とらやの羊羹に使われる和紅茶も
自然栽培にこだわる
「天の製茶園」の挑戦【序章】
熊本県の最南部、鹿児島との県境に位置する水俣市。鹿児島や宮崎に比べて産地の知名度は低いものの山間部ではお茶づくりが盛んに行われている。水俣川の源流域の石飛高原でお茶をつくる「天の製茶園」は、水俣を代表する茶園のひとつ。自然栽培のお茶、自生のお茶を活用して見据える日本のお茶の未来とは? 3代目の天野浩さんにうかがいました。
標高630mの高原で
1979年から無農薬のお茶をつくる
水俣市の石飛高原でお茶をつくる「天の製茶園」。1979年から無農薬、無化学肥料のお茶づくりを続ける茶園で、生産量の約8割が紅茶というから珍しい。3代目の天野浩さんに話をうかがうと、自然栽培の紅茶への転換は、父である茂さんの挑戦だったという。
「祖父が1949年にこの地に開拓団として入植し、茶業をはじめました。その後父が継いで緑茶をつくり続けていたのですが、水俣病という大きな事件をきっかけに、ものづくりにおける地域への影響を突きつけられたといいます。口に入れるものの安全性を見直し、農薬を使わないという選択をしました。さらに、いまよりも緑茶が高値で取引されていた時代に、主力を紅茶に切り替えました。というのも、緑茶はまず外観で評価され、味がよくても無農薬であることに価値がつかなかった。父は先を見据えて、より自由度が高く、当時珍しかった紅茶に着目したようです。女性や若い方など新しいお客さまも増えていきました」
天野さんは、茂さんの意思を引き継ぐだけでなく、つくりを森の循環や再生、地域の環境負荷の低減を考えたものに進化させている。「水俣という場所だからこそできる」という天の製茶園のお茶づくりを、うかがっていこう。
text: Akiko Yamamoto photo: Yoshihito Ozawa
Discover Japan 2021年11月号「喫茶のススメ お茶とコーヒー」