TRADITION

美しい日本語(後編)
「いまさら聞けない手紙のマナー」

2020.12.30
美しい日本語(後編)<br><small>「いまさら聞けない手紙のマナー」</small>

帰省が叶わない人も多い今年の年末年始。こんなときだからこそ「手紙」で一年分の感謝を伝えてみませんか? 贈り物に手書きのメッセージを添えるのもいいかもしれません。手紙を書くときに役立つ、柔らかな印象を与える美しい日本語を集めました。

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教えてくれた人
上野 誠(うえの・まこと)
日本文学者(万葉学者)、民俗学者。奈良大学文学部国文学科教授。万葉学の第一人者として知られる。著書に『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』(幻冬舎)など

【ひと時】

例)充実したひと時でした。
「ひと時」は昔の時間区分では、いまの約2時間を表していた。転じて、「しばらくの時間」を意味するようになった。しかし、「しばらく」ではなく、「ひと時」という大和言葉を選ぶことで、特別な時間や体験という意味合いを含ませることができる。目上の人や取引先に対し、例文のように使うと印象がよい。

【頃合いをみる】

例)頃合いをみてご相談します。
「頃合い」とは、ちょうどよい時機のこと。「頃合いをみる」は、その時機を判断するという意味合いになる。したがって、「そのときの状況判断で」、「そのときの雰囲気で」、「空気を読んで」と言い換えることもできる。正確に時間を決められない状況、もしくは、決めていても変更せざるを得ない状況において、便利な言い回しである。

【お力添え】

例)ぜひお力添えいただけますでしょうか。
力を添えて助けること、援助することをいい、上司など目上の人に助力を頼む際に使う。漢語の「ご協力」ではなく、大和言葉の「お力添え」を選ぶことで、相手が力のある人物であることを暗に示すことができ、相手も気持ちよく力を貸してくれる。目上の人を手助けする際は、「及ばずながら力添えさせていただきます」と使いたい。

【とりなす】

例)おとりなしありがとうございました。
対立する二者の間の関係をとりもち、うまく場を治めることをいう。もともと「とる」は、手に持つことや、取り扱うことを意味する。そこから、あるものを別のものに替えること、うまく取り扱うことを「とりなす」というようになった。ただし、抜本的な対策ではなく、「とりあえず」という意味合いが含まれる。

【荷が勝つ】

例)私には荷が勝ちますので……。
荷物が重過ぎること。転じて、負担や責任が重過ぎることをいう。自分の力よりも「荷」が勝つわけであるから、自分の力不足を認める謙虚さが表れる言葉。人から頼みごとをされ、「できません」と言いづらいときに、例文のように使うと、相手の気持ちを損ねずにやんわりと断ることができる。

【おこがましい】

例)私が言うのもおこがましいですが……。
「おこがましい」は「さしでがましい」とよく似た言葉で、ばかげている、身のほど知らずという意味もある。「本来なら、そんなことを言える立場ではないけれど」、「身のほど知らずですが、言わせてください」という意味を込めて前置きすることにより、相手の反発をやわらげる働きがある。

【とんでもないことです】

例)迷惑だなんて、とんでもないことです。
「とんでもない」は、相手の言葉を強く否定し、まったくそんなことはないと伝える表現。「とんでもないことです」は、より丁寧な言い方になる。「とんでもありません」、「とんでもございません」は、現在は受け入れられつつあるが、昔はなかった使い方。誤用だと受け取られかねないので、ビジネスシーンでは避けたい。

【よんどころない】

例)よんどころない事情がございまして、うかがうことができません。
「よんどころ」は「よりどころ」が変形した言葉。頼りにするところがないのだから、どうしようもなく困った事態を意味する。仕事や家庭の問題などで、そのような事態に陥った際、個人的な事情を人に話したくない場合に「よんどころない事情」という言葉でぼかすことができる。また、相手に余計な心配をかけたくない場合にも使える表現である。

【言わずもがな/言わずと知れた】

例)言わずもがなのことですが……。
「言わずもがな」と「言わずと知れた」は、すでに多くの人が知っており、言わなくてもわかることを、あらためて言わなければならないときに前置きとして使う。とりわけ「言わずもがな」は、口に出して言うと差し障りがあったり、くどくなってしまったりする場合に用いることが多い。

【身に余る/身に過ぎる】

例)身に余るお言葉でございます。
「身」には多くの意味があるが、ここでは「身分」を表す。「身に余る」、「身に過ぎる」は、「私には身分以上である」、「私には分不相応である」という意味になる。漢語の「過分な」に言い換えることもできる。目上の人に褒められたときに「身に余るお言葉でございます」と返すことができると、謙虚さが伝わる。

【いかんともしがたい】

例)いまの私の力ではいかんともしがたく申し訳ありません。
「いかん」は「いかに」の変化形で、疑いを問う言葉。これを否定した「いかんともしがたい」は、なんとかしようにも、どうにもならないという意味になる。この言い回しは、相手の気分を害さずに頼みごとを断りたいときに便利である。「あなたのためにどうにかしてあげたいけれど、私の力ではどうにもできず残念だ」という気持ちを示すことができる。

【見込み違い】

例)こんなに時間がかかるなんて、見込み違いでした。
「見込む」とは、予想してあてにすることをいう。それが間違っていた場合に「見込み違い」となり、予想のあてが外れること、考え通りにいかないことを意味する。古くは見入ることを「見込む」といい、そこから目当てにするという意味も生まれた。そのため、有望視して価値を決めることを「見込む」という。「君を見込んで抜擢したが、見込み違いだった」などと使うこともできる

【体よく】

例)体よくお断りすることができました。
「体よく」とは、「体裁よく」、「差し障りのないように」を意味する。体裁よく断るとは角を立てずに断ることをいう。「体」はもともと物とそのかたちをいう言葉だった。つまり「体よく」は「かたちよく」であり、「本当はお誘いに乗りたいが、差し障りがあってできず残念だ」という体で断るのだ。

【さしでがましい】

例)さしでがましいことですが……。
「さし」は「さす」で、口を出すこと。「〜がましい」は、本来は他人のことに何かをするのは控えるべきことだが、今回は特別にするというときに使う言葉。したがって、「でしゃばるようである」という意味になる。例文のようにひと言添えると、言いにくいことを角を立てずに伝えることができる。

【手だて】

例)この一大事を切り抜ける手だてがあるはずです。
「手だて」とは手段、方法、方策のこと。ただし、抜本的な解決策ではなく、急場しのぎ、一時逃れの手段である場合に用いる言葉である。そのため、例文のように「切り抜ける」を伴って使うことも多い。「あらゆる手立てを講じたが」という言い回しの場合は、すでに手遅れということになる。

【まさしく】

例)まさしくおっしゃる通りです。
漢字では「正しく」と書く通り、「間違いない」、「確かに」、「確実に」という意味合いがある。例文のように使うと、「おっしゃる通りです」とだけ言うよりも、心から実感している気持ちがしっかりと伝わる。相手の言葉に強く同調したいときに、効果的な表現である。

いまさら聞けない手紙のマナー
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copyist : Tomoko Kawano letter supervision text : Discover Japan photo : Yuri Kashiwagi
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