悦凱陣 山廃純米 無濾過生原酒 赤磐雄町〜握りに辿りつけない鮨屋「中井 玉寿司」松澤伸一さんが“恋”に落ちた酒。
新宿区中落合にある1965年創業の鮨屋「中井 玉寿司」。次から次へと出てくるつまみと日本酒に、「握りに辿りつけない鮨屋」と話題のこの店を切り盛りするのが、二代目の松澤伸一さんだ。彼が「日本酒提供のフィナーレを飾る酒」と愛してやまない「悦凱陣」の魅力について語る。
この店は25年前に初代の父から急に継ぐことになったのですが、当時、父が出していた日本酒は「櫻正宗」のみ。継ぐにあたって、まず築地に通って1年半ほど魚の勉強をした後、日本酒もいろいろ置きたいと思って、お客さまに「味ノマチダヤ」を紹介してもらったんです。最初は売れる日本酒を探していたのですが、いろいろ飲んでいたら、料理が美味しくなる酒や酔い心地のよい酒といった違いがわかるようになってきて。自然と旨口のしっかりした酒を求めるようになったとき、「悦凱陣」の古式ゆかしいラベルが目に留まりました。
それで買って最初に飲んだら、違和感にも近い「なんだろう」という印象。これまで飲んだ日本酒と違って、後引く味がおもしろくて。そこから見かけるたびに買うようになりました。もう気になって仕方なくて。まるで恋のような(笑)。はじめて飲んだのは加水のレギュラーの純米酒だったのですが、後で飲んだ無濾過生原酒が輪をかけて複雑味があっておもしろくて。それから笹塚にある〝無濾過生原酒の神さま〟のような酒屋の店主さんにいろいろご指導いただいて、蔵元杜氏の丸尾さんを紹介していただきました。いまでは蔵に訪れたり懇意にさせていただいていて、お店にはBYやタンク違いでかなりの種類を揃えていますね。
「悦凱陣」でまず共通するのは、讃岐のお酒なので醤油と相性がよいこと。その中でこちらは、岡山の赤磐地区で採れたもので、一定基準を満たした酒米だけが名乗れる「赤磐雄町」を使用しています。特徴は、まず「備前雄町」よりタップリした太い味。大地の穀物を感じる香りで、米をそのまま食べているようなパワフルな旨みなんですが、料理に寄り添ってくれるんです。そこがすごい。以前は野性味が前に出ていましたが、ここ数年、キレ味が増してきてより洗練されてきています。それに伴って定石の常温やお燗だけでなく、冷酒でドライに飲んでも美味しい。味が膨らんだ後にゆっくり燗冷ましして、味わいの変化も楽しめます。振り幅が大きいんです。
当店では、日本酒を組み立てる流れの中で終盤に提供することが多いですね。たとえばポン酢でいただくカワハギの肝やタラの白子ポン酢、煮穴子の炙りといった濃い味のしっかりした肴に合わせて。僕は日本酒を出す順番は、お客さまごとにドラマを仕立てるストーリーだと考えていて、「悦凱陣」は、その最後に導きたい大団円を飾るのに、まさに理想の酒ですね。
個人的に感じるのは〝いい日本酒〟って〝料理を呼ぶお酒〟。そして、何が食べたくなるか具体的であればあるほどいい。「悦凱陣」は、その代表格だと思います。
文=藤谷良介 写真=上樂博之
2019年1月号 特集「風土を醸す酒」
「悦凱陣 山廃純米 無濾過生原酒 赤磐雄町」
店頭価格:500円/90㎖
原料米:赤磐雄町
精米歩合:68%
使用酵母:熊本9号
製造区分:純米酒
アルコール度数:18〜19度
問:丸尾本店
1|仙禽 ナチュールアン -「GEM by moto」千葉麻里絵さん
2|木戸泉 特別純米 無濾過生原酒 PURE PURPLE 2017 – ブーラフ・ドミトリーさん
3|義侠 純米吟醸原酒 50% -「umebachee」梅澤豪さん
4|不老泉 山廃純米吟醸 無濾過生原酒 亀の尾 -「根津 日本酒 多田」多田修平さん
5|悦凱陣 山廃純米 無濾過生原酒 赤磐雄町 -「中井 玉寿司」松澤伸一さん
6|神亀 阿波山田錦 二年熟成酒 –「神田 新八 本店」佐久間丈陽さん