的思考を育む

アトリエにはクライアントやパートナーも訪れる。「フィジカルで会って話す雑談からアイデアが生まれることもあるので、ここは“余白”をもって人と会う場所です」
日本橋
”特定多数”と出会う屋根裏の秘密基地

東京・日本橋のオフィスは、スタッフだけでなく川上さんがパーソナリティを知り同じ価値観をもつ仕事仲間や知人など「特定多数」が行き来し、出会える場所にしている

都心と自然の密着が価値をつくる時代

「家族がいなければずっと東京にいると思います」と笑う川上さんにとって、都心にも拠点をもつことは時代の流れをつかむために必要不可欠だと話す。

「アートディレクターとしてまだまだ成長し、社会にインパクトを与えていきたいので、アートやファッション、マーケットの流れをつかみ、トレンドにフィットしてデザインしていくべきだと思っています。どうしても経済の中心は都市にあるので、2拠点生活をはじめたとき、その部分も大切にしたいと再認識しました。いまは都心と自然がフィフティ・フィフティになるように意識しています」

そこで、2020年12月に東京・中目黒のオフィスから移転先に選んだのが日本橋だ。東京駅から近く、家族で朝食をとり、子どもを学校に送ってから新幹線で移動して10時半のミーティングに間に合うという利便性もさることながら、いままさに変化の真っただ中にある街の「予感」に惹かれたとか。

「自分のデザインには欠かせないエッセンスである『日本』が冠された街で、歴史的情緒があり、新しくインディペンデントな開発もはじまって新旧が入り交じっている。初期ブルックリンのようなカルチャーの胎動に刺激を受けています」

日本橋オフィスはフルフレックス制。同じビルにはスタートアップやコワーキングスペースなど次世代を担う企業が入る

その都心と自然の2拠点生活は、クリエイティブにおける考え方にどのような影響を与えているのだろうか。

「都心ベースで生活していると、めまぐるしいトレンドの変化に合わせて考え方が短期的になりがちですが、自然の時間の流れに身を置く時間が長くなることで自分の思考のスピード感も呼応し、長期的な思考が育まれる。昔から時代を超える、古くならないという意味で“TIMELESS”をコンセプトにデザインしてきましたが、その思いがより強くなりました。加えて、自然に負荷がかからないようなデザインや10年後を見据えたブランディングなど、サステナビリティやSDGsが言葉先行ではなく、自然の中での暮らしにひも付いた実感をもって取り組めるようになりました」

2001年から2018年までのartlessのポートフォリオ。国内外の先鋭的なホテルやレストランを多数手掛けている

実際に川上さんは、軽井沢との2拠点生活をはじめてから、大阪とバルセロナに拠点をもつ1mokuとランドスケープをコアコンセプトに「自然・建築・デザインの共生」を模索し表現する合弁会社「1A. Ltd.」(ワンエー)を立ち上げた。さらに、苗を植えるところから数年がかりでワインを造りはじめるスタートアップ「seven cedars winery」のブランディングなど、これまでになかった自然と密着した新しいプロジェクトも動き出している。

「いまの2拠点生活ができているのは家族の理解やサポートがあるからこそ。だから本当に感謝していますね。都市と自然を行き来する暮らしには、これからの時代に必要な価値観が内包されていると感じています。自然の中に第2の地元をつくることで感性が豊かになり人生の幅が広がるので、仕事内容に関わらず都市部で働き、物理的にフレキシブルなワークスタイルができる方はおすすめです」

Azumi Setoda/2021年
アマンの創業者、エイドリアン・ゼッカとナル・デベロップメンツが立ち上げた新しい旅館ブランド「Azumi」。ロゴデザイン、VI構築、サイン、ステーショナリー、アメニティ、ウェブなど、包括的なブランドデザインを担当
1A. ltd./2022年
庭師・スガヒロフミ氏による空間、ランドスケープデザインを手掛ける1 mokuとともに設立。ランドスケープを中心に、ホテルヴィラなどの建築、設計施工、グラフィックやサイネージなど自然と融合するデザインを行う
seven cedars winery/2022年〜
山梨・河口湖ではじまったワイナリー。artlessは、ネーミングからはじまり、包括的なブランディングを手掛ける。「製造所前に試飲できるテラスを設けるなど、自然の中の暮らしから着想を得たアイデアを取り入れました」

“地元”の拡充がもたらしたのは
都市と自然の価値を高めること。

artlessを核に、都市の価値を高めるデザイン&アートの祭典「DESIGNART TOKYO」、ビジネス戦略、事業コンサルに特化した「artless business consulting」や、「1A. ltd.」など、領域や視点を広げる試みを続ける

<東京⇔長野を行き来するタイムスケジュール>
07:00     起床・朝食
08:25     娘を学校へ送る
09:00~10:15 新幹線(軽井沢→東京)
11:00~18:00 日本橋オフィスでチームMTGもしくはクライアントへのプレゼンなど
18:00~21:30 会食、ディナーMTG
22:00~01:00 新幹線(東京→軽井沢)もしくは東京・代官山の自宅でインプットの時間
01:00     就寝

<移住の基本データ>
名前|川上シュンさん
拠点をもっている場所|東京・代官山(東京の家)と日本橋(オフィス)、長野・軽井沢(家族の家とサテライトオフィス)
職業|artless Inc.代表、ブランディングディレクター/アートディレクター/アーティスト
家賃&間取り|「僕が購入」/ 1LDK(東京・代官山)、「妻が購入」/1LDK & Office(長野・軽井沢)
家族構成|本人、妻(川上ミホさん)、娘(ひのきちゃん)の3人
第2の地元をつくった理由|都市と自然を行き来することで、これからの価値観と高いQOLが見つかるだろうと考えた。
地元を複数もつことのメリットとデメリット|メリット/自然の中で感性を磨いたり、豊かな時間を感じられる。いままでとは異なるつながりや広がりがある。デメリット/特になし。
地元を増やしたことでできた趣味|野遊び、焚き火、薪割り、サウナ、スノーボードに復帰

text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki
Discover Japan 2022年3月号「第2の地元のつくり方」

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