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岩手県 遠野市
地域のポテンシャルをフル活用する、小さな共同体

2020.10.6
岩手県 遠野市<br>地域のポテンシャルをフル活用する、小さな共同体

遠野市の中心市街地にある「Commons Space」。1階はカフェ、2階は事務所として、元時計店を改装した。メンバーが開業した「遠野醸造」もすぐ近くにある。

「Next Commons Lab」とは
さまざまな領域で活動するメンバーが各地から集まり、多種多様なプロジェクトを通じて各地域の自治体、企業、現地プレイヤーと協力し合い、新しい暮らし方や働き方を実践するプラットフォームだ。第1弾のフィールドパートナーは、岩手県遠野市。土地のリソースを生かした10の事業を立ち上げ、地域の未来を育む取り組みを行っている。

遠野発の新しい試みは
起業家募集からはじまった

穏やかな一日市商店街

2016年、岩手県遠野市にて「3年間にわたり、月額17万円の活動支援金を支給」という起業家募集が行われた。条件は住民票を遠野市に移すこと。そして「ビール・ホップ」、「デザイン」、「魅力発信」を含む10のプロジェクトテーマに基づいた事業を立ち上げることである。

仕掛けたのはNext Commons Lab(以下NCL)。地域おこし協力隊制度を従来とは違い、起業型として活用することで、経済的にリスクの少ない挑戦を可能とさせた。加えてNCL遠野の事務局によるサポート体制も充実。これらのメリットは「その地域でしかできない、自分の仕事がしたい」と考えていたメンバーの背中を押したのである。「同じビジョンを共有する仲間の存在も大きかったです。一人で地域に入ることに、ハードルもあったので……」と、橋本亮子さんが話すように、遠野市の募集では14名を一挙採用。一人が移住したところで、爆発力は小さい。しかし一度に大勢のメンバーが移り住めば、地域にインパクトを与え、大きな広がりを生むのだ。

プロジェクト1
ホップの里で新たなビール文化をつくる

ビールを醸造する袴田さん

僕が遠野に来たのは、ここが日本有数のホップの産地だったから。畑が近い場所で、遠野産ホップのキャラクターを生かしたビールがつくりたいと考えました。すでに「“ホップの里”から“ビールの里”へ」と掲げた「Brewing Tono」というプラットフォームで活動をされている方々もいたので、一緒に街をおもしろくしていけたらいいなと。2017年11月にメンバーと「遠野醸造」を設立し、2018年5月に「遠野醸造 TAPROOM」をオープン。我々が目指すのはコミュニティブルワリーなんですよ。ビアツーリズム企画やホップをテーマにしたゲストハウスなど、今後の展開もご期待ください。

ビールプロジェクト
袴田大輔さん
1988年、青森県生まれ。筑波大学卒業後、ファーストリテイリングに入社、店舗マネジメントなどに携わる。2016年、NCL遠野にブルワーとして参画。遠野醸造では店舗の運営・企画、ビールの営業・販売を担当

プロジェクト2
デザインの力で地域資源の魅力を引き出す

仕事をする橋本さん
「小友ようかん」や「HOPsyrup」は、遠野で手掛けた仕事の一部

東日本大震災を機に、働き方について考えるようになりデザイナーとして独立。そして移住を考えだし、各地を訪ね歩く中で、馬搬の文化をもつ遠野に興味を抱きました。遠野に来て感じたのは「魅力が埋もれているな」ということ。デザインの力を加えれば、もっとすてきなことになるはず。そのお手伝いをしていきたいと思っています。

デザインプロジェクト
橋本亮子さん
1981年、茨城県生まれ。東京の広告会社に勤めた後、2012年にフリーランスのデザイナーとして独立。遠野の企業や団体の商品開発やブランディングなどを手掛けている。遠野へ移住後も東京での仕事は継続

プロジェクト3
さまざまな人が活躍できる舞台を用意する

遠野でつくられた商品をプロデュース(デザイン賞グランプリも受賞)

当初、NCL遠野の立ち上げメンバーとして事務局で活動してましたが、「遠野の魅力を開拓するプレイヤーとして働きたい」という思いが強くなり、地域プロデューサーとして起業。幅広い案件に携わりながら、柳田國男の『遠野物語』をはじめ、地域の文化がもつ可能性を最大化させる「to know」プロジェクトに取り組んでいます。

プロデューサー
富川 岳さん
1987年、新潟県生まれ。東京の広告代理店で勤務した後、2016年遠野市へ移住。2017年にローカルプロダクション「富川屋」を設立し、商品開発、ブランディング、冊子・ウェブ・映像の制作など幅広く活動

NCL遠野の事務局は、
いつも笑顔で温かい地域の中の頼れる存在

右)家冨さんは地元の若者の相談に乗ることも多いという

2012年に緑のふるさと協力隊として遠野に移住し、現在はNCL遠野の事務局でコーディネーターを務めています。メンバーと地域の方々をつなげたり、プロジェクトをサポートしたり、相談に乗ったり、人と仲よくなるのが得意なので、コミュニケーションの部分を担うことが多いですね。2018年にはクラウドファンディングに挑戦し、「Commons Space」の隣に「小上がりと裏庭と道具 U」をオープン。年齢や性別を問わず、いろんな方が交流できる“居場所”をつくりたいと考えました。個々の特性や個性が尊重され、生かされる場づくりを広げていきたいです。

