「ショコラ」の楽しさを、音楽と食とともに伝える。
「MIXOLOGY ~ショコラ・音、 そして食をめぐるクリエイティブの協奏」
イベントレポート
パティシエ&ショコラティエである小山進氏と、音楽家の小林武史氏によるスペシャルなイベント「MIXOLOGY ~ショコラ・音、 そして食をめぐるクリエイティブの協奏」がバレンタインデーの2019年2月14日(木)、京都にあるリストランテ「cenci(チェンチ)」で開催された。
フランスの権威あるチョコレートコンクールで最高位を8年連続で獲得し、パティシエ エス コヤマ代表でもある小山氏と、数多くの日本を代表するアーティストのプロデュースを手がける小林氏の夢の共演だ。
2003年に設立されたパティシエ エス コヤマは、兵庫県三田市ゆりのき台にのみ店舗を構える。パティスリー、ショコラブティック、カフェ、パン工房や、マカロンとコンフィチュールの専門店、お菓子教室などを備えた複合空間「FRAME」、12歳以下の子供だけが入店可能な「未来製作所」、表情豊かなマジパンも話題の最新店「夢先案内会社 FANTASY DIRECTOR」などを1500坪の敷地内に擁し、お菓子を通じて人生の豊かさを提供している。
食と音楽が融合した、一夜限りのスペシャルイベント
「MIXOLOGY ~ショコラ・音、 そして食をめぐるクリエイティブの協奏~」は、小山進氏が、大胆に素材を使い昨年発表した特別な4粒のチョコレート「SUSUMU KOYAMA’S CHOCOLOGY2018」を中心に、料理と、小林武史氏がピアノで奏でる音楽を楽しむ、東京と京都で開催された食と音楽のライブイベント。
京都での開催の会場となったcenciは、平安神宮に隣接するリストランテ。オーナーシェフを務める坂本健シェフは京都に生まれ、いくつかの有名店で料理長などを務めたのち、京都・岡崎にcenciをオープン。生産者とのつながりを大切に、厳選した素材を用いた食へのアプローチで全国的に注目を集める人気シェフだ。
昼と夜の二回開催され、このイベントのメインであるショコラに用いられた特徴ある4つの素材と、これまでのショコラで小山氏が用いた3つの素材から、cenciの坂本シェフがこの夜のために創作したイタリアン料理7皿が提供された。
「彼は料理の素材だけでなく、カカオについてしっかり理解をしています。そのうえで今日は、4粒のショコラに僕が込めた思いを読み取り、普段の彼のクリエーションとは違う、今日限りのコース料理を創ってくれました」(小山氏)
この夜、テーブルに用意されたメニューには、2018年に小山氏が手がけた創作ショコラの名前と、スペシャルメニューに使われる素材名のみが記載。これはcenciの通常のスタイルで、料理に使われる一つひとつの素材を分解し、掘り下げて再構築するというしつらえ。丁寧な調理法で素材を融合した料理は、素材のもつ香りや味を、五感をフルに使って感じることで、より深みをもったものとして味わうことができる。
小林武史氏の生演奏からディナーがスタート
煉瓦やタイル、アンティークの照明をインテリアに用いた店内に、この日のために作ったという小林氏のプレイリストから、音楽が流れる。その音楽が鳴り止むと、「みなさんの夢のような一夜のディナーに」と、小林氏の生演奏によるドビュッシーの曲「夢」からスペシャルなイベントはスタートした。
「今回の僕のチョコレートのテーマは「What A Wonderful World」です。
小山氏が一粒のチョコレートに込めたストーリーと共通する
特別な素材を使ったフルコース
演奏に続きサーブされた待望の一品目は、小山氏のショコラ「野菊の香り」からイメージした、聖護院蕪の蒸しもの(写真左)。聖護院大根の鬼おろし、鱈の雲子(タラのくもこ)のフリット、鶏節でとったスープには香り付けに野菊の花、鮎の魚醤と塩麹、トッピングにはフルーティな香りのある野菊をゆずのように使い、葉の苦みもほんのりきかせている。「台湾野菊のフルーティな香りをうまく使ってくれました。みなさん、この香りを覚えておいていただくと、料理のあとのショコラにつながっていくと思います」と小山氏。
二品目は小山氏のショコラ「humor(ライム&パクチー)」からインスピレーションを得たペルシュウ(生ハム)のクレープ(写真右)。ラップサンドのようにくるくると巻いていただくと、ライム、パクチーの酸味とペルシュウのうまみ、隠し味のカカオバターの風味が口いっぱいに広がる。
