鮭とともにある歴史と食文化が残る
新潟・村上の鮭文化を訪ねて
【第二章】
新潟県村上市の城下町には、1000年続く鮭文化がいまも残されている。三面川の鮭漁と人工ふ化施設、戦後に廃れかけた鮭文化を守り継ぐ人たち、そして余すところなく美味しくいただく鮭料理。鮭のことを「イヨボヤ」と慕う村上では、鮭がいとおしく思えてきます。
余すことなくまるごといただく
村上の鮭料理を料亭で味わう
ふ化場の直売所に、「料亭 能登新」主人である山貝誠さんの姿があった。鮭のシーズン中は毎朝のように顔を出し、その日の一番鮭を仕入れる。
江戸時代から約250年続く暖簾を守る山貝さんは、東京の名店で修業した後、16年前に村上に戻り、11代目を継いだ。転機となったのが地元の若手漁師や、漁協の人たちとの出会いだった。鮭漁の歴史や鮭という魚を深く知るようになり、その一方で漁師にはどんな鮭が欲しいかを伝え、漁協に協力してもらいながらつくり上げていったのが、鮭尽くしの会席料理だ。
「昔から、鮭が揚がったらその分を全部買い取るというスタンスで漁師さんとの信頼を築いてきました。だからいまもいい鮭が手に入ります。うちの鮭料理の95%以上は村上の鮭です」
30品ほどの鮭料理を堪能できるフルコースは、村上に伝わる伝統料理もあれば、山貝さんが考案した革新的な料理もある。先附に出している「白子豆腐」は創作料理のひとつ。濃厚な白子豆腐に鮭のヒレ出汁のあんをかけ、ユズの香りを添える温かな一品だ。
江戸時代の漁師料理を再現した「川煮」は渾身の料理である。昔の三面川では、漁師たちは寒空の下、ふんどし一丁で川に入り、網で囲って鮭を捕っていた。稲藁でつくられた川岸の番小屋で暖を取り、お腹を満たしたのが川煮だ。大鍋に沸く味噌汁の中に、川で捕ったばかりの鮭を内臓ごと筒切りにして豪快に加えた。
鮭は絶命して30分後に死後硬直がはじまる。そのため、この川煮は時間が勝負だと山貝さんは言う。「いい鮭が揚がったら漁師さんに活かしておいてもらい、すぐに板場に持ち帰って包丁を入れ、味噌で煮るという工程を30分以内に行います。鮭の身が活かっている状態で火入れしてこそ、身がはじけて盛り上がり、ふかふかの食感になる。だからこれは鮮度の料理です」
当時、川煮で使いきれずに残った鮭は稲藁の上に置いていたそうだ。藁にすむ菌の作用で発酵が進み、1週間ほど日持ちしたといわれている。
「川を遡上する鮭は、海で捕る脂ののった銀毛と違い、産卵を控えて身が痩せています。でも川には川の旨みがあって、毎日食べるならさっぱりとした川の鮭がいい。体に赤い婚姻色が出てくると、本当にきれいなんですよ」
能登新はこの1月に、料亭料理をリーズナブルにいただける新店舗をオープンする予定だ。村上が誇る鮭文化を未来につなげたいという山貝さんの思いが少しずつかたちになっている。
料亭 能登新
住所|新潟県村上市飯野2-1-9
Tel|0254-52-6166
営業時間|11:30〜14:00(L.O.13:30)、
17:00〜23:00(L.O.22:00)
定休日|不定休
http://notoshin.com
text: Yukie Masumoto photo: Kenji Itano
Discover Japan 2022年2月号「美味しい魚の基本」