事務局
家冨万里さん
1986年東京都生まれ。日本大学芸術学部卒業後、遠野へ移住。農家のボランティアや伝統芸能に取り組みながら地域に溶け込んでいった。2016年、NCL代表の林篤志さんに誘われ、NCL遠野の立ち上げに参加

自分のやりたいこと、できることが、
遠野の未来へつながっていく

「Commons Space」のランチタイム

メンバーの主な活動・交流拠点は、一日市商店街にある「コモンズスペース」。空き店舗を活用し2016年11月に飲食店をオープン、’18年5月にカフェ兼コワーキングスペースとしてリニューアルした。現在はNCL遠野の事務局が運営を担い、地域住民や観光客の利用も多い。メンバーの活動がはじまって、丸3年を迎える’19年。住民との親交も深まり、各メンバーの取り組みの認知度も広がった。積極的に地域に分け入り、人脈を広げ、地元の課題やニーズを模索。現在はそれぞれのメンバーが、現地プレイヤーと協力しながら地域資源を生かしたサービスを展開し、事業の安定化・拡大を目指すフェーズに移行している。

「地元の方が『若い人が商店街を歩いてくれるようになってうれしい』って言ってくれるんです。NCL遠野の存在に刺激を受け、新しい事業をはじめる方もいらっしゃいます」と事務局の室井舞花さんは笑顔だ。遠野市は創造的な未来へ向けて着実に歩みを進める。

"小さな共同体”をつなぐ全国拠点

豊かな山々に囲まれた遠野市。古くは城下町として栄えてきた

2019年1月現在、10の自治体がNCLのフィールドパートナーだ。NCLが提案する地域に根ざしたプロジェクトは、各地域で起業家とともに進める。

地域のレジリエンスを高める循環モデル/NCL南三陸 宮城県南三陸町
地域資源や次の時代に継ぐべきものがある。ワイナリーや低コスト住宅などのプロジェクトを通じ、回復力を高める循環モデルを構築していく。

街のすべてが学びと実験を重ねる場所|NCL弘前 青森県弘前市
リンゴ農家への就農支援やアーティストの活動拠点の運営など、弘前の街全体をキャンパスに見立て、学ぶ、働く、暮らすがめぐる環境を育てる。

故いものを生かし、現代をアップデート|NCL西会津 福島県西会津町
山間部で育まれた暮らしの知恵や使われなくなった建物など、地域に眠るリソースを見直し、有形無形を問わず現代に生かしていく。

アジアに開かれたローカル・ハブを目指す|NCL加賀 石川県加賀市
湯場として旅人を迎え、さまざまな文化を取り入れてきた歴史的背景をもつ加賀。アジア一帯を視野に入れた、新しい文化経済圏を創出していく。

地域一帯の創造力を底上げする|NCL西条 愛媛県西条市
豊かな自然に恵まれ、二次産業の誘致にも成功した環境を、次の展開へ。人間らしい生き方に根ざした、新たな産業創造にチャレンジしている。

街の未来と次の社会のかたちをつくり上げる|NCL南相馬 福島県南相馬市
東日本大震災で甚大な被害に遭った南相馬で、次世代への道筋を生み出す。馬事文化継承や地酒事業など、可能性に満ちたプロジェクトが多数。

HUB/SALON機能をもつNCLの東京拠点|HUMANS by NCL 東京都神宮前
日本各地に点在するNCLのハブ拠点として、発信と文化醸成の基地としてなど、多様な役割を担うスペースだ。起業家的生き方を後押しする。

多様な文化を認め合い自由に挑戦できる社会|NCL湖南 滋賀県湖南市
二次産業に街が支えられている湖南市では、多くの外国人が定住し、暮らしている。移住者を含めた街とコミュニティの在り方を模索していく。

未来の食のスタンダードをつくる|NCL奥大和 奈良県宇陀市
未来の食の定番=フードコモンズの具現化を目指し、里山の資源を生かしたハーバルビール、パンや野菜など、食を中心としたプロジェクトを展開。

食・農・テクノロジーが核のビジネスを集積|NCL宮崎 宮崎県新富町
「世界一チャレンジしやすいまち」をテーマに掲げ、多様なビジネスの種が集まる土壌を整備し、南国の豊かな資源を生かした産業づくりを行う。

text: Nao Ohmori photo: Atsushi Yamahira
2019年3月号 特集「暮しが仕事 仕事が暮し」


≫兵庫県 城崎温泉多様な価値観を生む「共存共栄」の町

≫地域再生事業家の木下斉さんが解説 いま、新しい仕事が誕生するワケ

≫「暮しが仕事。仕事が暮し。」の言葉をエピローグにかえて河井寬次郎の言葉と生き方

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