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淺野鍛冶屋(あさのかじや)
短刀をヒントに生まれた“世界一切れる”包丁〈前編〉

2021.8.14
淺野鍛冶屋(あさのかじや)<br>短刀をヒントに生まれた“世界一切れる”包丁〈前編〉

肉抜き(重量の削減)を目的として、日本刀に彫られる溝を名の由来とする新包丁「棒樋(ぼうひ)」。刀匠が手掛けた短刀にも似る“ひと振り”は、使う者に畏敬の念すら抱かせる、世界最高の切れ味を宿した逸品だ。だが、その非常に鋭い切れ味は、意外にも一般家庭に向けられたもの。天下泰平を想う刀匠の真心を投影した棒樋が、キッチンからニッポンの刃物文化を揺るがすかもしれない。

淺野鍛冶屋の包丁は、Discover Japan公式オンラインショップにて購入いただけます。日本の逸品を実際に手に取り体感ください。

火床から鋼を取り出し、手鎚を振り下ろすと、カーン! という金属音とともに火花が飛び散る。房太郎さんは顔も覆わない

淺野太郎(あさの たろう)
1976年、岐阜県生まれ。13歳の頃から趣味で鍛錬をはじめ、20歳で刀匠・25代・藤原兼房に入門。羽島市に鍛錬場を構えた後、カナダ、アメリカ、フランスなど各国を奔走し、刀鍛冶の魅力を広めた。2015年からはインバウンド事業「鍛造ナイフ作り体験」を開始。

刀は“世界最古級の技術体系”。
いま外国人が最も注目する鍛冶屋

コークスや重油を使わない伝統的な火床(ほど)で仕上げた新作包丁・棒樋(ぼうひ)(11万円〜/上)と短刀(下)。貴重な松炭をふんだんに使って赤められるため、「浸炭」(炭素供給)作用が起き、優れた刃物となる

蓮の葉の上に遊ぶ雨粒を思わせる美しい紋様に彩られた、光り輝く刃身。日本刀を思わせるためか、その持ち手を握る前には緊張感が走る。だが、ひとたび食材に刃を当てれば、あたりに響くのは、刃先がまな板に当たる音のみ。すとん、すとん……切っていることすら忘れるなめらかな切れ味に緊張は消え、爽快感だけが残った。

和包丁とも洋包丁とも似つかぬ鍛造包丁「棒樋」が産声を上げたのは、刀匠・房太郎こと淺野太郎さんの鍛錬場。一般的な鍛冶屋のイメージとは異なり、住宅街に建つ工房の外にはイチョウの黃葉が舞い、小学生の元気なあいさつが聞こえてくる。だが、暗がりを保った鍛錬場に一歩踏み込めば、そこは灼熱の世界。ごうごうと轟くふいご(燃焼を促す手動の送風機)と、約700℃に赤められた鋼、白装束が神々しい房太郎さんの姿がある。その緊張感とは裏腹に、房太郎さんは、刀鍛冶に対する想いを、軽妙に語り出した。

「淺野鍛冶屋が目指すのは、感動的なデモンストレーションや、切れる喜びを軸に据えた『エンターテインメント集団』です」。房太郎さんは“本物の刀鍛冶”を伝えるため、独立して間もない頃から、アメリカ、フランス……と国境をまたぎ、鍛造ワークショップを主催してきた。そのかいあって、いまでは年間約500人もの外国人が淺野鍛冶屋を訪れる。「『ハイテクの根幹にある、本物のローテクが知りたい』というIT関係者が多いのが特徴です。私自身、刀鍛冶の価値を再認識できたのは、収穫でした」。

こうして手応えを得たものの、いまだ地道なチャレンジは続く。真骨頂ともいえる取り組みが、刀工の組織化だ。

「一般に、刀鍛冶の見習い期間は無給です。その間に学ぶのは、掃除や炭切りなどの地味な仕事と、鍛錬のような華々しい仕事が等価値であること。弟子の生計が立たなくては組織化は難しいので、淺野鍛冶屋では1年間の無給期間後、包丁の鍛造を担います。技術とやりがいを得た若手刀工に、より早く次世代を担ってほしいのです」

「常在横座(じょうざいよこざ)」は、常に横座(ふいごの横)にいる心であれ、という刀匠の決意を示す。横座は、鍛冶場の代表を意味する言葉でもある
刀匠・房太郎さんが独立後はじめて打った刀。「いま見ると至らない点が多々ありますが、これほど丁寧に鍛えたものもありません。初心のひと振りです」と語る
日本刀の材料となる「玉鋼(たまはがね)」。炭素量が多いゆえに分子の変化が激しく、包丁鋼よりも格段に取り扱いが難しい
左が棒樋、右が一般的な包丁で切った断面。棒樋で切ったものは細胞がつぶれずフラットな断面。素材のアクはもちろん、旨みも流出しにくい。口に含めば未体験なシャープな舌触り。素材そのもののポテンシャルを発揮させるのも刃物の重要な役割なのだ
既存の和包丁・洋包丁のどのスタイルにもあてはまらない棒樋。驚きの切れ味を、ぜひ購入して体験してみてほしい

 

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淺野鍛冶屋の包丁は、
Discover Japan公式オンラインショップにて購入いただけます!

 

淺野鍛冶屋の商品一覧

text: Akira Narikiyo photo: Kazuma Takigawa
2019年12月号「人生を変えるモノ選び」


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