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自立可能な暮らしをデザインする
はじまりの奈良

2020.6.27
<b>自立可能な暮らしをデザインする<br>はじまりの奈良</b>
デンマーク・ロラン島南部の、1970年代に原子力発電所の建設予定地だった場所。現在は風力発電パークとなっている。穏やかなこの景色の背景には、国民の決意があったのだ

初代神武天皇が宮を造られ、日本建国の地とされている奈良県。連載《はじまりの奈良》では、日本のはじまりとも言える奈良にゆかりのものや日本文化について、その専門家に話を聞いていきます。今回は持続可能な生活を発展させていくため、デンマークを参考にしながら新たに始まろうとしている環境対策について伺いました。

「都市と地方の対等な関係」を目指す

十津川村の果無集落(写真)や山天集落など、奈良県南部には食料や一部のエネルギー、水の自給を行い、自立可能な暮らしを実現している集落が多数存在する。災害が比較的多いエリアで、自給という課題に向き合った結果の財産ともいえる

神奈川県茅ヶ崎市出身のニールセン北村朋子さんは、2001年からデンマークのロラン島に住んでいる。ロラン島は、再生可能エネルギーや農業、教育に関して国内でも先進的な取り組みを続けているところだ。北村さんは、日本からの訪問者のコーディネートや通訳、テレビ番組制作のコーディネート、スタディツアーの企画などを行っている。

その北村さんが奈良を訪れ、ロラン島やデンマークの状況を教えてくれた。「実は1972年、デンマークのエネルギー自給率はわずか5%でした。転機は、オイルショックの後に出た原発計画に“待った!”をかけた人たちがいたこと。原発推進派の二大電力会社があったのですが、国民のこの運動に勝てなかったんです。その結果、国民の約80%が反対し、1985年、原発に依存しないエネルギー計画が採択されました」と、北村さん。

国は2012年に「2020年までに全電力消費量の50%を風力発電で賄う。2050年までに電力、熱、産業、輸送にかかるエネルギーのすべてを再生可能エネルギーで賄う」などと決めたという。「これらは政権が変わっても変えない、国としての目標です。これにより企業や教育機関は思いきった投資ができます」。国の方針の下、民間企業や国民も同方向を向いて歩みやすいのだ。

そうしていまや、エネルギー自給率は85%(2018年現在)。風力発電や地域熱の供給が進んでいる。

一方、奈良県は新たなエネルギー政策「奈良県エネルギービジョン」を2012年度末に策定し、積極的に推進してきた。再生可能エネルギーの設備容量についての目標値は大規模太陽光発電の導入が進んで2年でクリアしたため、目標値を上方修正したほどだ。2019年には「第3次奈良県エネルギービジョン」の施策目標として、地域コミュニティ活性化などにつながる再生可能エネルギーの導入や水素ステーションの設置を発表している。

北村さんの話を聞いた奈良県地域振興部次長の福野博昭さんは、さらに踏み込んだ「奥大和スーパースマートソサエティ構想」という夢を語ってくれた。

「県の南部には十津川村の果無集落など、自立可能な暮らしを実現している集落が多数存在します。だから奥大和は可能性を秘めているし、日本の新しい暮らしの実験の地に適している。テクノロジーと掛け合わせることで、奥大和や紀伊半島を持続可能かつ日本の環境最先端エリアにできたらと考えています」

また、北村さんによれば、デンマークには都市と地方の関係性をデザインする「戦略デザイナー(ストラテジックデザイナー)」が自治体の中に存在している。たとえば、コペンハーゲン市とロラン市は世界初の協定を結び、都市がクリーンになるために地方がまちづくりに協力したり、エネルギーの地産地消について都市が責任をもって地方に協力したりするなど、都市と地方の対等な関係を目指しているのだ。「デンマークは人口の約1%である約5万人がデザイナーで、中でも戦略デザイナーが多いんです」と、北村さん。

福野さんはこう話す。「20、30年で国が変わるなんて可能性を感じました。戦略デザインとはおもしろい。デンマークのやり方は、自治体運営の参考になります。奥大和はチャンスやなって感じました」


cooperation: Masayuki Miura text: Yoshino Kokubo photo: Tomoko Kitamura Nielsen、Officecamp
2020年1月号 特集「いま世の中を元気にするのは、この男しかいない。」


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