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中川政七さんが奈良旅で出合った
工芸の最先端事情【前編】

2020.11.17
中川政七さんが奈良旅で出合った<br>工芸の最先端事情【前編】
奈良市・ならまちにある「遊 中川 本店」にて。中川さんが手にしているのは、「花鹿の一輪挿し飾り」4180円。秋の彩りを暮らしに取り入れるしつらいにおすすめ

日本の工芸シーンや、経営・ブランディングにおいて注目される中川政七さん。中川さんが提案する奈良旅には、工芸を軸に、楽しみながら感じ、考え、学べる要素が詰まっていました。前編では、奈良の工芸を学び、楽しめる施設を紹介します。

奈良に息づく
“いま”の工芸に出合う旅のはじまり

「錦光園」室町時代にはじまった奈良の伝統工芸、奈良墨をつくる工房。生の墨を手で握ってつくる「にぎり墨」は、手の型や指紋が付く世界にひとつのオリジナル。年中体験できる工房はここだけだ。体験時間は30〜40分。予約制

「皆さんが『工芸』と聞いてイメージするのって、昔ながらの『伝統工芸』だと思うんです。その伝統にはポジティブな面だけでなく、ネガティブな面もあります。たとえば、100年以上の歴史がある自動車産業を『伝統自動車産業』とは言いませんよね。それは、進化しているから。進化がなく、生活で必要とされなくなったものに伝統とつくんです。今回は『工芸は時代に合うように変わっていくべきだ』という視点で、いまの時代の工芸の進化を感じられるところをご紹介しました」

そう話すのは、「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げる「中川政七商店」の会長で十三代の中川政七さん。

まず挙げてくれたのが、奈良市で奈良墨を100年以上つくり続けている「錦光園」だ。7代目の長野睦さんは、中川さんが気にかける職人の一人。2018年に開催された中川さんの「経営とブランディング講座」の受講生で、当時は新商品の開発中だった。受講後に発売したのが「香り墨 Asuka」。中川さんは「この商品は、従来の技術だけではなく新しい手法を取り入れていらっしゃるところに進化の空気を感じます。『にぎり墨』という墨づくり体験も積極的にされています」と話す。

実際に中川さんが体験したもの

錦光園
住所|奈良県奈良市三条町547
TEL|0742-22-3319
営業時間|9:00〜19:00(にぎり墨体験、事前要予約)
定休日|不定休
https://kinkoen.jp

クリエイティブの発信地は奥大和にあり

「オフィスキャンプ東吉野」2015年、東吉野村に生まれたクリエイティブの交流拠点。村の事業として誕生し、運営管理は、村内のクリエイターが担う。

次に勧めてくれたのは、香芝市にある福祉施設でカフェ・ショップでもある「Good Job! センター香芝」。実は中川政七商店で販売中の張り子「鹿コロコロ」は、Good Job! センター香芝とともに生み出した。

「新たな張り子玩具を企画していたとき、県内に現役の職人がおらず、途方に暮れていたところに出会いました。従来の木型に代わり3Dプリンターなどを使用することで、施設で就労する方が工芸の新たな担い手になりました。オリジナル商品もつくっていて、そのひとつが新商品の『アマビエ』。新型コロナウイルスによる自粛期間につくり、初秋見舞いとして贈ってくださり、素晴らしいなと。そうした柔軟なものづくりも工芸だと思います」

工芸で欠かせないのがデザイン。産地の多くが地方である一方で、デザイナーは都心に集中しているため、中川さんは「産地にデザイナーがいることが工芸の未来のために大切だ」と考えている。東吉野村のシェアとコワーキングのスペース「オフィスキャンプ東吉野」は、まさにそれを体現した施設。ディレクターやデザイナー、写真家などが所属する組織で、施設利用料を支払えば仕事ができるスペースでもある。

「いま全国で盛り上がっている産地には、必ずキーマンのクリエイターがいます。奈良の山村に彼らがいるのは、工芸を営む上で大切なこと」

工芸の“出口”として勧めてくれたのが、奈良市の「HJ GALLERY」。伝統建築に敬意を払いながら「住まいの豊かさを深める」をコンセプトにしている「北条工務店」が運営している。

「つくり手には、工房と作家の2タイプがあります。工房は弊社のように、数多くつくる場合には合理的に対応できるところ。対して作家は人気になると作品の値段が上がります。そういう方々の出口がギャラリーなんです。奈良でいい役割を果たしているのがHJ GALLERYです」

吉野杉や吉野桧を使った「tumi-isi」(9900円)。同施設や中川政七商店 近鉄百貨店奈良店でも販売している

オフィスキャンプ東吉野
住所|奈良県吉野郡東吉野村小川610-2
TEL|0746-48-9005
営業時間|10:00〜16:30
定休日|火・水曜
http://officecamp.jp

Good Job! センター香芝
住所|奈良県香芝市下田西2-8-1
TEL|0745-44-8229
営業時間|10:00〜17:00 (カフェ・ストアは11:00〜)
定休日|
日曜、祝日
http://goodjobcenter.com

進化を続けてこそ工芸!

「Good Job!センター香芝」工房をもつ福祉施設であり、地域に開かれた空間としても機能。張り子の彩色や組み立て作業は手仕事で仕上げる。「鹿コロコロ」の中川政七商店バージョン(右)と同施設限定商品(左)各3300円

最後に挙げてくれたのが、「果物を楽しむお店」をコンセプトにする「堀内果実園」などに感じられる、つくり手の価値観だ。

「今後の工芸やものづくりの土地性は、その土地の素材云々よりも、ものの後ろにいる、そこで長年暮らす“人”になると思います。どんな人生を歩み、どんな価値観や考え方をもっているのか。それがプロダクトに表れ、買うかどうかが左右される。ひと昔前はプロダクトの時代、いまはライフスタイルの時代といわれていますが、今後はライフスタンスの時代に進むのだと思います」

≫後編を読む

text: Yoshino Kokubo photo: Norihito Suzuki
2020年11月号 特集「あたらしい京都の定番か、奈良のはじまりをめぐる旅か」


≫奈良二度目の修学旅行。くるみの木・石村由起子さんとめぐる

≫奈良の新しい歴史を開く、庭屋一如のリゾート
「ふふ 奈良」

≫創業100年を超える関西の迎賓館「奈良ホテル」

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