三品目は、「赤紫蘇のプラリネ」からインスピレーションを受けた、甘鯛のフリットのサクサク食感の衣が楽しい一品。(写真左)。ヘーゼルナッツのナッツ感を活かしたプラリネのソース、皮の部分に赤紫蘇パウダーをふりかけ、菜の花の緑が目にも鮮やか。四品目は、醤油の新しい可能性を求めて小山さんが創作したショコラ「醤油エピス」にインスピレーションを得たリゾット。「ショコラから逆算して、『こういう料理を食べてこのショコラのアイデアが浮かんだんじゃないか』と思われるようなイメージで創りました」(坂本氏)というように、遊び心とクリエーションにあふれた一品だった。
五品目は、カシスの新芽、海老芋のフリットが添えられた炭火焼きの鴨のソテー(写真右)。プレートに添えられたカシスの新芽を指ですりつぶし、その香りを楽しみながら料理をいただく。「嗅覚でカシスのスパイシーさと緑の香りを感じながら料理を食べてもらうと、あとで食べていただくNo.3のチョコのガナッシュに閉じ込めた、カシスの新芽の香りをより深く味わっていただけると思います」(小山氏)
六品目には、小山氏のショコラに使われているメキシコ・オアハカ州産の燻製の唐辛子「チレパッシージャ」と、カカオの親戚である「マカンボ」を使ったパスタが登場し、いよいよ締めのデザートの七品目。ペルー産のカカオ「チャンチャマイヨ」とカカオニブが香るショコラからのインスパイアで創ったチュイールと、マスカルポーネのムースに、玉露のアイス、さりげなく香る胡麻、金柚子のパウダーと花びらを散らした詩的なプレート(写真上)。この後に続くメインの4粒のショコラに余韻をつなぎバトンを渡す、絶妙なデザートだった。
そして再びステージに小林武史氏が登場し、
音楽とショコラとの共演がスタート
4粒のショコラが入った正方形のボックスは、毎年創作のテーマに合わせてパッケージのカラーを変えている。「テーマを反映した色あいにするために色を重ねてオリジナルの色を創っていただくこともありますが、そのプロセスは、味を重ねていくように創るショコラの創作プロセスに似ています」(小山氏)
蓋を開けるとNo1.の「野菊の香り」、No2.の「赤紫蘇のプラリネ」、No3.「カシスの新芽~ロマネコンティ・フィーヌ・ド・ブルゴーニュのアクセントで~」、No.4は「オアハカ〜香りと刺激の二重奏〜」が、美しくパッケージされている。
「それぞれのショコラに使われているのは、台湾の高地に自生している野菊を天日乾燥して生まれた「芳香小野菊」、今まで出合ったことのない香りをもった和歌山県産の「赤紫蘇」、フランスで出合った「カシスの新芽」、メキシコ産の「チレ・パッシージャ・デ・オアハカ」という僕がメキシコシティから1時間の場所で出合った唐辛子の燻製です。この唐辛子は古代アステカ文明でチョコレートが飲み物だった時代に、当時の王様がその中に入れていたであろう、神秘的なスパイスです。僕が出合った素材で、その時々の感性を表現したチョコレートをつくりました」
その4粒のショコラにインスピレーションを得て、一粒に対し一曲の楽曲をセレクトし、生演奏をする小林氏は今回のイベントについてこう話す。
「シェフの坂本くんがチョコレートに入った4つの要素を大胆に取り入れて料理をつくってくれましたが、奇をてらったかたちになっていないのは「さすが」のひと言。彼の料理はこれまでも食べているんだけど、本当に腕のいいシェフだと改めて思いました。そして、最後に用意されているのが、小山くんのショコラと音楽のマリアージュです。本当は一粒で2〜3曲やりたいくらい、小山くんのチョコも実に饒舌だし奥が深いですよね」
小林氏は自身のインスト曲「手紙」やBank Bandの「to U」などを、この夜のための特別アレンジで生演奏。店内に響くしっとりとしたピアノのメロディは、小山氏のショコラの味わいと呼応しながらさらに深く京都の夜を彩っていく。
「食と音楽、ショコラの組み合わせで僕が伝えたかったのは、人を喜ばせたり、感動させるのは、どんな仕事をしていても一緒だよ、ということです。そこで必要なのが、たくさんあるものから面白いものを見つけ出す力と、それを実現する行動力です。だから異業種で一緒に表現するということは、これから活躍する若手に対して、安心して表現していいよ、どんな仕事も一緒だからということをメッセージとして伝えることなんです。ただし大切なのはリアリティ。音楽でも食でもリアリティがなければ伝える必要もありません。このイベントを通じて、美味しさだけではなく、ショコラは夢を与えてくれるものであり、楽しいんだということを知っていただければ嬉しいです」と、締めくくった。
【イベントDATA】
イベント名:「MIXOLOGY ~ショコラ・音、 そして食をめぐるクリエイティブの協奏」夜の回
出演:小山進(パティシエ エス コヤマ)、小林武史(音楽家)、坂本健(「cenci」オーナー)
開催場所: cenci (チェンチ)
住所:京都府左京区聖護院円頓美町44-7
http://cenci-kyoto.com