FOOD

鮭とともにある歴史と食文化が残る
新潟・村上の鮭文化を訪ねて
【第四章】

2022.2.22
<small> 鮭とともにある歴史と食文化が残る</small><br>新潟・村上の鮭文化を訪ねて<br>【第四章】
三面川が与えてくれる鮭は「大切な天からの恵み」だと、感謝の気持ちと祈りを捧げ、塩引きの作業に入る

新潟県村上市の城下町には、1000年続く鮭文化がいまも残されている。三面川の鮭漁と人工ふ化施設、戦後に廃れかけた鮭文化を守り継ぐ人たち、そして余すところなく美味しくいただく鮭料理。鮭のことを「イヨボヤ」と慕う村上では、鮭がいとおしく思えてきます。

≪前の記事を読む

「千年鮭 きっかわ」の店舗奥の土間やいろりの間には、塩引き鮭と、1年干し上げる酒びたし用の1000本もの鮭が吊るされている
内臓も全部美味しくいただく。鮭一尾から取り出したものがこちら。煮付けや汁物、揚げ物などにそれぞれに工夫した料理がある。「内臓とネギ、いちょう切りの大根を入れたなわた汁は、出汁要らずで美味しいですよ」と吉川さん

人生の節目に欠かせない鮭と
村上の人々

いまでこそ村上は鮭の町として知られるが、戦後、地元では当たり前だった鮭料理が古臭いとされ、消えかけた。そこを守り抜いたのが「千年鮭 きっかわ」だ。「大みそかや正月、夏祭り、5歳の男児を祝う袴着など、人生の節目で鮭料理は欠かせません」と吉川さん。ふるさとの味を子どもたちに残したいと、伝統の塩引き鮭や、現代の食卓にも合う商品を加工販売している。

料理人からの信頼も厚い「マルト鮮魚」では、村上の鮭文化を受け継ぎつつ、北海道産の鮭を使う。「漁協で、一番札で落とした本当によい鮭を、24時間以内に届けてもらいます」と佐藤さん。普段使いできる価格で、食べ応えがある塩引き鮭は人気が高い。

さらに村上では、鮭の博物館「イヨボヤ会館」も見逃せない。鮭の生態や人工ふ化の様子、漁の歴史などがわかり、秋から初冬にかけては川を遡上する鮭の姿も見られる。

築130年の町家で村上の鮭文化に出合える

暖簾をくぐると熟成鮭のいい香りに包まれる。塩引き鮭をはじめ、酒びたし、鮭の焼漬け、腹子の醤油漬けなど、村上の家々で受け継がれてきた鮭料理をはじめて加工販売した老舗。昔ながらの手づくりで、保存料や添加物はいっさい使っていない。ウェブでも購入可。きっかわ経営の鮭専門料理店「井筒屋」で鮭料理のコースもいただける。

止め腹で二段に開いた鮭の、腹の奥、エラを除いた奥まで丁寧に塩をすり込む
塩をした鮭は「はんぼ」と呼ばれる専用の木桶で、鮭の大きさにより4〜7日ほど寝かせる

千年鮭 きっかわ
住所|新潟県村上市大町1-20
Tel|0254-53-2213
営業時間|9:00〜17:30
定休日|なし
www.murakamisake.com

鮭料理の横綱、鮭の塩引き1尾1万1880円。半身や切り身もある
鮭の酒びたし714円〜。日本酒をかけて

北海道の最高の鮭で村上伝統の塩引き鮭を

塩引き鮭には身質のよさを優先し、北海道の沖合で捕れる銀毛の鮭を、酒びたしには脂が少ない本州の鮭を使用。止め腹や、尾から吊るすといった村上の心はしっかり受け継ぎながらも味を追求し、普段使いできる価格で販売している。塩引き鮭をつくる期間中は、工場に干された鮭を実際に見て、好みのものを選べる。ウェブでも販売。

工場内の鮭干し場で寒風に吹かれる塩引き鮭。川を遡上する鮭に比べ、干し上げ後も背中が盛り上り、尾まで丸みが残る
マルト鮮魚の3代目を継ぐ佐藤隆司さん。「特別な一本もご相談ください。好みの塩引き鮭をお届けできます!」

マルト鮮魚
住所|新潟県村上市庄内町5-24
Tel|0254-53-2932
営業時間|8:00〜17:00
定休日|水・日曜
https://maruto-sengyo.com

川にいる鮭を間近で観察できる博物館

鮭の保護目的でつくられた三面川の分流(種川)を、ガラス越しに直接見られるのが圧巻。秋から初冬にかけては産卵シーンに遭遇することもある。鮭はどうやって母川を探し当てるのか、三面川になぜ鮭が遡上するのか、村上の鮭がどのように守られてきたかなど、鮭のことがよくわかる。

三面川(種川)を望む生態観察室。1〜9月は海に向かう鮭の稚魚を、10〜12月は親鮭たちの姿を見られる。写真は12月初旬。奥に鮭の姿が見える
1984年に会館した日本ではじめての鮭の博物館
鮭のミニふ化場。10〜1月は発眼した卵や仔魚など小さな命に出合える
鮭の伝統漁法とその道具、村上の鮭食文化、世界の鮭の種類など、鮭にまつわる展示も充実

イヨボヤ会館
住所|新潟県村上市塩町13-34
Tel|0254-52-7117
開館時間|9:00〜16:30
休館日|臨時で閉・開館日あり
料金|600円

 

    
 

text: Yukie Masumoto photo: Kenji Itano
Discover Japan 2022年2月号「美味しい魚の基本」

新潟のオススメ記事

関連するテーマの人気記事