アートディレクター・川上シュンさん
絆と感性を育む、第2の地元づくり【前編】
国内における別荘地の草分けであり、かつて白洲次郎が理事長を務めた軽井沢ゴルフ倶楽部など洗練されたカルチャーが醸成されている長野・軽井沢。グローバルに活躍するアートディレクターの川上シュンさんは、2年前よりこの地の森の中に拠点をもち、東京との2拠点生活を楽しんでいる。大自然の中に第2の地元をつくる魅力をうかがった。
川上シュンさん
artless Inc.代表/アートディレクター。デザイン思考とビジネス思考を組み合わせ、建築、インテリア、ロゴ、空間演出など、幅広い領域でブランディングを手掛ける。
https://artless.co.jp
東京・日本橋⇔長野・軽井沢
感度と絆を深めた自然との共生
東京を拠点にアジア、ヨーロッパ、アメリカなどグローバルに活躍するブランディング・エージェンシー「artless Inc.」を率いる川上シュンさんが、長野・軽井沢に拠点をもったのは2年前。もともと川上さんは、これまでも自分をアップデートするために環境を変えてきた。
「20代の頃に1年間NYに住み、30代はイギリスなど、これまでもインプットを増やし、自分のポテンシャルを探求するために拠点を増やしてきました。2015年から5年間、京都に拠点をつくったのは、日本のルネッサンスである安土桃山の芸術や京文化を学ぶためでした」
そこから“自然”に目を向けたのは、東京・門前仲町で生まれた後、渋谷、表参道、代官山で学び育ち、都市やアート、芸術、ファッションにフォーカスしてきた川上さんにとって新しいフェーズであり、常に次代をつくるアートディレクターとして地球環境がキーワードとなっている時代の流れもあった。そして、時を同じくして料理家・フードディレクターとして活躍している妻の川上ミホさんがサマーハウス兼ラボとして軽井沢に土地を探し、愛娘のひのきちゃんが、異年齢が混ざり合い大自然の中での自由教育で学ぶ軽井沢風越学園に入園したことが何より大きいという。パンデミックも相まって本格的に東京⇔軽井沢の2拠点生活となった川上さんはいま、週の半分を軽井沢でリモートワークしている。
鳥のさえずりで目を覚まし、新緑や紅葉で色づく森の美しさに心を奪われる――。テラス側全面に高く窓を取ってカーテンを付けず、森の中に溶け込んだ暮らしは、新しい発見に満ちていると話す。
「アウトドアで非日常を体験するのではなく、日常として自然の中に“身を置く”ことで、大げさにいえば自然と一体となっている時間が心地よい。田舎暮らしをしたかったわけではないので、都市生活と同じことをしているのですが、暖炉に薪をくべたり、テラスでコーヒーを淹れているときなど、何げない瞬間にクオリティ・オブ・ライフの高さを感じるようになりました。四季の移ろいや自然の偉大さを体感することで『おもしろい』の価値観自体が変わり、都市にいるときとは異なり五感の感度も上がりましたね」
そして、東京・日本橋のオフィスまで新幹線で1時間強と物理的な距離は遠くなったが、その反面、第2の地元をもつことで家族との距離は近くなったという。
「東京にいるときは僕も妻も忙しいですが、家族みんなで自然の中で過ごすことによって精神的な距離が近くなる。東京にはつくられたエンターテインメントがあふれていますが、ここでは自分たちが『楽しいをつくる』環境で、なおかつ子どもの送り迎えなど、ちょっとした不便が共同作業を増やすので、もともと仲はよかったですが絆がより深まった実感があります」
野遊び、コーヒー、料理。
“何もない”を家族で楽しむ
シームレスなワンルームと、
オフィスは日本らしさを表現
川上ミホさんが図面を引いた母屋は、常に家族の気配が感じられるようにキッチンとリビング、寝室をシームレスにつなげたワンルーム空間。生活と仕事を快適に分けるために仕事場も設置
<長野・軽井沢のタイムスケジュール>
07:00 起床・朝食
08:25 娘を学校へ送る
09:00~10:30 EV車を充電しながらMTGやインプットの時間
11:00~18:00 軽井沢サテライトオフィスで仕事、Zoom MTGなど
18:00~21:00 家族とのディナー
21:00~23:00 庭にあるテントサウナで汗を流す
24:00 就寝
text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki
Discover Japan 2022年3月号「第2の地元のつくり方」