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演劇界の奇才・野田秀樹の伝説の舞台がシネマ歌舞伎に!
《野田版 桜の森の満開の下》

2023.9.23
演劇界の奇才・野田秀樹の伝説の舞台がシネマ歌舞伎に!<br>《野田版 桜の森の満開の下》
©松竹

歌舞伎の舞台を映画館で楽しめる「シネマ歌舞伎」。毎月、バラエティに富んだラインナップで全国34の映画館で上映中。9月の上映作品は『野田版 桜の森の満開の下』。2023年9月29日(金)~10月5日(木)にかけて上映される。見に行く前にあらすじや作品背景を予習しよう。

多くの演劇ファンの心を奪った
伝説の舞台を歌舞伎化

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現代演劇界を代表する奇才 野田秀樹が坂口安吾の小説「桜の森の満開の下」と「夜長姫と耳男」を下敷きに書き下ろした伝説の舞台『贋作・桜の森の満開の下』。1989年に“劇団 夢の遊眠社”(野田秀樹が中心となって1976年に旗揚げされた劇団。1992年解散。)により初演されて以来、安吾作品のエッセンスを随所に散りばめた壮大な戯曲、恐ろしいほど妖しく圧倒的に美しい世界観が多くの演劇ファンの心を奪い、常に上演を望む声が聞かれる作品だ。そんな伝説の舞台が2019年に歌舞伎化。本作はその貴重な公演を収録している。

野田秀樹 作・演出の歌舞伎がシネマ歌舞伎となった作品は今までに2作。記念すべきシネマ歌舞伎第1作目となった『野田版 鼠小僧』と、『野田版 研辰の討たれ』。いずれも中村勘三郎主演で上演された舞台を収録しており、今なお多くの観客の心を掴んで離さない作品だ。これまでは古典の原作を“野田版”として歌舞伎化してきたが、3作目となる本作は野田作品としてその名が知られる『贋作・桜の森の満開の下』を歌舞伎化したまさにファン待望の作品である。

初演で野田秀樹が演じた耳男、また耳男が心奪われる妖しく美しい夜長姫は、これまで野田が手掛けてきた歌舞伎公演に父・勘三郎と共に出演してきた中村勘九郎、中村七之助がそれぞれ演じる。さらに三名人の一人オオアマは松本幸四郎(公演当時は市川染五郎)が勤め、人気・実力を兼ね備えた、次代の歌舞伎界を牽引する俳優たちが集結している。

『野田版 桜の森の満開の下』あらすじ

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深い深い桜の森。時は天智天皇が治める時代。ヒダの王家の王の下に、三人のヒダの匠の名人が集められる。その名は、耳男、マナコ、そしてオオアマ。ヒダの王は三人に、娘である夜長姫と早寝姫を守る仏像の彫刻を競い合うことを命じるが、実は三人はそれぞれ素性を隠し、名人の身分を偽っているのだった。
そんな三人に与えられた期限は3年、夜長姫の16歳の正月まで。やがて3年の月日が経ち、三人が仏像を完成させたとき、それぞれの思惑が交錯し…。

野田秀樹と盟友・十八世中村勘三郎

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野田秀樹が作、脚本、演出を担った歌舞伎は『野田版 研辰の討たれ』(2001年8月 歌舞伎座)、『野田版 鼠小僧』(2003年8月・2009年12月歌舞伎座)、『野田版 愛陀姫』(2008年8月歌舞伎座)、そして『野田版 桜の森の満開の下』と現在までに4作。

これらの作品を語る上で欠かすことができないのが、野田氏と常に共に走ってきた十八世中村勘三郎の存在だ。勘三郎(当時勘九郎)からの依頼で、初めて歌舞伎の台本を書き下ろした『野田版 研辰の討たれ』が上演された時の想い出を野田氏はこう語っている。「勘三郎と私は、突然怖くなった。浮かれてこの芝居を作ってしまったけれど、本当に大丈夫か?四十代半ばだった私たちが突然半分涙目になるほど、大きな犯罪をやってしまった共犯者の気持ちになった。初日の舞台が終わった。ありえないことが起こった。かつて歌舞伎座でおこったことのないスタンディングオベイションが起こったのだ。その時の興奮を、私たちは今でも忘れない。(シネマ歌舞伎『野田版 研辰の討たれ』プログラムより一部抜粋)」
こうして二人が中心となって作り上げてきた作品は多くの観客の心を奪った。続く『野田版 鼠小僧』、『野田版 愛陀姫』も夏の歌舞伎座で上演され共に好評を博し、そしていつの日か上演したいと野田氏と勘三郎が思い続けた作品が、『野田版 桜の森の満開の下』だ。
シネマ歌舞伎化に際しての野田秀樹のコメントで、そのエピソードがあかされている。

『野田版 桜の森の満開の下』がシネマ歌舞伎に登場するにあたっては、世紀に跨る物語がある。
前世紀、1998年の正月、故中村勘三郎と、歌舞伎の新作ができないものかと、ワークショップをやった。その際に、歌舞伎役者らが、私の現代劇『贋作・桜の森の満開の下』をベイスに何らかの形を作り、現代劇の役者らが木村錦花作『研辰の討たれ』を何らかの形にした。その時は、どちらもまだまだ歌舞伎にできるような代物にはならなかったが、それでもその時に得た手応えから、換骨奪胎した2001年の『野田版 研辰の討たれ』が生まれた。勘三郎とはその後、いつか『桜の森の満開の下』も歌舞伎にしようと話していた。その夢叶わぬままに勘三郎は「薨(みまか)」ることとなった。その「死」の上に乗っていた「夢」が、形になったのが去年の夏だ。勘三郎は、世を去る数年前「シネマ歌舞伎の『野田版 鼠小僧』、見た?それが思いのほかいいのよ。あれはあれで一つの形だよ」と情熱たっぷりに話していた。
このシネマ歌舞伎『野田版 桜の森の満開の下』には、一見、勘三郎は何一つ関わってはいない。だがその根底には、彼が歌舞伎に賭け続けた情熱がある。世紀に跨る彼の歌舞伎への熱量でここに生まれている。
野田秀樹

勘三郎亡き今ついにその夢が実現し、野田氏と勘三郎の『野田版 鼠小僧』でその歴史をスタートした“シネマ歌舞伎”となって再び映画館で上映される。この機会にぜひ大スクリーンで楽しもう。

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月イチ歌舞伎2023 上映作品
『野田版 桜の森の満開の下』

上映期間|2023年9月29日(金)~10月5日(木)※東劇のみ10月19日(木)まで上映
上映館|東劇ほか全国の映画館にて(詳しくはこちら

坂口安吾作品集より
作・演出|野田秀樹
出演|中村勘九郎、松本幸四郎、中村七之助、中村梅枝、坂東巳之助、坂東新悟、中村児太郎、中村虎之介、市川青虎、中村芝のぶ、中村梅花、中村吉之丞、市川猿弥、片岡亀蔵、坂東彌十郎、中村扇雀
収録公演|2017年8月歌舞伎座公演
本編尺|133分
https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/

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