新潟県燕市《工房アイザワ》
追求した“機能美”を愉しむカトラリー

金物の街・新潟県燕市で1922年に創業した台所道具メーカー《工房アイザワ》。その洗練されたデザインは、使いやすさを極めた“機能美”から生まれる。世代を超えて受け継がれ、時とともに深まる“経年変化”を愉しめるカトラリーの魅力とは?
工房アイザワ(こうぼうあいざわ)
装飾を極限まで削ぎ落とした佇まいを特徴とする1922年創業の台所道具メーカー。各地に根づく機能美あふれる製品を取り扱う。
デザインは機能の“おまけ”?
職人の手が生み出す本物の使いやすさ

ハンドルの壊れやすさを補完するため、持ち手を三角形にして固定したところ、偶然にも洗いやすく注ぎやすいかたちのケトルに
金属洋食器の街・新潟県燕市において、のこぎりや鉋といった大工道具を扱う個人商店からはじまった「工房アイザワ」。昭和中期に入ると電動化の波が建築現場に押し寄せたこともあり、徐々に取り扱い製品をプロユースの大工道具から家庭向けの調理道具へとシフト。
5代目の相澤保生さんは「うちは代々デザイン力があまりない」と謙虚な心持ち。だが、創業当初から培ってきたものづくりの経験と勘により、デザインをプロに依頼することなく、誰もが納得する使い勝手を突き詰めてきたことで、1986年にはマットな墨色のカトラリー「MONOPRO+BOXER」がニューヨークにある近代美術館の永久収蔵品に加わる。
「使いやすい道具について考え抜いた結果が私たちの製品であり、デザインは機能のオマケのような感じがしますね」と話す相澤さん。かつて新たな雪平鍋を生み出そうと試行錯誤したというが、一周して普遍的なかたちに戻ってきたのだとか。
「一番使いやすいからこそ、誰もが知る雪平鍋のかたちがいまでも残っている。見た目の格好よさだけを追求しても使いにくいのだと実感しましたね」と、先代から渡された〝道具をつくる〟といったポリシーは、そのまま残しているという。

そんな〝食卓の道具〟である純銅洋食器シリーズにも普遍的な美しさが宿る。
「使用頻度が一番高いのはご飯を食べるときですよね。だからこそ食事をフィーチャーしたものがほしいと思ったんです」と、先代が手掛けたヒメフォークやクリームスプーンなどのラインアップに相澤さんが新たに追加したものが、これまでのデザインを踏襲しつつも汎用性の高さを追求したデザートスプーンとデザートナイフ。
純銅に銀メッキを施した製品は「銀食器=最高級」といった往時の風潮から誕生したと考えられるが、相澤さんいわく、銀食器同様、使うごとに風合いが増す銅の経年変化を楽しんでほしいとの想いから生み出したのではないかとのこと。
5㎜厚の銅板を切り出してつくられるカトラリーには心地よい重さが宿るが、この厚みにたどり着いたのは、ひとえに相澤家の人々がものづくりに真剣に向き合ってきた成果である。

切り出し、成形、研磨と、工程別に分業制なのが燕市のスタイル。純銅洋食器シリーズにおいては3軒の製造現場を経てかたちになる
「オーバークオリティと呼べるほど細部まで研磨しているので、希望としては3代にわたり使ってほしいと思っています。だからこそ、いいところも、経年変化による美しさもわかった上で購入していただきたいんですよね」と話すよう、こなれた風合いになる過程を楽しめる人にこそ使ってもらいたいというのが工房アイザワの願い。
「弊社の製品はあくまで日々使うための〝道具〟なので、使ったら手入れをしてほしいです。手で洗い水気を拭く。これだけで末永く愛用できると思いますね」
《工房アイザワ》商品ラインアップ

純銅洋食器 デザートスプーン 銀仕上
とろみのあるカレーにも、さらりとしたスープにも使える汎用性の高い一本。丸みのあるヘッドは、先代のデザインを踏襲した。

純銅洋食器 デザートナイフ 銀仕上
銅の柔らかさを補強するため、刃の部分にはステンレスを使用。あえて銀メッキのつやを落とすことで、落ち着きある風合いに。
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Discover Japan Lab.
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1渋谷PARCO 1F
Tel|03-6455-2380
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定休日|不定休
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※サイズ・重量は掲載商品の実寸です。同じシリーズでも個体差があります。
text: Natsu Arai photo: Norihito Suzuki
2025年4月号「ローカルの最先端へ。」