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木下斉さんが解説
いま、新しい仕事が誕生するワケ

2020.9.30
木下斉さんが解説<br>いま、新しい仕事が誕生するワケ

いま、地域からクリエイティブで持続可能な仕事が数多く生まれています。こうした現象の背景にある要因は何か。全国で地域再生事業家として活躍する木下斉さんに話をうかがいました。

木下 斉(きのした・ひとし)
地域再生事業家。1982年、東京生まれ。2000年、全国商店街の共同出資会社・商店街ネットワークの設立に参画、初代社長に高校生で就任。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事。経営学修士

潮流に敏感な世代が新しい仕事を創造する

時代とともに変化するビジネスモデル

人口減少社会を迎え、内需中心の経済活動に圧力が加わってくると、ビジネスのやり方を変えなければいけません。特に地方では都市部よりもひと足先にその影響が出てしまうため、これからは地方の事業でもうかるモデルが、経済的なプラスを生み出すビジネスのヒントになってくるのだと思います。これは単なる町おこし事業ではありませんよ。

たとえば、農産物などの生産能力が高くても、都市部に安く大量に出荷してばかりでは、じきに衰退してしまいます。観光客が訪れる地域であれば、地元の食べ物をベースにした独自のプログラムを提供するなど、付加価値を上げるための「ストーリー」に、向き合うようになっています。

昨年、フランスのシャンパーニュ地方を訪れたのですが、エペルネという人口2万3000人ほどの小さな町は、1人あたりの所得がフランス全土でもトップを競うほどなんです。決して肥沃ではない土地から採れるブドウを、厳格なレギュレーションの下に醸造、瓶詰めして出荷する産業で6400億円ほどの市場があります。

出荷額だけで見れば自動車などの工業製品のほうが大きいのですが、工場誘致をしても、最初から一気通貫でつくれるわけではありません。結局は原材料を中間加工したものを地域に持ってきて最後に組み立てる。その作業の対価しか地元には入りませんからね。農業のほうが、高付加価値型にしたときの地元に対する寄与力は大きいといえますね。

地域で新しい仕事が生まれるその背景とは?

工業系の産業はヨーロッパからアメリカに渡り、日本、中国、アジアの国々へと通り過ぎています。

日本は、戦後に経済発展を遂げ大成功しましたが、世界でも類を見ない非常にレアなその体験があだとなりました。漁業も林業もパラダイムに至り、人口減など歯車が狂いはじめてもこれまでのやり方を続けてしまい、結果自分たちの首を締めてしまった。社会前提と事業には、整合性が必要なのです。大事なのは、いかに時代に「フィット」させるかです。

いったん過去を反省するくらいにならないと、かじを切るのは難しいのかもしれません。

しかしいま、仕事の現役世代が交代し、経済的に「いい時代」を経験していない人が増える中で、変化が見られるようになっています。

都市部では、数の理論で成り立っている昔ながらの事業が多くあります。ホテルを建てれば大勢のお客が来ることを想定して、投資回収期間を30年など長期で設定するようにです。地方では10年後は予想できないので、いきなり大きな投資をして立派な店をつくるというよりは、5年で投資回収するプロジェクトを考え、オーナーがDIYで店をつくって次第に複数店舗に展開する、マーケットから出店してみるというように、顧客としっかりと向き合います。こうした小規模分散型の働き方は、新しい仕事の特徴といえます。

環境と自分を掛け合わせて創造する新しい仕事

以前は都市に出たほうが自由に活動できる傾向がありましたが、これからは可能性がある地方で事業をするほうが自由になります。

働き方もだいぶ多様化していますよね。仕事をする上で「ユニーク」であることがネガティブにとらえられることは少なくなりました。先ほど話をしたような時代背景、教育の変化から現役世代は荒波にもまれ、慎重に自分たちの将来を考えている人が多い。それに加え多様性や特殊性に対する感性も高いため、これまで当たり前とされてきた働き方でない選択をする人も増えています。

自分と周りの環境を掛け合わせて、いままでにないものを生み出すのです。地方のほうが時代を敏感にくみ取り、それに順応した事業の新しい仕組みを考えやすいですし、仕事をしている実感もわきやすいのだと思います。

自分なりの特色を出してチャレンジする中で、いいものが育っていく。そうした地方の流れや働き方が、さらに強まることを楽しみにしています。

これを読めば誰でも地域再生事業家!?

『地元がヤバい…と思ったら読む凡人のための地域再生入門』
著者|木下 斉
価格|1550円+税
発行|ダイヤモンド社

地方衰退の構造と地方でのビジネス手法を、詳細な注釈付きのストーリー仕立てで解説した木下さんの最新刊。すぐに実践できる内容が満載です。

text=Jun Kato photo: Kiyono Hattori
2019年3月号 特集『暮しが仕事。仕事が暮し。』


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