FOOD

三陸の幸を味わえる「ロレオール田野畑」
犬養裕美子さんの新・レストラン名鑑

2019.12.31
三陸の幸を味わえる「ロレオール田野畑」<br class=“none” />犬養裕美子さんの新・レストラン名鑑
次々にアイデアがわく旬の魚と野菜の組み合わせ
肉料理で知られた伊藤シェフだが、田野畑では魚料理が充実。三陸のこのあたりは白身魚が豊富に捕れる。淡泊な白身魚の味を生かすには野菜のソースがぴったりだ。三陸を代表する高級魚アイナメは、行者ニンニクと合わせる

どんな小さな店でも、どんな辺鄙な場所でも、「ホンモノ」であれば、必ず人は引き寄せられる。レストランジャーナリスト・犬養裕美子さんの《新・ニッポンのレストラン名鑑》。第8回は三陸の幸を地産地消で味わえる「ロレオール田野畑」を紹介する。

いぬかい・ゆみこ
東京を中心に世界のレストラン事情を最前線で取材する。新しい店はもちろん、実力派シェフたちの世界での活躍もレポート。また、日本国内各地にアンテナを張り、料理や食文化を取材。農林水産省表彰制度「料理マスターズ」審査員。

岩手で二番目に小さな村
ここで店をやる意味とは?

もともとは、漁師が網を下ろすための番屋があったところ。盛岡駅からは電車で2時間30分、車で1時間30分。「東北のエルブリ」と呼ばれるほど、たどり着くまでが長い道のりだ

窓から見える三陸の海は驚くほど透明度が高い。「ここからウニが見えることもあるよ」。エエッー、海面は10m下なのに。確認したくて、下まで降りてみる。目の前には美しいブルーの海が広がる。後ろを振り返ると「ロレオール田野畑」が崖の上に見える。

「これがほんとの崖っぷちの店だよ」というひと言は伊藤シェフだからこそ言える冗談。20年ほど前、修業のためフランス行きを希望していたがうまくいかず、奥さまの実家がある前沢に移ることになった。新天地では前沢牛のブランディングにかかわり、テレビ番組では鉄人に勝利、瞬く間に岩手を代表する有名シェフになる。

地域全体が活性化するには足並みを揃えること
「自分だけがいい思いをしようと思ったら、地域は変わらない。うちに来てくださるお客さまには、せっかくだから宿泊施設や、田野畑の海を元漁師船でクルーズするアクティビティなども紹介します。地域全体が潤うように連携しないと」。全国各地から料理やイベントに呼ばれる多忙なスケジュールをこなしながら、田野畑の再生を支える。ちなみに「後でわかったんですが隣の普代村のほうが小さかった。でも、経済的には田野畑村のほうが厳しかったので結果オーライ」。

その活躍から、周囲は盛岡に店を移すものだとばかり思っていたが、2016年、伊藤シェフが選んだのは岩手の沿岸部にある田野畑村だった。「盛岡でやれば経営的には安定すると思ったけど、自分がやるべきことは違う」岩手を見てきた伊藤シェフは常に心の中で思っていた。

人が来ないところに人を呼ぶ仕組みをつくらないと、地方の小さな村が消滅してしまう。「岩手県で一番小さな村で店をやりたいと思って」田野畑村を選んだという。こうして伊藤シェフの挑戦がはじまった。

地方レストラン成功の分かれ目はどこにある?

ヒラメとタラの芽。平目は刺身で味わうことが多いが、伊藤シェフは、皮の美味しさに着目。皮の香ばしさを強調するために表面にしっかり焦げ目をつけたという大胆な仕上げ

「はるばるここまで来たかいがあった!」。7000円のディナーコースを終えて、思わずつぶやいていた。地方レストランはブームと思えるほど雑誌やテレビで取り上げられているが、心底満足する店はそう多くない。地方レストランの醍醐味は、その場所でなければ手に入らない素材を存分に使えること。ただし鮮度のよさだけが美味しさの理由ではない。

素材をより美味しくするのは料理人の技術だ。下手に素材をいじって、本来の豊かな味や食感を損なっては元も子もない。とはいえ、サービス精神旺盛にあれこれ盛り込んでは何を食べたのかわからなくなる。料理人がここではどんなテクニックを使うべきか、適切な判断を下してこそ、素材を生かしたその土地らしい料理が完成する。

ホッケとホヤ。岩手の夏といえば珍味・ホヤ。白いホワホワの球状のものは、ホヤの茹で汁でタコの卵を茹でたもの。オレンジ色のものはホヤの茹で汁から抽出したもの。添えたのはワサビ入りバターソース

伊藤シェフの料理はフレンチがベースだが、提供のスタイルも表現の方法も、自由奔放だ。朝、仕入れに出掛けて素材を確かめて、だいたいのメニューを組むが、実際に調理をしながら微妙に調整していく。いわばアドリブで完成するのだ。一応コース仕立てだが、前菜からはじまり、スープ、魚、肉、デザートという普通のフランス料理とは異なる全11皿!

うち6皿が魚。いずれも野菜と組み合わせるのが伊藤シェフのオリジナル。ホウレン草のソースをはじめ、野菜にも大きな役割がある。時には焼き魚に野菜を添えた、和食? と見間違うような皿も登場する。「自分でも何料理なのか、その境目はわからなくなることがある。素材が豊富な時期はそれこそ魚料理5連発ということも珍しくない。冬場の何にもないときは、本当に白菜だけという日もある」。

牛肉と焼き野菜。いわて短角和牛の上におぼろ昆布(パリパリのドライ)、アミガサタケ、ニンジン、三階ネギ、安家地大根、つまみ菜などに、甘めのマデラ酒風味のフォンドボーソースを添えて

伊藤シェフの白菜コース、食べてみたいな〜と思わせるような料理人でなければ地方のレストランを成功させることは難しい。都会と違って、本物の田舎では季節によっては本当に何もない。それに動じず、むしろ個性的な料理を考える。難題に立ち向かうやる気(=覚悟とも言う)があるシェフこそが地方レストランを成功させることができるのだ。

伊藤シェフの挑戦は、いまのところ順調に進んでいる。盛岡から2時間半かけてランチに来るマダムたちや、定期的に訪れるカップルなど、伊藤シェフの料理と田野畑の絶景を目指して、お客はやってくる。

アナゴと玄米リゾット。玄米、アワ、ヒエなど雑穀を一緒に炊いたリゾット。その上に山ウド、穴子を重ね、木の芽を飾る。玄米は無農薬で育てられた亀の尾を3年間寝かせたもの

伊藤シェフにとっても田野畑村は相性がよかったのだろう。「ここに来て、新たに志の高い生産者や、珍しい郷土料理に出合った」。地元に溶け込み、広がった輪が岩手県で二番目に小さな村を元気にする。伊藤シェフが自ら証明したのは、テロワールとキャラクタ—が魅力的ならば人は来る!

ロレオール田野畑(ろれおーる・たのはた)
住所:岩手県下閉伊郡田野畑村明戸309-5
Tel:080-9014-9000
営業時間:12:00〜14:00(L.O.)、18:00〜20:00(L.O.)※完全予約制(利用日の前々日までに要予約)
定休日:不定休
料金:ランチ2500円〜、ディナー3500円〜(すべて税・サ込)

文=犬養裕美子 写真=前田宗晃

2019年9月号 特集「夢のニッポンのりもの旅」


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