若き生産者が活躍!
島根の海・畑から食卓へ
|イタリア料理研究家・板倉布左子の美味しい地元自慢⑤
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真に美味しいものはローカルにあり! 旅の目的にするもよし、取り寄せて自宅で楽しむのもおすすめ。今回はイタリア料理研究家・板倉布左子さんが島根県の美味しいオススメを紹介。
板倉布左子(いたくら ふさこ)
島根と東京でイタリア料理教室「エッフェ・コー」を主宰。3〜12月の毎月第4日曜に出雲市内で「サンデー・マーケット・チーボ」を開催するなど、食に関する積極的な活動を行う
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海外からUターンした今岡幸子さんが、化学肥料農薬不使用でハーブを栽培。出雲大社の近くの海水からつくる藻塩と合わせたハーブソルト880円
島根といえば、出雲大社や松江城、出雲そば……。古きよき和のイメージを抱かれることが多い。もれなく私もイタリアから帰国するまではそうであった。約10年間のイタリア生活を終え、生まれ育った島根に戻ったのは2014年のこと。地元・出雲市でイタリア料理教室をはじめたものの、料理に欠かせないハーブがどこを探してもないことに驚愕した。当時の島根では、ローズマリーですら手に入れることが難しかったのだ。あらゆる手段で情報を探していると(ネットよりも人づてが早く確実だった)、なんと近くにハーブ農家がいるという。早速訪ね、「イタリアではこんな風に使います」、「こんなハーブがあったらいいのに!」と熱弁すると、「それならつくられている方がおらいよ(いらっしゃるよ)」と、別の生産者を紹介してくださった。そこからは数珠つなぎのように。知らなかった世界が開かれたと同時に「これ、島根の人が知ったら日々の食卓がもっと楽しくなるのでは?」と思い、仲間とファーマーズマーケットをはじめることとなった。
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雲南市大東町で耕作放棄地を再耕作し、自ら育てたスパイスでつくる。2020年に二人組で起業。食べくらべカレーキット(チキン&ひき肉)1648円
月1回「サンデー・マーケット・チーボ」を開催するようになると、さらにいろいろな生産者に出会うことができた。最近は島根の土地に魅せられたI&Uターンの若者たちが増えてきたように思う。県外を見たことで、島根のポテンシャルを認識して事業を起こし、自然と戯れながら生活することを選んだ若き生産者たち。海外でスパイスに心惹かれた若者は、島根産のショウガや唐がらしに可能性を感じ、自ら生産してスパイスキットをつくる。豊かな海に魅せられた若者は、値段がつけられないからと捨てられていく魚に目を向け、無添加の加工品を生み出している。お茶文化がある地域の特産を発展させ、番茶に野草やスパイス、フルーツの皮などをブレンドした新時代のお茶づくりをする人も見掛けるようになってきた。
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漁師の西川哲平さんが港町の十六島町で2019年創業。新鮮な地魚を使った、無添加・手づくりの練り物が人気。おさかなボール500円(8個入)
すべての生産者に共通するのが、“あるものをあるところで、できる量だけ”ということ。多くの人に届けたい気持ちはあれど、無理をしてどこかに負荷がかかるような生産はしていない。行き届く量に限りはあるが、これがスローフードの在り方なのではないかと最近よく思う。
マーケットがはじまる前、いつも出店者みんなでコーヒーやお茶を飲む。たわいもない世間話が中心だが、ここから生産者同士のコラボで新しい商品が生まれることもある。笑顔とエネルギーが交わっているこの時間は、なんとも心地いい。“美味しい”は、この笑顔とエネルギーから生まれるのだろう。
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実家が茶問屋だった後藤礼子さんがUターンで起業。自ら収穫した野草をブレンドした新感覚の番茶。板倉さんのおすすめは、野草番茶 ふ650円
新しく魅力的な生産者が増えている島根。その生産者たちに会いに行くというのも、これからの島根旅行の選択肢のひとつになるかもしれない。
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izumoクオーレ
オンラインショップ|https://izumocuore.theshop.jp
出雲スパイスラボ
オンラインショップ|https://izumospicelab.com
海咲丸
オンラインショップ(問い合わせから購入可)|https://misakimaru.jp/product/p6
かみや園+
オンラインショップ|https://kamiyaenplus.stores.jp
text: Fusako Itakura
Discover Japan 2024年3月号「口福なニッポン」