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西村京太郎さんに聞いた鉄道旅の魅力とは?

2019.8.22
西村京太郎さんに聞いた鉄道旅の魅力とは?

トラベルミステリーといえば、誰もが名前を思い浮かべる西村京太郎さん。多数の著作の中でも鉄道を舞台にしたものが多い。12の出版社から毎年新刊を出す西村さんは、どんな鉄道の旅をしてきたのだろうか。

西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年、東京都生まれ。ミステリー作家。1963年「オール讀物」推理小説新人賞、1965年江戸川乱歩賞、1981年日本推理作家協会賞受賞

どのようにあんなに多くのトリックが生まれるのか! 西村京太郎さんの作品は、2019年6月で累計630冊。そのうち約500冊が鉄道ミステリーだという。まさに日本のトラベルミステリーというジャンルにおいて、右に出る者のないベストセラー作家である。トリックはもちろんのこと、鉄道旅の気分がしっかり描かれているのも作品の魅力だ。そんな西村さんに鉄道旅についてうかがった。

「鉄道旅の好きなところは、思い立ったらすぐに行けるところですね。昔は時刻表も見ないで、駅に来た電車に行きあたりばったりで乗って……なんて、よくやってました」。

神奈川県湯河原にある「西村京太郎記念館」の2階には、どどーんと大きな鉄道ジオラマが鎮座している。のぞき込むと小さな世界に吸い込まれそうになるリアル感

まだ役所勤めと二足のわらじを履いていた20歳の頃、先生が楽しんでいたのは「日本海で泳ぐ旅」だった。

「年に20日くらい休みがあったので、全部旅に使ってましたね。その頃、東京の海は汚くて泳げなくて、日本海はきれいだから、日本海まで行って泳いでいた。まだ新幹線も走っていない頃です。水着だけ持って鈍行に乗って、海に着いたら泳いで、現地の銭湯に寄って身体を洗って、また電車で移動して泳ぎに行く。旅館に泊まるとお金がかかるから、電車の中で寝るんです。夜中ずっと移動しているから、結構遠くまで行っちゃう。日本海沿いをあっちこっち行ってました」。

原稿は手書きひと筋
西村先生の執筆は原稿用紙を使って手書きが基本。毎日20~30枚書くのが若い頃からの日課。貴重な生原稿は一部「西村京太郎記念館」に展示されており、執筆のスピード感をファンも見ることができる

まだ寝台車もない時代のこと。硬い座席で寝づらいと、電車の床に新聞紙を敷いて寝たりしていたそうだ。

先生の作品でお馴染みの寝台特急ブルートレインにはじめて乗ったのは小説家になってからの取材旅行。

「編集者と二人で、『はやぶさ』と『さくら』に乗りました。この編集者が途中でお酒飲んでいい気持ちになって寝ちゃってて(笑)。しょうがないから私がずっと起きてて、どんなところで途中停車するのとか、そういうのをずっと観察していました」。

執筆は年間12冊をキープ
執筆依頼を受けている12の出版社から、毎年新刊を出す。以前は月刊誌の締め切りが多くて大変だったそうだが、いまは書き下ろしのほうが多いそう

そうした取材から、代表作で鉄道ミステリーの第1作目『寝台特急殺人事件』が誕生したという。

「そういうことはやっぱり実際に乗ってみないと……。車掌さんにも聞きますよ。『この列車の中に、死体を隠せる場所はありますか?』とか(笑)。割と教えてくれます。『ここに隠せると思いますが、鍵がかかりません』とか。そういう情報は貴重ですね」。

トリックは時刻表から
取材旅行は2社分まとめて、年に6回行く。トリックを考えるときは時刻表を参考にするが、実際に乗ってみないと一時停止場所などわからないことが多いそう

最近ブームの高級寝台列車で旅することもあるのだろうか。

「JR九州の『ななつ星』は乗りましたよ。あれは列車に乗っている時間を楽しむ旅ですね。食堂車にピアノがあって、リクエスト曲を弾いてくれましたよ。食事がとても美味しいですね」。

犯人は北が逃げやすい
犯人が北へ逃げることが多いのは、気候が厳しく少し寂しげな風情が漂ったほうが、逃避行にふさわしい絵になるからだそう。南国は逃避行の舞台にしにくいとか

どのように乗る列車を選んでいるのか、いま話題の観光列車や高級寝台列車についても聞いてみた。

「編集部で『こういうおもしろい列車ができましたから』と、誘ってくれます。でもカシオペアは、スイートのチケットが取れなくて、どんな人が乗っているのかと思ったら男性一人で、なんでかと思ったら、列車で乗り合わせた女性に『スイートに乗っているので、中を見たくないですか』って声を掛ける、ナンパの手段だって(笑)」。

ジオラマの中で、殺人事件が発生している様子を探すのも楽しい

もちろんJRなど鉄道運営会社から「ぜひ舞台に!」と頼まれることもあるが、なかなかマッチしないことも。

「高級列車は、名前は出してほしいけど、車内で殺人は困るっていわれちゃって(笑)。あと寝台車がなくなってしまって最近は殺しにくいんだよね」。

最近はプライベートで列車旅にほとんど行けていないのが残念だという西村先生。これまで乗った列車の中で、好きなのは「特急雷鳥」だそう。

「いまはサンダーバードって名前に統一されちゃったけど、特急の名前はいろいろあったほうが楽しいでしょ。同じ路線を走るのでも『特急○○だから乗りたい』っていう人もいるし。あと、『花嫁のれん』という列車もよかったです。注文しておくと、和倉温泉の加賀屋という旅館が、食事とお酒を用意してくれる。温泉ではなく、加賀屋の美味しいものを食べるのが目的です。

地元のボックス席があるローカル線に乗るのもいいですね。地元のおばあさんからミカンをもらったり。ドラマの中だけじゃなくて、本当にくれることが多いんですよ。のんびり走るからゆっくり車窓も楽しめますしね。こういった人や見たことのない風景との出会いも、列車の旅の醍醐味だと思います」。

西村京太郎記念館
住所|神奈川県足柄下郡湯河原町宮上42-29
Tel|0465-63-1599
開館時間|9:00~16:30(最終入館16:00)
休館日|水・木曜(祝日の場合は翌日休)
料金|大人820円(飲み物付)、大高中生310円、小学生100円

文=湊屋一子 写真=若原瑞昌
2019年9月号 特集「夢のニッポンのりもの旅」


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