箱根《成川美術館》
富士山と芦ノ湖の絶景とともにアートを嗜む
旅の機運が高まりつつあるいま、おすすめしたいのがアート×自然で非日常を体験できる旅。自然豊かな場所に建つ美術館は、アート作品だけではなく建築、ロケーションからも感性を刺激してくれる。
神奈川・箱根の芦ノ湖畔にある「成川美術館」は、館内から芦ノ湖と富士山を望む絶景美術館。ここではどんな体験ができるのか、ひも解いていこう。
現代日本画を中心とした
4000点を超えるコレクション
神奈川県箱根市の芦ノ湖畔に建つ成川美術館は、1988年(昭和64)年4月に個人美術館として開館した。現代日本画に焦点を絞り、その精華を世に問うユニークな美術館だ。とくに戦後の日本画の魅力を広く伝えていくことをテーマとしており、コレクションの総数は4000点を超え、いまもなお増え続けている。
そのラインアップは、文化勲章受章画家・山本丘人の代表作が約150点を中心に、平山郁夫作の作品を約40点(素描を含む)を収蔵。堀文子、岡信孝、牧進、関口雄揮、吉田善彦、毛利武彦、平岩洋彦、岡崎忠雄、小林済、前本利彦、牛尾武、柳沢正人らの作品数は、日本一を誇っている。そのほか、日本で1、2を誇るコレクションとして、森田りえ子、石本正、中野嘉之、平松礼二、木村圭吾、内藤五琅、矢谷長治、吉田多最らの作品群も揃えており、戦後の日本画をさまざまな角度から見つめることができる。
「現代の作家とともに歩む未来の名品を先取りした個性的な美術館が私たちのモットーです」と語るのは、館長の成川實氏。
「新しい日本画は戦後の日本の歩みとともに進展し、経済大国にふさわしい、世界に誇る日本美を築いています。それは、戦前の淡白な日本画とは著しく異なり、余韻豊かで重厚な表現ですが、まだまだ一般に広く知られるには至っていません。現代日本画は、平安時代の『やまと絵』以来の伝統を誇りながらも、色彩を塗り重ね、構図やイメージの刷新や拡張など、芸術として一層の深化を遂げています。国際化した現代の複雑な感情も画背に塗り込められています。そうした新時代の美術運動を画する最初の指標として、昭和23年1月に結成されたのが『創造美術』です。その新しい潮流の先頭に立って日本画を牽引したのが山本丘人であり、その作品が当館のコレクションの中核となっています」
成川美術館の約4000点の作品を収蔵作品は、現代日本画を総観するにふさわしい内容だが、同館の目標はそれだけではないそう。
「新しい日本画の未来を切り開くことこそが当館の真の使命と考えています。停滞することを恐れ、日本画の危機を常に喚起した山本丘人の望みもそこにあったと考えられます。当館は、有名作家・実力作家を顕彰するだけではなく、無名であっても将来有望な画家、世に未だ知られていない気骨のある芸術家たちをいち早く認め、それらの作品を精力的に収集・展示してきました。功成り名遂げた大家の過去の業績だけを追認して紹介することだけが現代美術館の役目ではありません。美術館も画家も生きています。ともに時代の豊かな感情を生き生きと具現化しています」
同館では、50、100年後の日本画の未来を左右する優れた作品が日々生まれている。こうした未来の名画に込められた貴重なメッセージを美術館と来館者がともに読み取ることで、未来志向の日本画家を応援しているのだ。
まるで一幅の絵のような
芦ノ湖の大パノラマ
日本画の魅力を堪能した後に展望ラウンジを訪れると、窓枠の額縁の中に一幅の名画が飾られているかと思わせるほどの、芦ノ湖の大パノラマが広がっている。窓ガラスは総長50mにもおよび、その眺めはまさに絶景。アート鑑賞後にさらなる感動が味わえる。
展望ラウンジの隣にはティーラウンジが設置されており、絶景をゆっくりとお茶を飲みながら愉しめる。窓を正面にした席を選ぶと、名画を独り占めしたような気分になれる。絵とは異なり流れる雲や行き来する船の動きで景色が変化していくため、見飽きることなく永遠に眺めていられる。
箱根・芦ノ湖から将来の日本美術を応援し、いまを生きる芸術家たちの成長を見守る成川美術館。同館は心研ぎ澄まされる豊かな自然の中で、今日も感動を与え続けている。
成川美術館
住所|神奈川県足柄下郡箱根町元箱根570
Tel|0460-83-6828
時間|9:00~17:00
休館日|無休
料金|一般1300円、大高生900円、中小生600円、幼児無料
narukawamuseum.co.jp