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海に囲まれた日本の漁獲量【後編】
知っているようで実は知らないニッポンの魚事情

2022.4.17
海に囲まれた日本の漁獲量【後編】<br><small>知っているようで実は知らないニッポンの魚事情</small>
photo by Godimus Michel

海に囲まれている島国・日本。海流の影響で世界でも有数の魚の種類を誇り、豊富で美味しい海の幸に恵まれています。そのため日本の食文化は、魚と切っても切れないつながりがあるのです。でも実は、魚のことを知っているようで、知らない人も多いのではないでしょうか。今回は、『水産白書』を担当する水産庁漁政部企画課の山本隆久さんに教えていただいた日本の魚事情を、前後編記事にてご紹介します!

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気になる日本の魚のあれこれ

Q.サンマ祭りの危機?日本で捕れなくなっている魚種がいる?
A.海洋環境の変化や外国漁船の影響で減った魚も増えた魚も。

漁獲量世界一を支えた立役者マイワシ
1977年から1991年まで世界一だった日本の漁獲量を支えたのがマイワシの豊漁。1988年のピーク時には約450万tで、全漁獲量の3割以上をマイワシが占めていた

洋環境が数十年間隔で周期的に変化するレジームシフトにより、漁獲量が減少しているマイワシのほか、近年はサケ、サンマ、スルメイカの不漁が続いている。2020年には、サケは5.6万t、サンマは3万t、スルメイカは4.7万tと、いずれも過去最低レベルの漁獲量となった。気候変動による海洋環境の変化、外国漁船による漁獲の影響など、その要因はさまざま。サケは、稚魚が海に下りる時期に、生き残りに適した水温の期間が短かったと考えられているが、海洋環境の変化により、そもそもの回帰率が低下していることも指摘されている。サンマは、仔稚魚の生残率が低下して資源量が減少している上、日本沿岸の水温上昇に伴って回遊経路が変化。沖合を南下するようになったことも不漁の要因とされる。そしてスルメイカは、産卵海域である東シナ海の水温が上昇し、産卵・生育に適さなくなっていると考えられている。ほかにも日本各地での磯焼け(海藻が枯死・消失してしまう現象)の拡大と、それに伴うイセエビやアワビといった磯根資源の減少や、サケの夏期の分布南限が北上して分布可能域が縮小するなど、日本近海の海水温の上昇を主要因とするさまざまな現象が報告されている。

日本海でサワラ急増
かつては瀬戸内海の春の名物だったが、1980年代後半から漁獲量が激減。その一方で、1999年以降は日本海での漁獲量が増大している。さまざまな要因が考えられるが、日本海の海水温上昇が一因とされる

一方で、海水温の上昇をはじめ、海洋環境の変化によって、漁獲量が増えている魚種もいる。たとえば北海道のブリ。ブリは本来、暖かい海を好む魚で、北海道での漁獲量は2003年には約300tだったが、2011年には20倍以上にあたる7146t、2013年には1万2000tを超えるなど、豊漁が続いている。また日本海側では、同じく温かい海を好むサワラの漁獲量が1999年以降、増大している。

Q.そんな日本でいま人気の魚種って?
A.勢力図激変!約30年でサケが圏外からトップに!

ここ十数年、サケが首位をキープ
日本で最も食べられている水産物。天然物は寄生虫のいる可能性が高いため、生食用として売られているものは養殖物が基本。ちなみにサケ、サーモン、マスなどさまざまな呼び名があるが、それぞれに明解な区別はない

1人あたりの食用魚介類の消費量、生鮮魚介類の購入量ともに減少し続けている日本だが、時代とともによく消費される、つまり人気の魚種も変化している。1989年にはイカやエビが上位を占めていたが、近年はサケ、マグロ、ブリが上位の常連。また、上位3魚種の1世帯1年あたりの地域ごとの購入量の差は、この30年間でずいぶん縮まっている。これは、流通や冷蔵の技術が発達して全国的に購入しやすくなったことが一因。そして食生活の変化に加え、スーパーマーケットが増えて鮮魚店が減るなど消費構造が変化したことで、切り身など調理しやすく、食べやすいかたちで購入できる魚種の需要が高まったことが全国的な消費の拡大につながったと考えられる。また、平成に入り、チリやノルウェーの海面養殖による生食用サーモンの国内流通量が大幅に増加したことも要因のひとつ。2013年以降、食料品全体の価格が上昇するとともに、生鮮魚介類の購入量は減少しているが、サケに限っては、価格が上昇しても購入量はそれほど減少していない。このことからも人気の高さがうかがえる。ちなみに、日本の水産物輸入金額を見ても、サケ・マス類が最も多い。

text: Miyu Narita illustration: Yusei Nagashima 参考=水産庁『令和2年度水産白書』
Discover Japan 2022年2月号「美味しい魚の基本」

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