FOOD

発酵から考える日本の食文化
小倉ヒラク

2019.3.10
<b>発酵から考える日本の食文化<br/>小倉ヒラク</b>
万葉の時代、貴族に愛されたという蘇(そ)。牛乳を特殊な方法で煮詰めてつくる。ここにも、発酵の力が加わっているのだろう。ほのかな甘みや、濃厚でまろやかな味わいが特徴だ

初代神武天皇が宮を造られ、日本建国の地とされている奈良県。連載《はじまりの奈良》では、日本のはじまりとも言える奈良にゆかりのものや日本文化について、その専門家に話を聞く。味噌や醤油、日本酒や焼酎など、日本特有の発酵食品たち。今回は発酵デザイナーの小倉ヒラクさんに、和食を語る上ではずせない日本の発酵食文化について話を伺った。

蘇は日本最古のチーズともいわれ、滋養強壮や不老長寿に効果がある高級品だった。1987年から奈良県の西井牧場が試行錯誤し、考古学者・猪熊兼勝氏監修の下に復元させた。その「飛鳥の蘇」は、濃厚な味わいから赤ワインにも合うという

ユネスコ無形文化遺産に登録された和食。南北に長く、豊かな自然に恵まれた日本では、変化に富んだ気候や風土を生かして、バリエーション豊かな発酵食品が生み出されてきた。

そんな発酵食品に注目し、発酵デザイナーとして活躍しているのが、小倉ヒラクさん。

「日本は湿気が多く、腐敗しやすい環境でもあります。だからこそ、いかに腐敗させず、食材を保存しながら、美味しく食べるかを考える中で生まれてきたのが、発酵食品なのです。世界にも発酵食品はありますが、日本は特にバリエーションが多いのです」。

微生物の世界は、人間の目には見えにくい。発酵と腐敗は紙一重であり、人間に有効な微生物が働くと発酵になり、人間に有害な微生物が働くと腐敗になる。

たとえば、日本酒、焼酎、鰹節、西京漬け、豆腐よう。この5つに共通しているのが、カビである。ヨーロッパにも、チーズやワイン、ヨーグルトといった発酵食品があるが、日本は、このカビを活用した発酵が得意なのである。

米や麦に生えたカビのことを、コウジカビ(麹黴)という。あるいは、麹菌(きくきん)ともいい、アスペルギルス属に分類される菌の一種で、「日本の国菌」とされている。

というのも、大げさにいえば、コウジカビがなければ、和食は生まれなかったかもしれないからだ。日本特有の味覚として、世界的に注目されている「旨み」。甘みとともに、発酵によってこの旨みが生み出される。

当連載でこれまでに紹介してきた、奈良にはじまりがある食文化の中にも、発酵によって生み出されるものが多くある。正暦寺からはじまった清酒もそのひとつ。生米を浸けた水を放置することで、乳酸菌が増殖して酸っぱい水ができ、これを「そやし水」と呼ぶのだが、まさに乳酸菌による発酵が行われているというわけ。そして、奈良の名物である柿の葉寿司もまた、酒を酢酸発酵させて生まれる酢が欠かせない。

「それぞれの土地に根ざした発酵食品を見ると、その土地の歴史や風土が見えてきます」と小倉さん。たとえば、愛知県岡崎の八丁味噌は、大豆と糀を合わせる一般的な製法と違い、大豆だけをなりゆきで発酵させて味噌にするという独特の手法でつくられている。

また、東京都に属する離島、青ヶ島でつくられる「あおちゅう」は、蒸した麦にオオタニワタリの葉をかぶせてできる黒いコウジカビを利用する。つまり、野生の麹で醸す焼酎なのである。このあおちゅうには、ふかしたサツマイモに、塩辛をつけたつまみが合うとか。

「日本は、ほかの国から比べると、決して資源が多いわけではありません。しかも、仏教の影響で肉食しづらい文化をもっていました。

だからこそ、それぞれの土地の自然環境を生かし、クリエイティビティあふれる発酵食文化が生まれたのであろうと考えています。現在は、日本全国47都道府県のローカル発酵を見つける旅を続けています。その先に、日本の再発見につながるゴールがあるのではないかと思います」と小倉さん。普段からなじみのある発酵食品も、掘り下げることで、食文化の再発見があるかもしれない。

企画協力=三浦雅之 文=大掛達也 写真=原田教正

2019年3月号 特集「暮しは仕事 仕事は暮し」

奈良のオススメ記事

近畿エリアのオススメ記事

メールマガジン購読