音楽×旅館で箱根の魅力を再発見
昨年の大型台風により大きな被害を受けた地域に焦点をあて、その地域ブランドを紹介する「令和元年台風被害復興支援応援プロジェクト」。第4回はこの春箱根で開始される、音楽を新たな観光資源とする「ONGAKU RYOKAN」プロジェクトを紹介。プロデューサーである立川直樹さんを迎えて行われた、旅館「強羅花扇」でのイベントの様子をレポートする。
プロジェクト/プロデューサー
立川直樹
東京都生まれ。’70年代前半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、美術、舞台などの幅広いジャンルの演出やインキュベーションに腕を振るうプロデューサー・ディレクター。音楽評論家、エッセイストとしても評価が高い
「音楽」で豊かな滞在を
新たな観光資源を創出
令和元年の台風19号は、国内有数の観光地・箱根にも大きな爪痕を残した。箱根町の1日あたりの降水量は、観測史上最多の約1000㎜をマーク。この結果、箱根エリアの大動脈である箱根登山鉄道は土砂崩れで橋脚が流失するなどの被害が続出した。また、旅館・ホテルも浸水や土砂の流れ込みなどのほか、温泉供給施設が損壊したため、一時的に温泉が使えなくなるなどの被害を受けた。
現在、温泉はほぼ平常通り供給できており、大涌谷の立ち入り規制も解除されている。しかし、箱根登山鉄道は箱根湯本〜強羅駅間の運休が続いており、2020年秋の全線運行再開を目指して復旧工事が進められている。このため施設・車両更新工事に伴って全線で運休している箱根登山ケーブルカーの区間と合わせ、バスによる代替輸送を行っているところだ。
今回「ONGAKU RYOKAN」プロジェクトをスタートさせた温泉旅館「強羅花扇」も、台風による建物の被害はなかったものの、浸水により設備系統が損壊。昨年中は復旧のために休業を余儀なくされたが、1月中旬より営業を再開。そしていま「音楽」という新たな観光資源を創出することで、箱根エリアの復興とさらなる発展を目指していきたい考えだ。
稀代のプロデューサーが
セレクトする「箱根の音楽」
「世の中には素晴らしいホテルや旅館、レストランがありますが、そこに流れている音楽が雑なことが多い。その場に合わないBGMが蔓延していると感じています」。こう笑顔で話すのは、「ONGAKU RYOKAN」プロジェクトを率いるプロデューサー/ディレクターの立川直樹さんだ。
古今東西の音楽と映画、アートへの造詣が深く、2005年の「愛・地球博」では、催事企画スーパーバイザーとして布袋寅泰さんと日本フィルハーモニー交響楽団、ヨーヨー・マさん、松任谷由実さんなどをフィーチャーした演出で高い評価を得たことで知られる。また、“音楽とアート”の融合にはじまり、“伝統芸能とロックフォトグラファー”、“ムード歌謡とお笑い”など、さまざまな「異種格闘技」をプロデュースする「コラボの元祖」と称されてきた。
そんな立川さんが箱根という場所にふさわしい音楽を選ぶことで、寛ぎの時間をより特別なものにするのが「ONGAKU RYOKAN」プロジェクトだ。立川さんは「箱根湯本から強羅まで森の中を上っていく道のりは、神秘的でインドネシアのバリをほうふつとさせます。箱根には四季を通じてバイブレーションがある。だから、季節によっても合う音楽が変わると思います」と力を込めて話す。
最高品質のオーディオで
臨場感のある音に包まれる
プロジェクトのスタートとなったこの日は、夕食後に花扇のラウンジでレコードコンサートを開催。立川さんの選んだ曲が、音響機器メーカー「テクニクス」が誇る最高品質のオーディオで次々に流された。ゲストたちは、ワインを片手に立川さんによる解説に耳を傾け、臨場感のある音楽に酔いしれた。
立川さんセレクトの音源は、今後もラウンジで自由に聴けるほか、購入も可能だ。また、テクニクスのプレミアム・コンパクトステレオシステムを設置した部屋も3室限定で用意。
立川さんは言う。「いい映画には、いいサウンドトラックがあるように、雨の日の箱根に似合う曲、曇りの日の箱根で聴きたい音楽があります。『ONGAKU RYOKAN』プロジェクトは4月から本格スタートしますが、箱根の四季にマッチする音楽を選んでいきたいと思いますので、ご期待ください」。
「ONGAKU RYOKAN」プロジェクトは強羅花扇を皮切りに、「箱根登山鉄道」が管理する「箱根強羅公園」や「箱根町観光協会」などとも連携を深め、音楽で箱根全体を盛り上げていく構想だ。「箱根=音楽」、そんな場所となる未来を描いている。
文=本間朋子 写真=山平敦史
2020年4月号 特集「いまあらためて知りたいニッポンの美」
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4|音楽×旅館で箱根の魅力を再発見