塩田元規が薦める、いま読んでほしい本
混沌とした世に見るべき羅針盤は「自分の中にしかない」と語る、アカツキ共同創業者の塩田さん。“この後”、真に幸せな社会を国を創るため——。心の扉を開ける4冊を選出してもらった。
塩田元規(しおた・げんき)
1983年、島根県生まれ。横浜国立大学電子情報工学科を経て一橋大学大学院MBAコース卒業。2008年DeNA入社。’10年、香田哲朗氏(現代表)とアカツキを創業し、モバイルゲームで数々のヒットを生む。’17年、東証一部上場。著書に『ハートドリブン 見えないものを大切にする力』
「奪い合わない」理想の世界
2010年、わずか3人でマンションの一室から創業した「アカツキ」。いまや大ヒットモバイルゲーム『八月のシンデレラナイン』や、横浜駅直結の新しい複合エンタメ施設『アソビル』等で知られる、注目の成長企業だ。
躍進の原動力が創業者・塩田元規さんが掲げるビジョン「ハートドリブン」。それは心ワクワクする内側からの感情に基づいて意思決定するというユニークな考えで、生き馬の目を抜くビジネスシーンで異色のスタンスだ。
しかし、塩田さんは「新型コロナウイルスは、価値観の変化が広まるきっかけになるはずだ」と言い切る。「これまで当たり前だった資本主義システムが変わらざるを得ない状況。ただ新型コロナウイルス自体は未知の部分がたくさんある。見定められないわけですよね。そんなときは内側、心の中を見るしかない。外的要因がどうであれ『自分たちはどんな世の中にしたいか』を見つめ直す。外じゃなく、そこに答えがあるから」。
心の中をのぞく指南書として教えてくれたのが『アミ 小さな宇宙人』だ。1986年にチリのエンリケ・バリオスが書いた小説。主人公の少年が偶然出会った宇宙人アミとともに宇宙へ旅立つ。「罪を罰しない世界」や「所有欲がない世界」があると知り、地球が、利己的な欲求のために人を疑い、奪い合う「野蛮な星」と気づかされる。
「一人ひとりの内面を磨いていて“愛”を育てていけたなら争いや奪い合いの必要ってないよね、と当たり前のことに気づかされます。人間はイメージしたものしかかたちにできない。世界を再構築する近い未来のポジティブなイメージを、いまこそ育みたい」
『アミ 小さな宇宙人』
著者|エンリケ・バリオス
イラスト|さくらももこ
翻訳|石原彰二
価格|607円
発行|徳間書店(2005年)
持続的な成功は、内側から宿る
人の内側からわき出る意思、心にフォーカスして行動することが、結果として素晴らしい人生と世の中を生む。この考えをロジカルに後押ししてくれる本が『ビジョナリー・ピープル』だ。
ビジネス、スポーツ、政治などの世界で一過性ではなく永続的成功を収めた人にヒアリング。「なぜ彼らが偉業を残し続けてきたのか」分析する。
「永続的な成功を収めている人は皆、外的な称賛や栄誉ではなく、自らの内面、『自分の内側から聞こえる小さな声に耳を傾け』て行動していた。だから正解が見えにくく変化の激しい世界でもうまくいくわけです。ビジネス書の名作『ビジョーナリー・カンパニー』の作者が書いているため、『心に戻って忠実に動け』と左脳的に理解できるのもいい。僕は上場する前後、少し迷いがあったときこの本に出合って、あらためて自分の抱いたハートドリブンというビジョンを突き進む決心を得られた。大きな環境変化に直面するいま、読んでほしい一冊ですね」
『ビジョナリー・ピープル』
著者|ジェリー・ポラス、スチュワート・エメリー 、マーク・トンプソン
翻訳|宮本喜一
価格|2090円
発行|英治出版 (2007年)
資本主義は、どう変えるか
経済活動の土台となってきた資本主義もアップデートをせざるを得ない状況になっている。では、どのような秩序、ルールが必要になってくるのか?
未来を語るフランスの経済学者で思想家のジャック・アタリが2008年に書いた『21世紀の歴史』が、「いま読むと、示唆に富んでいる」と説く。
「『明日どうしよう?』、『四半期先は?』などと、基本的に人間は短期的な思考をしてしまう。けれど100年、1000年スパンで考えないと見えてこない時代の流れがあります。『21世紀の歴史』が見せてくれるのはそれ。100年単位で人類の歴史をおさらいし、100年後を『21世紀ってこうだったよね』と振り返って未来予測する形式。『行き過ぎた市場民主主義が国家を超えて成り立ち、暴走するだろう。けれど自分よりコミュニティを考え、行動できる利他の精神を持った調和的なリーダーや組織が流れを変える』と説いている。そうありたいと思うし、僕ら日本人が根っこにもつ、和を尊ぶ精神ともフィットする気もします」
『21世紀の歴史 未来の人類から見た世界 』
著者|ジャック・アタリ
翻訳|林 昌宏
価格|2640円
発行|作品社(2008年)
引き継がれていく魂のために
最後に推すのは漫画『スピリットサークル』。中学生の男女の主人公が、実は7度、別の世界で魂を触れ合わせ、ときに殺し合いを続けていた……という輪廻転生を描いたファンタジーだ。
「いくつかの過去の人生、過去生を歩んだ主人公たちは、過ちを繰り返しながらも、次第に過去生の憎しみや思い残しから学び、許していくんですね。輪廻転生があるかわからないけれど、僕らが過去に生きた人たちからの意思を引き継いで生きている。そして未来へとそれを引き継ぐのは確か。自分だけのためじゃなく、そんな受け継がれた生命まで感じつついまの人生を真っ当に生きたい。そう思わされます」。
『スピリットサークル (1)』
著者|水上悟志
価格|628円
発行|少年画報社(2012年)
取材=2020年4月14日
text=Koki Hakoda photo=Kazuya Hayashi
2020年6月号 特集「おうち時間。」