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伝統技術と“遊び”が生んだ
新ブランド「AMUAMI」とは?
進化を続けるニッポンの伝統工芸【前編】

2023.4.28
伝統技術と“遊び”が生んだ<br>新ブランド「AMUAMI」とは?<br><small>進化を続けるニッポンの伝統工芸【前編】</small>

伝統技術ディレクター・立川裕大さんによる新ブランドが誕生した。その名は「AMUAMI」。遊び心あるプロダクトで、日本の伝統技術と美意識を世界に発信する。

仕掛け人は、この方!
立川裕大(たちかわ・ゆうだい)さん

t.c.k.w代表取締役。伝統技術ディレクター。1965年、長崎県生まれ。「ubushina」をはじめ、さまざまなプロジェクトで伝統技術の領域拡張に取り組む。2016年、伝統×革新を実現する匠に贈られる「三井ゴールデン匠賞」を受賞

立川さんが手にしているのは、AMUAMIの作品のひとつ「五輪塔」。神奈川産の木地に東京産の金属製容器を入れ、埼玉県で和紙を貼って仕上げた手元供養品

AMUAMI(編阿弥)
中世日本で活躍した阿弥と呼ばれる芸能者たちになぞらえ、日本の伝統工芸を“編集”する“阿弥”となるべく命名。職人とともに遊び心をもってプロダクトを生み出し、日本の伝統技術を世界に発信する

編阿弥庵
住所|東京都渋谷区神宮前(住所非公開・完全予約制)
問|info@amuami.com

日本の職人文化と美意識を発信すべく誕生したブランド・AMUAMIのショールーム。ギャラリーのような雰囲気のスペースに、立川さんが全国各地の伝統工芸の職人とともにかたちにしたプロダクトが並ぶ

〝アワセ〟の手法で伝統工芸を編集する

この春、日本の職人の仕事を世界に発信するブランド「AMUAMI」が動きはじめる。日本語では「編阿弥」と書く。
 
「中世の日本には能楽の世阿弥や作庭の善阿弥をはじめ、阿弥号を名乗る一芸に秀でた方々がいました。技芸を極めた彼らは、将軍に近侍して同朋衆と呼ばれ、側近としての雑事だけでなく唐物の目利きや立花、茶の湯などにも携わりました。そうして多様な芸能が花開き、同時に、芸能にまつわる道具や品物をつくる職人の技が磨かれてきたのです。言い替えれば、阿弥たちは日本の美意識や価値観を編集し、文化として次世代につなぐ存在でした」
 
これまで、伝統技術の職人と建築家やデザイナーの間をつなぎ、空間に応じた家具や照明器具、アートオブジェなどを製作する「ubushina」をはじめ、数々のプロジェクトで日本の伝統工芸、職人技の魅力を発信してきた立川さんは、いまこそこの阿弥の力が必要だと考えた。
 
「日本の伝統工芸には、ヨーロッパのラグジュアリーブランドに負けないデザインと技術がある。でもそれをブランドという束にして発信する力がない。AMUAMIは、全国各地の伝統工芸を〝編集〟する〝阿弥〟として、日本の職人の現代的な手仕事を世界に発信していきたいと考えています」
 
AMUAMIの根底にあるのは、日本ならではの美意識だが、プロダクトで日本らしさを前面に表現するだけではない。大切にするのは遊び心だ。
 
「いまの世の中には遊びが足りないでしょう? もっと文化に軸足を置いて遊んでみたいんですよね。職人と一緒におもしろがりながら、チャレンジしながらつくるからこそ、未来の骨董になり得るようないいものができるし、技術も育つ。そうしてはじめて、伝統工芸の未来が見えてくると思います」

また、古来日本人が育み、楽しんできた〝アワセ〟の手法も意識している。
 
「ものだけでなく時代や地域など多様な要素を掛け合わせ、重ね合わせ、競い合わせて、シリーズで束ねる。日本の文化芸術の根本には、敬愛する松岡正剛さんの言葉でもある〝アワセ、カサネ、キソイ、ソロイ〟があります」
 
ファーストコレクションのうち、〝アワセ〟の手法の象徴ともいえるのが石英シリーズだ。
 
「時を経ても変わらないガラスと、時とともに移ろう漆や箔という、相反するものを掛け合わせました。それぞれモダニズム、わびさびを代表する素材という意味でも、両極端にあります。日本人は、相反するものを組み合わせて共存させるのが得意。そこに〝アワセ〟ならではの美が生まれます。さらに石英シリーズには個人的な想い入れもあるんです。モダンデザインからはじまって、いまは日本の伝統技術と向き合っている、僕自身のキャリアの象徴みたいだなとも思っています」

伝統技術×現代デザイン「ubushina」の歩み

「Hotel CLASKA」(2003年)
ホテルのリノベーションにあたり、照明器具や家具など、内装のさまざまな意匠に日本の伝統技術を盛り込み、伝統技術と現代のデザインとを融合するモデルケースを確立した
「HOUSE IN TOKYO」(2009年)
ロンドンにあるインテリアデザイン事務所とのコラボレーションによる都内の邸宅。一見、モダンな空間に仕上がっているが、日本の伝統技術をふんだんに用いている

相反するものが共存し、100年先の美を紡ぐ

純度が高く、耐熱性・耐食性に優れる石英ガラスと、塗り上げから100年して完成するともいわれる漆を掛け合わせた。ガラスのエッジを立たせた塗りには、高度な技術を要する

不変的なガラスとうつろいゆく漆や箔を融合
ガラスは、イーストンテックが最新技術と職人技を駆使して切り出し磨き上げ、漆は富山の駒井漆器製作所が塗り重ねた。漆は使うほど色つやを増し、いずれはかすれて違う色の漆が顔を出し、根来(ねごろ)になる。金箔は石川の箔一が、組紐は東京の龍工房が手掛けた。

ガラス…イーストンテック/栃木
漆…駒井漆器製作所/富山
箔…箔一/石川
組紐…龍工房/東京

八掛 L Hakke (large)
価格|22万円(予定)
サイズ|W250×D170×H30(底W226)㎜
素材|石英ガラス+漆塗

八掛 S Hakke (small)
価格|15万円(予定)
サイズ|W150×D150×H30(底W96)㎜
素材|石英ガラス+漆塗

四分ー Shibuichi
価格|18万円(予定)
サイズ|L230(W228×D119×H43)㎜
素材|石英ガラス+漆塗

日月 Hizuki
価格|16万円(予定)
サイズ|φ130×H65㎜
素材|石英ガラス+24k金箔

関守 Sekimori
価格|10万円(予定)
サイズ|W150×D80×H70㎜(ガラス部のみ)
素材|石英ガラス、組紐(絹)

半導体製造に欠かせない石英ガラスや光学ガラスを中心に、オーダーメイド品加工を行うイーストンテックは、焼き・切削・成形・研磨・ねじり・まげ加工まで対応する

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text: Miyu Narita photo: Tomoaki Okuyama, Kazuhiro Shiraishi, Taiki Fukao
Discover Japan 2023年4月号「すごいローカル見つけた!」

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