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貴重な楽譜も取り揃える、輸入楽譜専門店
「アカデミア・ミュージック」
大熊健郎の東京名店探訪

2020.9.6
貴重な楽譜も取り揃える、輸入楽譜専門店<br>「アカデミア・ミュージック」<br><small>大熊健郎の東京名店探訪</small>
ベートーヴェンの自筆譜に感動する大熊さん

「CLASKA Gallery & Shop “DO”」の大熊健郎さんが東京にある名店を訪ねる《東京名店探訪》。今回は本郷にあるクラシック音楽を深く愛する人が集う老舗楽譜店「アカデミア・ミュージック」を訪れました。

大熊健郎(おおくま・たけお)
「CLASKA Gallery&Shop “Do”」 ディレクター。国内外、有名無名問わずのもの好き、店好き、買い物好き。インテリアショップ「イデー」のバイヤー&商品企画、「翼の王国」編集部を経て現職。
www.claska.com

佐久間和男さん
代表取締役社長。勤続50年以上。楽譜・音楽書案内の「アカデミア・ニュース」を発行したり楽曲を分析する「アナリーゼ講座」をを主宰

うまくないのに道具には凝る。そんな人は多い。ゴルフにカメラに釣り道具。家人に軽蔑的なまなざしを向けられようとも肝心の腕ではなく道具ばかりに磨きをかけてしまう……。

かくいうわたくしもその一人、いろいろあるのだが、そのひとつが楽譜。40代になってはじめたピアノは一向に上達しないのに、憧れの曲の楽譜をつい買ってしまい山積み状態。まあ楽譜くらいならかわいいものだと思うけれど。

楽器であれ合唱であれ、音楽に親しむ人にとって楽譜は不可欠だ。特にプロの演奏家や音楽指導者、音大生といった方々にとっては取り組む曲の幅から言ってもより専門性が求められる。そんなクラシック音楽を深く愛する人が集う老舗楽譜店が本郷にある。

アカデミア・ミュージックが創業したのは1947年。創業者はもともと輸入商社に勤める一方で、ヴィオラ奏者として活動するほどの音楽愛好家だった。当時輸入楽譜は貴重かつ入手は困難。まして決してメジャーとはいえないヴィオラの楽譜となるとなおさらである。そんな事情もあり、自らの必要だけではなく音楽仲間たちの要望を受けているうちに輸入楽譜商として創業するに至ったという。店には常時5万冊の商品を取り揃え、現行の楽譜はもちろん、作曲家全集やファクシミリと呼ばれる作曲家の自筆譜を復刻したものなど貴重なものも多い。

創業以来、洋楽譜ひと筋。日本の楽譜はほとんど扱わない。その理由を大行の佐久間社長にたずねると「楽譜の世界の深さでしょうか」とひと言。その言葉の背景にはクラシックの作曲家、たとえばバッハやベートーヴェンといった大作曲家たちの現在流通している楽譜が、必ずしも作曲家の意図が忠実に再現されたものとは言えない事情がある。

たとえば自筆譜が複数存在するケース、作曲家自身の悪筆のために校訂者の解釈が異なる場合などもある。よって専門の研究者による新たな「発見」に伴い、楽譜そのものがアップデートされていくという。ゆえに最先端の研究成果としての洋楽譜を紹介することがアカデミアの使命であり、それで手一杯ということでもあるらしい。なるほど確かに深い。

店でベートーヴェンの弦楽四重奏曲のファクシミリを見せてもらった。それはもはやアートである。荘厳で力強く、勢いがあり、また美しかった。これを目の前に広げてひくベートーヴェンはさぞかし味わい深いことだろう。

自筆譜の復刻版は業界で「ファクシミリ」と呼ばれる。「作曲家によってその表現はさまざまで、バッハはとても綺麗な楽譜ですが、ベートーヴェンは見ての通りとても荒々しく、自由です」と佐久間さん。

弦楽四重奏曲変ロ長調 op.130 大フーガ op.133(自筆譜ファクシミリ)
作曲者|ベートーヴェン
出版元|ベーレンライター
価格|8万2544円

店内には弦、鍵盤、金管、木管など楽器ごとに楽譜が並べられる。在庫は5万冊以上に及ぶ

本郷三丁目駅から春日通りを西へ徒歩5分。ビルの2階にある看板が目印

アカデミア・ミュージック
住所|東京都文京区本郷1-28-21 2F
Tel|03-3813-6751
営業時間|10:10〜19:00
定休日|日曜日
www.academia-music.com
※営業時間、定休日は変更の場合あり。詳しくはウェブサイトを確認

photo: Atsushi Yamahira
2020年10月 特集「新しい日本の旅スタイル」


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