神奈川県・横須賀市
《ワインの樹 AKIYA》
三浦半島に誕生した
一棟貸しにもなる美味しい店【前編】

いま日本の食や旅を語る上で外せないキーワード「ローカル・ガストロノミー」。その担い手たるは移住したシェフ。その地域の食材や文化に惚れ込んで移住したシェフだからこそ魅せるローカル体験とは。
逗子、葉山の隣で、最近にわかに移住人気が高まっている横須賀・秋谷エリア。のびやかな環境、海山の優れた食材の宝庫であるこの地に魅せられ、2022年夏、東京・恵比寿で人気イタリアン「ワインの樹」を営むオーナーシェフ・佐久間奈都子さんが、美食空間を開いた。
三浦の食材を生かしたやさしい料理とワイン
木の温もりを感じる9席のカウンターで供される料理は、「おまかせ」一択。品書きはないが、自由度は高い。たとえば、前菜とメイン2皿で軽くでもいいし、5〜6皿のコース仕立てでもOK。下ごしらえしながらお客の様子を見て、「お腹減ってる? もう少し食べたい?」と、食べ手の心と身体を推し量り、その日の食材でメニューを采配するのが佐久間さんの必殺技。
「私にとっては、お客さんは子どものような存在。だから身体に負担にならない、ほっとする味を食べて元気になってほしいの」
生に満ちた食材を簡潔に調理し、生きるエネルギーに変換する「佐久間さん的オカン料理」。その滋味深い一皿ひと皿に、ソムリエの本領発揮で供されるのは、吟味したイタリアと日本のワイン。料理の重さと色に添わせた絶妙なペアリングが幸せをかき立てる。
しつらえも、ワインを飲みやすく座り心地よくと特注した椅子、シンプルな料理が引き立つうつわなど、居心地へのこだわりがあちこちに潜む。

彩りの美しい前菜。ウイキョウの緑葉、生のカリフラワーに、アクセントは熱烈ファンが多いビーツのピューレ。ハーブの香りとビーツのコクのある甘みが響き合うひと皿に、「醸造家の姿勢を応援している」宮城県のワイナリー「アルフィオーレ」のロゼ泡が寄り添う


塩水でじっくりゆでて、旨みを引き出したウイキョウの根に、オリーブオイルをまとわせた、シンプルで潔いひと皿。柑橘をぎゅっと搾って味変すれば、イタリア中部マルケの白ワインの爽やかさが一段と合う


イタリアの家庭料理の定番、チーマ・ディ・ラーパは蒸し煮にして。菜花のほのかな苦みにクリーミーなそら豆のペーストは絶品! お供は飲み口軽やかな宮城県のワイナリーの人気シリーズ「NECO」の白ワイン


朝捕れの新鮮な太刀魚は、さっと炙って軟らかな白身に香味をプラス。チコリの一種であるプンタレッラをローマ風サラダに。シャキシャキ食感がアクセント。南イタリア・フィアーノ種の白ワインが風味を添える


旬のブロッコリーをくたくたに煮崩してソースにしたリガトーニは緑の風味にほっこり。南イタリア・ブーリア地方で馴染み深い郷土パスタには、同じく海が近い産地の白ワインの取り合わせがベストマッチング


旨みが深い「和豚もちぶた」はシンプルに塩とコショウでカリッと焼いて。芋のようにほくほく甘い、グリルしたニンジンをつけ合わせて。食べ応えのあるひと皿を、北イタリアのやさしい味わいの赤ワインが受け止める

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text: Reiko Oishi photo: Maiko Fukui
Discover Japan 2023年3月号「移住のチカラ!/移住マニュアル2023」